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Little by little 5話

 

 第5話
 

  
 春歌は、声が出なかった。
 トキヤに抱え込まれて雪崩れ込んだ客室のドアの傍で、バランスを崩して倒れ込んでいた春歌の唇を、トキヤが塞いでいたからだった。

 ほとんど横になっているのに近い状態で、トキヤの熱が春歌の口内を襲い続けている。
 あの日、ケーキまみれで絡めた舌など比べ物にならない程の、発狂した高熱。確実に追いつめられる者の顔で、春歌はトキヤに舌で、唇で、蹂躙されていた。

 それはかなり長い時間で、春歌はすっかり息が上がってしまう程だった。

 部屋を訪れる者は誰もいない。
 春歌は、今確かに自分とトキヤがこの部屋に入るのをその目で認識したにも関わらず、踏み込んでくれない音也に対し、悲しさで涙がぼろぼろと溢れ出るのを止められない。

 重なった唇に涙が入り込み、トキヤが、次々に頬に伝い落ちてくるそれにキスをする。

 「・・・泣かないで下さい・・・君を、離したくなかった・・・。音也の元へは、もう行かせたくなかった・・・!」

 腕に力を込め、トキヤは、激情をやっと堰き止めているのだといわんばかりの声音で言葉を紡ぐ。

 「あんな事を言っておきながら・・・・・でも、でももうこれ以上、私は堪えられそうにない・・・。」

 春歌はただ泣く。
 何を言っていいのか判らない。
 悲しさと、トキヤがこんなにも自分を愛してくれているという嬉しい気持ち。
 戸惑い。
 そして、その戸惑いの上にあぐらをかく、自分を好きでいてくれる男に甘えている優越感にも似た高慢。そこに共存する嫌悪。

 何もかもが言葉にし難く、春歌はただ黙って泣いていた。それすらズルいと認識しながら、そうするしかない春歌の髪を、トキヤがそっと優しく撫でる。

 「来ないではないですか・・・音也は・・・。私だって、仕事をしてるから判ります。カメランマンだっています。スタッフ全員に挨拶をして、帰ったのを確認しないうちから、私用に移れない。でも、私が君と今こんな状態でも、彼は来ないんですよ。」

 トキヤにこれ以上話し続けられるのが怖くて、春歌は耳を塞ぐ。
 
 「いやです・・・やめて下さい・・・。もう言わないで・・・。」

 「なぜ? 事実です。彼は、君を迎えに来る気がないのですよ。そんな男に、どうして君を返してあげられるんですか。」

 君を迎えに来る気がない。

 トキヤのその言葉が、春歌の全思考を止めた。

 トキヤの言う通りだ。
 世間の誰がこの状態で、相手の男が別れる気が無いなどと言い切れるのか。自分自身、ずっと感じていた悪い予感だったではないか。春歌は、とうとう突きつけられた現実に打ちひしがれていた。

 「音也くん・・・・。」

 春歌は呆然と、天井を見上げた。
 
 壁を隔てた隣の部屋に居るはずなのに。トキヤに抱えられてここにいる自分を彼は知っているのに。なのに、彼は来ない。それはつまり音也にとって、今この部屋で春歌がトキヤと何をしようと、関知しないと言う事に他ならない。

 ガラガラと崩れ落ちる自分の内側がやけに静かだと、春歌は思っていた。
 静かで、確実な崩落。

 「・・・帰ります・・・。」

 「え?」

 突然の春歌の言葉に、トキヤがきょとんとした。

 「・・・私、帰ります・・・音也くんには、会えないから・・・。」

 「・・・・・・・・・・・。」

 涙が止まり、虚ろな目をした春歌をじっと見ていたトキヤが、頷いて立ち上がった。
 春歌の体を支えながら立たせる。

 「送って行きましょう。・・・今の君は、転びそうです。私にしっかりつかまって・・・ええ、そう。この手を、離さないで下さいね。」

 「そ、れは。」
 
 トキヤの言葉に、春歌が一瞬指を引っ込める。トキヤの手は強くそれを追い、春歌の戸惑った手はもう一度強く握られた。

 「私では、役不足ですか?」

 「そんなことは・・・。」

 目を泳がせて言い淀む春歌を見て、トキヤは俯く。

 「・・・・君は今、私を卑怯だと思っているんでしょうね。傷心の女性に漬け込むなんて・・・でも、私は卑怯でいい。人から何と言われようと構わない。君が、居るのなら。」

 春歌は何も言う事ができなかった。
 音也に捨てられたのだという気持ちだけに押し潰されそうで、正直、目の前のトキヤの顔もきちんと見ていなかった。
 ましてや、そのトキヤの心の中など、考えようとする気すら及ばない。そんな気力は今、彼女に全く無いのだ。

 トキヤはまだ何か言いたそうだったが、虚ろな目の春歌に何かを言うのがムダだと思ったのか、家まで送りますと、もう一度きゅっと春歌の手を握って、片方の手で部屋のドアを開け、廊下に出た。

 
 「!!」

 トキヤは心底驚いたようで、声にならない声をあげていた。
 ドアの向こうに、音也が立っていたからだ。

 春歌も勿論驚いていた。
 だが春歌にとって最も驚いたのは、音也がそこに立っていた事よりも、自分の顔を見る音也の眼差しの柔らかさに驚いたのだった。

 「春歌・・・良かった・・・! 俺、あと少しして春歌が出てこなかったら、ドア蹴破ろうと思ってた。火つけて燃やしてでも、このドア開けてやろうって思ってた。」

 「・・・・・・・・。」

 トキヤは心底驚いた顔をしていたが、音也のその言葉を聞いた瞬間から、冷めたような目で音也を見ていた。
 音也は、トキヤに向き直ると、照れたような笑顔で言った。

 「トキヤ、こないだはごめん。俺が悪かった。」

 トキヤが、また驚いたように目を見開く。 
 無表情を返されなかったので安心したのか、音也はほっとしたように続けた。

 「俺あの時、ショックで頭めちゃくちゃになってたんだ。だけどさ、トキヤが意味も無く女の子に何かする筈ないし、春歌だって、俺との約束がダメになったからって、そんな、浮気するような子じゃないんだ。なのに、あの時あんなこと言って・・・トキヤ、ごめん。春歌も、ごめんね。」

 「音也・・・。」

 トキヤの体が強張ったのを、繋いだ手を通して春歌は感じていた。
 音也にはきっと、それは解らないだろう。トキヤが春歌をどう思っているのか知らない音也には、それも無理もない事だ。

 「春歌、ごめんね。すぐ来たかったんだけど、スタッフの人が全員帰るまでは、どうしても・・・まぁ普段の俺なら絶対放り出しるトコロだけど、今日は、インタビュー終わったら打ち合わせするからって、日向さんが居たんだ。だから、走り出そうとしたのを、何処行くんだ! まだ仕事だ! って止められちゃって・・・。でも日向さん、急におっさんから電話があってすぐに事務所に戻らなきゃなんなくなって。」

 「・・・日向先生がずっと居たら、ココへ来てくれなかったんですか・・・。」

 質問してから、しまったと思った。
 しかしそんな春歌に、音也は笑顔を崩さず言った。

 「うん、もっと遅くなってた。でも、来たよ。絶対、春歌をそのまま放ってなんかおかないよ。日向さんに急用が出来てラッキーだった。だから、やっぱり俺と春歌は、一緒にいる運命だよ。」

 春歌に一歩近づき、音也がトキヤの顔を見る。
 
 「トキヤ、ありがと。春歌が泣いてるの、慰めてくれたんでしょ。迷惑かけちゃったね。もう大丈夫だから。」

 音也が春歌の腕を取る。
 握っていた春歌の手が、トキヤの手から離れた。

 「音也くん・・・。」

 「春歌、ごめん。俺、あんなに怒ったりして、ごめん。」

 「ううん・・・ううん、いいんです。良かった・・・音也くん、私、音也くんに嫌われたかと・・・!」

 「そんなコトある筈ないだろ。俺は君が好きだよ。悲しませてごめんね、春歌。」

 抱きあう2人を見て、トキヤが呆れた声で言った。

 「まったく人騒がせですね。大体、ここは公共の場ですよ。何をしているんですか。」

 「あっ、ゴメン。・・・春歌、部屋に入ろう。俺、今日はココに泊まるから・・・あっ、トキヤ、ごめんね。俺、春歌と2人で話がしたくて・・・。」

 照れてわたわたしながらトキヤに言い訳をする音也の腕に帰れたことに、春歌は心底ほっとしていた。

 さっき傷心で剥がれ落ちた心の欠片が、また鎔かされてカタチづくられ、自分の中に満ちて行くのがわかる。

 だから、今ここにトキヤが居る事が辛くて仕方が無い。音也と仲直りが出来た今、知ってしまったトキヤの心が、自分を理由なく責めている気がしてならない。

 さっき、自分を追いかけた手が、指が、思い出される。
 発狂しそうな熱。押しつぶされそうな切迫した熱。だがそれは、音也の温もりに再度包まれた今、自分に残していてはイケナイものだ。

 そんな春歌の気持ちを知ってか知らずか、トキヤは、あっさりとその場を離れた。

 「私は帰りますよ。ココに居ても、音也に邪見にされるだけですから。」

 「トキヤ、ごめん! ほんっとありがと!」

 大声で手を振る音也を少しだけ振り返り、

 「だから、廊下は公共の場です。煩いですよ、大きな声で。みっともない。」

 眉を潜めて言い放つと、角を曲がり姿を消した。

 誰も居なくなった廊下で、音也が春歌の額にそっと口づけた。
 部屋に入り、言葉もなくベッドの傍まで進む。客室のドアが見えない場所まで来た途端、音也と春歌は思い切り抱きしめ合った。

 「春歌・・・!」

 目眩がするほど強い抱擁。
 掻き抱き、しがみつく。息が止りそうな強さに、酸素が不足し思考が分裂する。

 音也は、暫くすると腕の力を少し緩めてくれた。

 「ごめん、苦しかったよね・・・俺、嬉しくて・・・。春歌が、俺をキライになったかもって、不安だったから・・・。だから、嬉しくて・・・。」

 「私もです・・・。音也くん、連絡くれなくて、私、嫌われちゃったって・・・。」

 「連絡したよ。でも、春歌、話中だったみたいで、繋がんなくて。」

 「え?」

 話中だったコトなど、あっただろうか。
 春歌は、ここ数日の自分の行動を思い出す。話中だったのは、今朝と、あと、いつそんなコトがあっただろうか?

 「え、じゃあ、今日電話くれたんですか?」

 「ん? 違うよ。電話したのはもう前だよ。いつだっけ・・・日にち忘れたけど、湯布院に行った日だよ。」

 「湯布院に行った日・・・? え、でもその日は確か、私もメールしたんですけど・・・。」

 音也がきょとんとする。

 「メール? 来てないよ? だから俺、もう春歌に嫌われたんだって思ったんだもん。何回メールしても、拒否されてて・・・。だから、ほんっと凹んでたよ。メール、ホントにくれたの? え~・・・おっかしいなあ、届いてないけど・・・。」

 「え、そんな筈ありません、だって私ちゃんと・・・・。」

 携帯電話を取り出して確認しようとした春歌の手を、音也が握った。
 
 「音也くん?」

 「もういいよ、そんなコトどうでも。」

 「え。」

 「だって、こうして春歌は俺のコト許してくれた。仲直りしてくれた。今、俺の目の前に、君は居てくれてる。春歌、俺、まだ、春歌の恋人で居ていいんだよね?」

 真剣な目で、一抹の不安を滲ませながら音也が春歌に尋ねる。
 春歌は、音也のまっすぐな気持ちに、それだけに囚われる。

 「はい・・・私こそ、音也くんの彼女で、居させて貰っていいんでしょうか・・・。」

 「当り前だよ!」

 音也が、春歌を優しくベッドに寝かせた。

 「俺には君しか居ないよ。会えなくて、辛かった。でもそれより、俺たちの心が離れちゃいそうなのが、辛くて、怖かったよ・・・。あの時、カっとしてあんなコトしなければよかったって、何度後悔したか・・・。ごめん、本当にごめんね。」

 言いながら、春歌の頬にキスをした。

 「春歌、俺、ちゃんと優しくするから。だから、お願い。してもいい・・・? こないだみたいな酷いこと、2度としないよ。約束するから。」

 「音也くん・・・はい・・・私も、音也くんに触れてほしいです・・・。」

 「春歌・・・好きだよ。」
 
 そう言った後の音也は、確かに優しくはしてくれたのだが、愛撫もそこそこに春歌を求めた。
 急いた指と乱れた息で。切なげな目で、もういれたいと懇願する音也の首に、春歌はそっと腕を回し、頷いた。

 「ごめん、俺、俺っ・・・! 春歌。好きだ・・・!」

 春歌はそれでもいいと思って、音也にしがみついていた。
 
 まだ解れ切ってない秘部に、音也の激情が無理矢理気味に押し込められる。
 暴力的に押し広げられるその感覚は、だがそれも女として、惚れた男から求められている強い悦びになりえる1つの証拠だ。
 
 夢中で自分を抱く音也の熱い体に振り回されながら、心の僅かな1か所が、冷えた感情で燻っていた。
 
 音也の熱で全てを占められるのを邪魔する、小さな言い難い燻り。
 それを音也に消してほしくて、春歌は自分に覆い被さり、夢中になっている彼の腰を脚で抱え込み、キスを強請った。

 「あっ・・・ダメだ、もう出るっ・・・春歌、ダメだよ、着けてないから、このままじゃ中に・・・っ。」
 
 「いやです、もう、もう離れたくないっ・・・このまま、音也くんのを下さいっ、あああっ。」

 「春歌・・・・。」

 音也は、一瞬動きを止めた。

 「好きだよ・・・。愛してる。春歌がいいなら、もし出来ちゃったら、俺、ちゃんと責任取るから。だから、このまま君の中に全部出すからね・・・。」

 

 明日の撮影が早いから、自分が居ると睡眠の邪魔になる、と帰り支度をしようとする春歌を泣きそうな顔で引き留め、音也は嬉しそうに腕枕をして、逢えなかった間の仕事の話しや、自分がどんな気持ちだったかを話してくれた。

 春歌も、それを聞きながら、音也がずっと、自分を好きだからこそ、逢えない状況に落ち込んでいた事実に安心した。何時間も話をし、逢えなかった時間を埋めるかのように、微笑みあってキスを交わした。

 「ちえ~・・・。もう支度する時間かぁ・・・。俺、君と居たいよ・・・。」

 「音也くん・・・。」

 「あ、判ってるよ、俺だって、仕事こんなにあるのは有り難いって思ってるし、春歌に曲を作って貰えるチャンスも増えるんだもん、頑張らないとさ。でもさ、仲直りしたばっかりなのに。」

 「またすぐ逢えます。来週は、オフがあるんですよね。」

 「うん、やっと休みだ~。その日はもう、朝からずっと春歌と一緒だからね!」

 ぎゅううううっと抱きしめられ、春歌は息が止りそうだった。

 「タクシー、来る時間だね・・・。俺、ごめん、誰が居るか判らないから送っていけないけど、気をつけて帰るんだよ。こんな朝早く、まだちょっと暗いからさ。」

 「はい、大丈夫ですよ。タクシーはホテルの入口、目の前に止ってくれるんですから。それまではホテルの中に居ますし。」

 「今日は、夜にならないと連絡出来ないかもしれないんだ。でも、必ずメールするから。」

 「はい。わかりました。音也くん、お仕事頑張って下さい。」

 もう一度抱き合い、深いキスをして、春歌はホテルを出た。

 



 タクシーの中で、春歌は携帯電話を取りだし、アドレス帳を眺めていた。
 音也の名前で登録されたデータを開いた春歌は、意を決してメールを打った。


 
 
 あまり寝ていない。
 だがそれよりも、早くこの燻りを何とかしたくて、春歌はメールを打ったのだった。

 昼下がりの太陽の眩しさを遮るカーテンが揺れる。

 「どうぞ。」

 出された珈琲の色は、まるで今まで見た事が無い色であるかのような気がした。錯覚だと思い、錯覚を覚える程緊張している自分の心を見抜かれないように、ぎゅっと拳を握る。春歌は、トキヤの部屋のソファに座っていた。

 「どうしたんですか、今日は。昨日音也と仲直り出来たのでしょう? またこんな事をしていて、音也がやってきても知りませんよ。」

 珈琲を一口飲み、トキヤが口を開いた。

 春歌は生唾を飲み込み、自分の携帯電話をトキヤの前に置いた。
 声を絞り出す。

 「音也くんに今朝早く、メールしました。今日、昼過ぎに一ノ瀬さんにお話があるので、一ノ瀬さんの部屋に行きます。って、メールしたんです。」

 トキヤは、それで? という風に首を傾げる。

 「このメールは、音也くんの携帯には届いて無いと思います。・・・きっと、一ノ瀬さんのところへ、届いてる。」

 何も言わないトキヤを目の前に、春歌は続けた。

 「昨日、音也くんが、会えない間の私からのメールが届いてないって言ったんです。でも私は、間違いなくしてます。履歴が残ってます。それに、彼は湯布院から電話してくれたそうなんです。でも話中だったって言いました。でも、私が話中だったなんておかしいんです。音也くんからのメールは、ずっとちゃんと届いてました。一ノ瀬さん、」

 声が震えそうで、泣きそうで、必死になってそれを押し留めながら春歌は言った。

 「一ノ瀬さんが、私と一緒に夕飯を食べてくれたあの時までは、私たち、連絡を取れていたんです。あの日から、ううん、正確に言うと、一ノ瀬さんと一緒に目が覚めた朝から、連絡が取れなくなったんです。」

 「・・・・それで?」

 トキヤは淡々としていた。いつもと同じ顔で春歌の前に座っていた。優雅な仕草で、無言で珈琲を飲むように勧めてきた。
 息まで荒くなりそうになっていた春歌は、勧められるままカップに口をつけた。

 苦味を感じながら、一口飲む。
 カラカラの喉は緊張のせいで、この水分が役に立つとは思えなかった。

 「どうしても不思議で、今朝、登録してある音也くんのアドレス詳細を開いたんです。一度登録してからは、そんなコトしたコトもなかった。でも、あのアドレスは音也くんのアドレスじゃない。音也くんのアドレスは、とても解りやすい名前と数字の羅列だったのを覚えています。でも、今この携帯に登録されているアドレスは、それじゃありません。誰か、音也くんじゃない誰かのアドレスが、音也くんとして登録されてるんです。」

 春歌が早口でまくし立てた時、トキヤがふっと笑った。

 「どうして・・・笑うんですか・・・?」

 「どうしてって・・・君はその 「誰か」 のアドレスが、私のアドレスだと気づいてくれたのでしょう? 嬉しいですね。私の誕生日を覚えててくれたのですか。」

 その笑顔が氷のようで、春歌は思わずソファから降りた。
 もつれそうな足と抜けそうな腰が、ここから逃げろと自分に警告を出している。

 トキヤが立ち上がり、春歌は無意識にトキヤから離れるように動いた。走り出したら追いかけられる。本能が、大きな動きをしないようにと命じている。ソファを伝ってじりじりと横へ動き、ドアを目指そうとしたが、トキヤに先に廻り込まれた。

 
 「君のそういう間抜けたところは、なんというか・・・可愛くて仕方ありません。」

 ゾっとする。生まれて初めて、心底ゾっとすると思った。足元から這い登った悪寒に全身を取り込まれ背筋が震える。

 「どうしたんですか。そんな顔をして。ああ、これからは私だけの君になるのですから、まぁそれもそうかもしれませんね。マリッジブルーとやらは、女性の方がかかる率が高いらしい。」

 「・・・・マリッジ、ブルー・・・?」

 トキヤの言葉の意味が解らず、鸚鵡返しをする。
 だが、春歌が想いも寄らなかった笑顔で、トキヤは真面目に切り返した。

 「ええ、そうです。君は私のものになるんです。これからずっと、私と一緒に居るんです。結婚しましょう。私は本気なんですよ。君を、本気で愛している。」

 日本語では無いような気さえした。
 理解する能力の上っ面を滑って行った言葉が、疑念で反芻される。はっとした時には、拳一つ分も空かない距離にトキヤが詰め寄っていた。

 「そういう間抜けな所が可愛いと言っているんです。危機感が無い。信用するばかりで疑わない。それなのに、たまに疑ったと思ったら無防備にノコノコとやってきて、出された珈琲を飲んでいる・・・。そんな君を、あんなバカな男の許へは置いておけません。君は私が守ります。春歌、一生、君は私と共に居るんです。」

 「何を言って・・・・イヤ。イヤです、おとやくんっ・・・!」

 音也の名前を呼んで逃げようとしたその時、物凄い力でトキヤに手首を掴まれた。

 「2度と私以外の男の名前を口にしないで下さい。」

 声だけは穏やかだが、目は笑っていない。春歌の体はその圧迫感で、石膏の如く動けない。
 
 「今度音也の名前を呼んだりしたら、喉を潰しますよ。」

 「・・・・・・!」

 息を飲む程それが本気の声音で、春歌は固まった。
 
 「どうしました。私は、音也の名前を呼んだら、と言ったでしょう。大丈夫、君はそんなコトしないでしょう。だったら私も、君の可愛い声の元を壊すなんて真似はしたくないのですから、大丈夫ですよ。」

 トキヤのその言葉を聴いた時、ぐらりと視界が揺れた。頭のてっぺんから急速に、自分が白紙になっていく。

 「え・・・・。」

 「おやすみなさい。私だけの、お姫さま。」

 
 夢と現に架かる橋の途中で、トキヤの優しい声がした。


 

 

            To Be Continued・・・・ 
 
 

 



 
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No title

と、トキヤ様~~~~!!!

アスペが一途に走った・・・
そんな感じです。

あり得て怖いゾ!

No title

あれ?
予想外に音也が白いwww
いや、まだきてないだけ?

トキヤさま、あり得そうで怖い
確かにそうだ!!!
どこか一人よがりっていうか・・・真っ直ぐ前だけ見てて
こんな感じに突っ走りそうだもん

うわぁ・・・
次回バトル勃発か?

初めまして

初めまして
いつも連載読ませていだたいております

ヤンデレ音也はよく見かけますが、
ヤンデレトキヤは読んだ事ないので新鮮でハラハラします

毎回続きが気になる所で終わってるので
これからどうなっていくか楽しみです

これからもサイト運営頑張って下さい

雫ちゃんへ

> あり得て怖いゾ!

うふふふふ・・・・

いや~その感想聴いて、私、大満足だわwww

怖いと言ってほしかったwww
トキヤさま、次回、マジ怖いからwww

最初に言ったよね~私。
今回、マジ最低だから、それについてこれる人だけ読んでってwww

次回のトキヤ様をお楽しみにwwww

かもちゃんへ

> トキヤさま、あり得そうで怖い

もうね!!

雫ちゃんといい、かもちゃんといい、
私がほしかった感想をありがとう!! ありがとう!!wwww

怖いって言ってくれる人がいたら大成功だと思って書いてたよ。

うれしいよ~www

次回、もっと最低なトキヤ様ですので。
かもちゃんはどうにも黒い音也を待っているらしいがwww


とりあえず、次回のトキヤ様は最低ですwww
私、書いててホント、自分が最低だと思ったもんww
書いてる私が怖かったもんwww

まゆさんへ

は、はじめまして!
いつも読んで下さってるなんて嬉しさで挙動不審になってしまいます。
ありがとうございます!


> 毎回続きが気になる所で終わってるので
> これからどうなっていくか楽しみです


一応、稚拙な筆力ではありますが、
みなさまが続きが気になるような終わり方を毎度・・・と思って書いてます。
そう思って下さっているなら、とてもうれしいです。ありがとうございます!

> これからもサイト運営頑張って下さい


ありがたいお言葉に涙が・・・・!!

連載が終わったら、以前スタスカでリクを下さった方が居らっしゃるので
それを掲載する予定です。

コメント頂きありがとうございます!
次回の更新分は、ちょっと最低な感じのトキヤ様ですが、
ドン引きせずに居て下さると嬉しいです。
励みになります。本当にありがとう。
とっても嬉しかったです。ありがとうございました。
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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