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complice 第1話

 


 complice

   第1話









 
 
 ぼんやりと見ていたグラスの中の氷が動いて、春歌ははっとした。
 その場に居たのに、まるで見えて無かったすぐ目の前の窓の向こうが目に映る。

 引き戻された意識でもう一度耳を傾ける。今日は、初めての打ち合わせだった。会議室のテーブルには10数人がついているとはいえ、進行役はホワイトボードをコツコツ叩きながら熱っぽく語るのに夢中で、春歌の放心には全く気付いていないようだった。

 手元の資料をもう一度めくる気にはなれなかった。

 今、一番視聴率が取れると言われているドラマ枠で始まる新番組。
 その新しいドラマに、「女性に人気の高いアイドル歌手役」 として出演するのは自分の恋人だった。喜ぶべきはまり役。

 しかし。
 資料に目を通し、様々な説明をされたこの会議の途中、手放しで出演を祝う気持ちが完全に削がれてしまった。

 「神宮寺くんはね~。女性をとっかえひっかえする悪い男の役なんでねぇ~、キスシーンとか頻繁にあるんでね~。ま、宜しく頼むよ~。でも、お相手は今をときめくアイドルや女優さんなんで、美味しいと思って頂戴よ~。」

 所謂エライ人、という立場の恰幅の良い中年男性の調子だけは良さそうな言葉は、音楽担当として会議に出席した春歌の心にぐさりと突き刺さった。

 エライ人にそう言われ、短い優等生的な返答と、営業スマイルでにっこりと返した恋人の笑顔は、それこそ悲しくなる程に憂いが無かった。




 


 「ハニー、ごめんね。でも仕事だ。ああ返事するしかなかった。判ってくれ。」

 そんな事は判っているのだ。
 なのに、上手く笑えない。自分の子供っぽさに呆れてしまう。

 「あの、大丈夫です。ああいうのって、撮影の仕方で、ほんとにしてるように撮ってくれるんですよね。」

 必死で、好きな人の応援が出来る彼女。を作り出そうとしたのに、春歌はそこまで嘘が上手くなかった。春歌の引き攣った頬を見たレンの顔が一瞬で曇る。

 「あのね、ハニー。・・・・・どうせ知られてしまうから先に言っておくけど、あの監督は・・・そういうのは、ダメなんだ。だからハニーに、俺の事を信じて耐えてもらうしかない。・・・すまない。」

 仕事が終わってからやってきた恋人の部屋で、春歌はまた胸に、鉛に近い重い何かを抱え込まされた。

 仕事だから仕方ない。その免罪符は、こんな職業にこそだと実感した。判り切っていた筈なのに、いざ現実に自身に起こったら、話にならない程簡単に打ちのめされた。自分の弱さがあまりに自分の想像を越えていて、辛い。

 そっと、レンが彼女の手を握る。
 
 大きな手は、いつもドキドキしたり、ほっと安心させてくれる手で、愛しい。良くも悪くも、春歌の頭を真っ白にしてしまう魔法をかけられる手。そう思えば思うほど、今日は胸が締め付けられるのを感じ、春歌は顔を逸らした。

 「ハニー・・・。ごめんね。でも、ああ言ってるけど所詮ゴールデン枠だ。そんな気にするようなシーンは、そうそう無いはずだよ。小学生でも起きてる時間だからね。前のも、その前のドラマだって、そんなシーンはほとんどなかった。どっちかって言えば遠目で撮影した感じのシーンが多かったしね。だから、心配しないで。」

 「でも、台本にはもう、3話までで6回も・・・。」

 「ははっ、それはちょっと酷いな。その回数だと、ヒロインの回想シーンの分も入ってるじゃないか。回想は同じシーンを使い回すだけだから、それを数に入れられると俺も辛いな。」

 レンが困ったように笑って、春歌の頬をなぞる。
 春歌は返す言葉が見つからなくて、その手に自分の手をそっと重ねた。

 その華奢な手を取り、無言で口づけたレンが目を伏せて静かに呟く。

 「ハニー、許してくれる?」

 そんな聴き方はずるい、と言いたいのをぐっと我慢して春歌も目を伏せた。

 許すも許さないも、この問題に私の意思など介入出来ないではないか。介入させたら私はただの子供だし、神宮寺さんがそれをだからと言って受け止めて仕事を降りられる筈もないのでしょう。

 そう、誰が悪い訳でもない。
 
 言いたい内容は、実際は言葉に出せなかった。

 誰が悪い訳でもない。

 繰り返し脳内を巡るそんな言葉は、大人が自己中心的な考えを肯定する体の良い方便だと思っていたから、自分がそんな場面に置かれた今が切ない。

 そして、そんな気まずさをごまかすように、彼の手が熱を帯びて背中を滑り降りるのが更に切ない。

 どうしてこんな時にこんな事するの? 本当はそう尋ねたい。だけど、尋ねたところでどうにもならない空気が生まれるだけだ。彼も、こうするしか糸口が見つけられないのだ。それが判るから、尋ねられない。

 こんな切ない夜は、ほしくない。
 
 でもそんな気持ちも、あっという間に真っ白にされて、また二人で朝を迎えるのだ。
 彼も必死で振り切っている。きっと。恋人に申し訳ないという個人的な気持ちを、仕事だから閉じ込めている。それは解るのだ。

 だとすれば、自分はどうする?

 春歌も多少大人だ。
 自分の気持ちのやりきれなさよりも、二人して同じ路頭に迷ってる今この時をどうするかを考えた方がいいと、気持ちを切り替える。
 
 だが、気持ちを切り替えて考えるも、キスの最中の朦朧とした頭では、こたえは一つしか見つけられなかった。頭のいい人には、もっと違うこたえが見つけられるのだろうか。だとしたら教えてほしいと、春歌はぼんやりしていく頭で思った。

 彼の手がいつもより優しいせいか、ぼんやりして行きつつも頭のどこかが妙に冷えていて、いつもと同じような快感が走るのも虚しくて泣きそうになる。

 今は、こんな事をしたいんじゃない。
 こんな事でごまかされたくない。でも、これはごまかしなのだろうか。彼だって、きっと申し訳ないと思ってる。ごまかすつもりなんかじゃないと思える。そんな行き場の無い自問自答が頭の中をぐるぐると回る。恋人同士なのに、求める手があるのに、気持ちがカチっとはまり切ってないのが哀しい。

 ぐるぐる回る思考。

 それでも彼の指が探り当てた場所から、くちゅりと甘い水音がした。
 ふ、と洩れた笑ったみたいな彼の吐息は、少しだけ安堵の気配がする。

 「舐めてほしい? それとも、もう挿れてもいいのかな。」

 彼の濡れた声に春歌は、それが鋏だったかのように何かを切られ、襲ってくる答えの無い心のもやを忘れたくて、ぎゅっと目を瞑り返事をした。

 「もう、挿れて下さい・・・いっぱい、激しくして。」

 「ん、いいよ。今日は、俺も、そんな気持ちだ・・・。」

 
 夜は長い。
 今はぎこちなくても、きっと荒い津波みたいな快楽を貪りあえば、なんとかなるに違いない。
 気持ち良さに総て投げ出してから眠ればきっと、この寂しさに似た気持ちは明日の朝には消えているはずだ。そう願いながら、お互い縋るようにしがみついた。
 





 


 あの夜から暫く、春歌は制作に必死になっていた。
 
 曲作りに没頭してるうちは時間の流れは速いし、頭が曲のみにしか使われてないから気持ちは楽だったりする。
 夢中で好きな何かに打ち込める贅沢。それが仕事で得られるのだから感謝すべきだと常々思う。

 それが例え、自分の恋人が、役ではあっても別の女性とキスする場面で使われるBGMであっても。

 「・・・・・・・・・・イヤ。」


 そこまで考えて、ふと、意識せずに言葉が漏れる。
 
 「いや、です。神宮寺さん・・・。やっぱり、いや。」

 今頃はリハーサルも終わり、撮影に入ってるだろう。
 台本に名を連ねる女優は、今人気が出てきてると噂の、女の自分が見てもため息が出る程可愛いアイドル女優だ。それ以外にも新人の端役ともそんなシーンがあるらしいし、色気とスタイルが売りの王道の美人、といったベテラン大物女優も居る。

 ふらりと鏡の前に立つ。
 
 どこにでもいそうなありふれた顔。いや、それは過大評価かもしれない。どこにでもいそうな、よりももっと可愛くないかもしれない造りの顔。人目を惹けないスタイル。

 どうして自分が、プレイボーイと噂された男と付き合ってるのか疑問だ。

 しかも彼は、単に見目の良い男、というだけではない。日本でも有数の大財閥の御曹司。アイドルの血を持って産まれたお陰か、天性の華があって、見る者を自然と惹き付ける。洗練された立ち居振る舞いは、本当に別世界の王子さまみたいだと、春歌は思う。

 学園で知り合った2人は、色々あった中でお互いの気持ちをひとつにして卒業し、デビューを勝ち取れた。きちんとつきあい始めたのは卒業と同時。

 (鈍くさくて音楽しか取り柄の無い私を、神宮寺さんは可愛いって、ハニーって呼んで愛してくれる。ダーリン、とは恥ずかしくてまだうまく呼べなくて、それ一つとっても私は神宮寺さんに不釣り合い。)

 春歌は、いつもそんな風に考えていた。

 自信が無いから彼を同等に呼べないのだ。
 私は彼に比べて、こんなに容姿も社交性も劣っている。

 芸能界にごまんと居る、人目を引く女性タレント達に囲まれて日々仕事をしている彼にとって、自分との交際は只の気紛れだったとしか思えなくなってくる。悪い方へばかり考えてしまう。芝居とはいえ、自分じゃない誰かと唇を重ねる恋人を思い浮かべたら、寒気がして仕方が無かった。

 きっと自分は捨てられるという悪寒。
 
 涙がぼろぼろ溢れて来て、春歌はそのまま鏡の前で蹲る。
 その時、携帯電話が鳴った。

 「・・・?」

 誰だろう。
 仕事の電話だろうかと、テーブルに置いてあった端末を手に取った。

 「一ノ瀬さん・・・。」

 表示された名前を確認した春歌は、通話ボタンを押した。













 「あ、こちらですよ・・・迷わなかったですか?」

 「はい。」

 トキヤは先に来ていた。
 春歌の姿を見つけるとさっと近寄り、見やすい位置まで連れて来てくれた。

 「突然ですいませんでした。でも君も、見ておいた方がいいと思いまして。」

 「そう、ですよね。はい。丁度曲を作る手が止まってしまっていたので、気分転換が出来て良かったです。誘って下さって有難うございます。」

 ぺこりと頭を下げた春歌見て、トキヤはふっと笑った。
 
 一ノ瀬トキヤ。
 学園時代、Sクラスで一緒だった時からつきあいのある、レンと共通の友人だ。
 
 友人というよりライバルなのかもしれない。
 レンとは確かに性格的はあまり合いそうもないのだが、お互いがお互いの才能を認めているのは確かだった。レンとはまた違うアイドル性と、努力が産む歌や芝居のうまさなど、春歌も色々学業を修める上で刺激をもらった。

 (一ノ瀬さんは本当に真面目です・・・。たった一回ゲストでしか出番の無い番組の撮影をちゃんと見学に来て、頑張ってる。すごいなあ。ウジウジしてないで、見習わないといけないな・・・。)

 本当は、今日だけははっきり言って気が乗らなかった。
 台本を読んだだけでもイヤだったのに、まさかそのシーンの撮影現場を、間近で見る事になろうとは。

 それでも断れなかった。ワガママを言って自己嫌悪に陥るのもイヤだったし、何より、トキヤに理由を説明できなかったからだ。正直に話すのは事務所の方針上言語道断と思われたし、かと言って仮病にしろ嘘を吐くのは忍びなかった。

 数メートル先では、大勢の人間がレンや他の役者達を囲むように動いていた。
 背丈もあり華があるレンは、遠目からでも目立つ。その天性の華は、決して大物俳優にひけを取って無いと、春歌は眩しい気持ちで自分の恋人を眺めた。

 真剣な顔で何かを話しているが、時折、ベテランが場を和ませているようで笑顔が見える。レンの横に居る綺麗なモデルのような役者には覚えが無かったので、あれが新人だと説明があった、相手役の女の子なのかな・・・と、春歌はつい値踏みするような視線を投げてしまった。

 (やっぱり、見たく無かったな。)
 
 などと一瞬思ったが、「あそこからああやってライトを当てると、こっち側がこう映るんですよ。」 などと、小声で教えてくれるトキヤの話は、幾ら自分が表舞台に立たないとはいえ、これからもこのような仕事をする上では一つも無駄ではないと思えた。

 春歌が断れなかった理由には、「曲を作る為に、一度も現場を見ないのと見たのとでは出来あがりに差が出るのではないですか? 」 と、春歌が何かを言う前にトキヤに言われてしまったからでもあった。
 彼みたく、真っすぐに良い作品を作る為に仕事と向きあう人間から 「仕事の為に」 と尤もな理由で誘われたら、断るのは難しかった。

 トキヤは、この作品にはゲストとして一度登場するだけだ。彼の撮影はまだ1週間程後だそうで、その前に一度現場を見学したかったらしい。

 レンと人気を二分するアイドルの役だと資料で読んだ。
 2週間後に発売されるトキヤ自身の新曲が劇中、登場シーンなどで使われるらしい。子役をしていた時代があったとはいえ、歌手、そしてアイドルの一ノ瀬トキヤとしてはまだレンと同様新人の域を出ない彼にとって、新曲の宣伝を兼ねながら更にファンを増やす大きなチャンスで、気合いが違うようだ。

 暫く2人で立ったまま撮影を見ていた。

 「本番!」 という声が響き渡り、スタジオが一種独特の時の停止をする。
 その停止した時間の隅で、トキヤが小声で何かを言おうとしたのか春歌に体を近づけたその時、レンが相手役の女優の肩を抱き、顔を寄せた。

 「・・・!」
 
 息を飲んだ春歌の所作は、すぐ隣に居たトキヤに伝わったらしい。
 
 同じように、あ、と言葉には変えず喉の奥を鳴らしたトキヤの小さな戸惑いが、春歌に伝わった。きっと、自分はひどい顔をしているのだろうと春歌はそのトキヤの様子から悟ったが、どうする事も出来なかった。

 撮影風景から目を逸らした春歌は、音をたてない様にスタジオから小走りに出て行った。
 








            

   To Be Continued・・・







 

 

 

 
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No title

新連載第一話、ドキドキしながら拝見しました。レン&トキヤ押しだったので、嬉しいO(≧∇≦)o
みるくあずきさんの書くレンは結構紳士だったりするので、そこに腹黒トキヤがどう絡んで行くのか…今からワクワクです♪続きを楽しみにしています、頑張ってくださいね!

Re: No title

ナナオさんこんにちは!
コメントありがとうございます。

新しい連載を開始しました (ときメモどうしたって突っ込まんといて下さい・・・あれも書きますんで・・・)
ナナオさんの投票が実現シマシター!
是非、楽しんで頂けたら幸いです。
最後までどうかお付き合い頂けましたらと思います。よろしくお願いします!
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

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拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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