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Little by little 3話

 

 第3話 
 
 

 「そうですか。」

 ダイニングテーブルで向かい合わせに座っていたトキヤが、カップを置き、ふぅ、と軽く息を吐いた。

 「申し訳ありません。私の不注意で、君を辛い目に合わせてしまいました。」

 「・・・・そんな、一ノ瀬さんは、何も悪くありません。私が最初に夕食にお誘いしたんです。だから、一ノ瀬さんが謝るなんて・・・、やめて下さい。」

 力無く、春歌が言う。

 春歌を自分の精で汚した音也は、その後、物も言わずに仕事に出掛けて行った。
 春歌はショックと後悔で呆然としていたが、音也は確かに泣いているような顔をしていた。部屋を出て行く彼の、泣きそうに歪んだ顔が頭にこびりついて離れない。

 大変な事をしでかしたと、春歌は自分を責めていた。
 
 謝ろうにも、音也は今日から又泊まりで地方ロケだ。昨日は、とうとう部屋に戻ってこなかったようだった。仕事だったのか、それとも、誰かの部屋にでも泊まったのか。だが、泊めてくれるような相手も同じ寮以外に居るとは考え辛い。

 春歌はすっかり落ち込んでいた。
 約束を守る為に水曜の夕方やってきたトキヤが、春歌の部屋の呼び鈴を鳴らすまで、丸1日以上部屋にうずくまっていた。

 何も出来なかった。する気になれなかった。自分が息をしているのが不思議だった。
 ただ泣き、疲れて眠り、起きてまた塞ぎ込んで泣く。数十時間ただそれだけを繰り返していた。

 呼び鈴も、聞こえてはいたが、それは耳に音が届いているだけで、最初はその音に反応を示す神経が働かなかった。

 トキヤは、一向に室内から返事が無い為、心配になってしつこく呼び鈴を鳴らし続けた。
 やっと玄関を開けた春歌の憔悴した様を見て驚いたトキヤが、お茶を淹れ、ヨーグルトに果物を少し混ぜたものを用意してくれた。

 「何か食べなくては。君、ずっと何も食べてないでしょう。作曲家でもアイドルでも、体が資本なのは変わりません。君だって依頼されている仕事が有る筈です。さ、食べるのも仕事ですよ。とにかく、ゆっくりでいいのでこれを。」

 声も無く涙をはらはらと零しながら、春歌は時間が掛ったが食事を終えた。
 その間トキヤは、何を言うでもなく同じダイニンテーブルについて、黙って窓の外を見ながら待っていてくれた。

 トキヤがお茶を温かいものに淹れ直してくれ、漸く春歌はぽつり、ぽつりと話し出した。

 音也とは、学園時代から付き合いだしていた事。喧嘩などもなく、今までずっと仲良くやって来た事。ここへきて突然忙しくなり、あの明け方の突然の訪問で、実に3週間ぶりくらいに会えた事。トキヤが帰った後、ひどく怒った音也が最後は何も言わずに出て行った事・・・・。

 勿論、音也がその時ベッドで何をしたのかなどは話さず、ただ、彼はひどく怒って自分を問い詰めたとだけ説明したが、そこまでトキヤに話して、春歌はさめざめと泣いた。

 泣きやもうとしても泣きやめない春歌を暫く見詰めていたトキヤが、立ち上がって春歌の傍に寄り、手を取った。

 「え・・・?」

 泣いたまま、春歌がきょとんとトキヤを見上げる。

 「こちらへ・・・・。」

 言われるまま、トキヤに導かれて、リビングのソファに座る。トキヤは、春歌を抱えるように座り、自分の胸に彼女の頭を寄せさせた。

 「一ノ瀬さん、あの。」

 「心配要りません。君が音也の彼女だって心得ていますよ。どうせ今日は泊まりのロケで帰って来ない。この前の二の舞はあり得ません。」

 そこで言葉を切り、少し真剣さを増した声で続きを言った。

 「・・・・友人として、泣いている君に胸を貸してあげたいと思ったんです。私のせいでもありますからね。」

 「え、でも。」

 春歌は戸惑う。
 そんな春歌に、心配無いという念押しか、トキヤは背中をぽんぽんと優しく叩く。

 「一人でいると、何でも悪い方に考えるものです。こういう時は、甘えておくべきだと思いますが? 思い切り泣いてしまった方がいい。気が済むまで泣いたら、私と一緒に、どうやって音也の誤解を完全に解くか考えましょう。音也も君も、私の数少ない友人ですからね。私が原因である以上、知らん顔は出来ません。」

 優しく自分を見るトキヤの瞳に、春歌は堰を切ったように涙が溢れ出た。
 トキヤが、春歌の背中に回した腕に少し力を込める。春歌はトキヤの胸に顔を押し付けて泣いた。

 広い胸。力強くて優しさのある腕。
 春歌は泣きながら、それを肌で、心で感じ取っていた。

 音也以外の男の胸のあたたかさなど、一生知る日が来ないと思っていた。音也以外の男の腕の中で安堵に似た物を覚えるなど、自分の人生で有り得ない筈だった。

 トキヤの気持ちが有り難ければ有り難いほど、自分が可哀想で、惨めになる気がしたが、涙はなかなか止まらなかった。

  
 どれくらいだったのか。
 しゃくりあげる春歌が徐々に落ち着き始めた。トキヤは持っていたハンカチで、涙に濡れた頬を拭ってやった。

 「すいません・・。」
 
 「謝る必要はありませんよ。私がそうしろと、君に言ったのです。謝る位なら、元気を出して約束を守って頂きたいですね。」

 春歌は一瞬きょとんとする。
 そして、あ・・・と思い出し、笑うように息を吐いた。
 
 まだ笑えない。そんな簡単には行かないが、笑おうと努力はしてみた結果だ。

 「ハッキリ言って。」

 そんな春歌を腕に抱きながら、トキヤが口を開いた。

 「こういう事は、なるようにしかなりません。私も共に誤解を解く努力はしますが、今、目の前に音也が居ない状態では悩んでいるだけ時間の無駄です。それより、気分を変えた方が賢いでしょう。さ、顔を洗って買い物に出ましょう。君も、あまり塞ぎ込んでいると本当に良くありません。」

 トキヤの言う事はもっともだと春歌は思った。
 だが、拒絶の意思を柔らかく示そうと、下を向く。約束はしたが、気持ちはそんな風に簡単に切り替えられない。

 「先程も言ったでしょう。体が資本です。心も体も繋がっています。沈み込んだ気持ちで素晴らしい曲が作れるとは、到底思えませんね。君、締め切りが有る筈ですが?」

 「・・・あ、はい・・2週間後に・・・。」

 「あと2週間しか無いのですよ。プロとして、如何なものかと。」

 
 トキヤの言葉は正論だ。

 「・・・・わかりました・・・。」

 力無く、支度をする為に春歌がトキヤから体を離す。
 その時、トキヤが春歌の腕をもう一度強く掴んだ。

 「・・・・・・・・・・・・・・? 一ノ瀬、さん・・・・・・・?」

 「・・・・・・・・もしも。」

 トキヤは、探るような目をして春歌を見据えた。
 
 「・・・・? 」

 「・・・・いえ、何でもありません・・・。」

 そして目だけを逸らし、壁を見詰めたまま、もう一度口を開いた。

 「あの男はせっかちですから、君と仲直りする気があるなら、今日のうちに電話してくるでしょう。だから・・・もし、今日電話がなかったら、また私の所へ泣きに来ても構いませんよ。」

 




Side:音也 

 



「はいお疲れ様! おやすみ!」

 「お疲れさまでした。おやすみなさい。」

 一通り挨拶を交わし、やっと今晩の寝床に辿り着いた時には、既に日付が変わる頃だった。

 突然決まった旅番組のレポーターの仕事。今をときめく売れっ子お笑いタレントの代役だった。
 ゴールデンタイムの特番に、大々的にメインでテレビに出るチャンスを失敗できない。笑顔で名物を頬張り、スタッフの指示通りに名所の説明をした。

 必死に作る笑顔の裏で、春歌の哀しそうな顔ばかり頭に浮かぶ。それを無理矢理かき消しながら仕事を消化した。
 
 あのトキヤが、無闇に女に手を出す筈がない。あれは冷静で、自分の夢の為にストイックに徹する常識人だ。春歌にしても、恋人の留守中にベッドを目的として、別の男を引っ張りこむような真似が出来る訳が無い。

 (そんな事は解ってるんだ・・・。)

 解っているのに、どうしても振り払えない想像が頭を掠めて、気がおかしくなりそうだ。
 信じているのに、いつも自分と愛し合ってるベッドの上で、トキヤとはしゃいでいた楽しそうな春歌の笑顔を思い出すと、どうしようもなく沈んだ色に心が塗り潰されていく。苛ついて、逃げ出したくなる。

 (謝らなくちゃ・・・春歌に嫌われたくない。別れたくない。だけど、俺以外のヤツとあの部屋に居るなんて許せない。でも、でも・・・春歌と別れるなんて、考えられない・・・。)

 春歌の、控えめで一生懸命な姿が、優しさが好きだ。自分だけに向ける笑顔。自分だけが知っている淫靡な痴態。愛しくて大切で、失うなどは自分の人生が終わる気さえする。
 
 こんなに好きなのに、あんな酷い行いをした自分を、彼女は許してくれるだろうか。しかしそもそも、自分の仕事中に他の男と・・・。だがそれは、自分が仕事とはいえ約束を反故にしたからで・・・しかしそれでも。
 
 ぐちゃぐちゃと、沸いては消え染みながら増殖していく不安と絶望と怒り。永遠に続きそうなこの負の感情の断ち切り方が解らない。

 元々客の少な目の日を狙っての撮影で部屋が空いているのか、ピンチヒッターなので気遣ってくれたのか。何にせよ新人の扱いにしては良くして貰え、音也は広めの部屋に1人で寝るよう配慮して貰えた。

 「春歌・・・電話、出てくれるか・・・?」

 迷いに迷って、春歌の番号を表示する。

 メールでは、謝る気持ちが伝わらないと思った。本当だったら顔を見て話すべきなのは当然分かっていたが、物理的に無理だ。だから、時間を空けない方を取った。時間が経てば、それこそまたトキヤがやってきて春歌を攫っていくかもしれない。

 そんなワケない―――――頭で打ち消す一方で、消す傍から這い上がる不安。
 今までこんな事は無かった。仕事で会えない日が続いても、気持ちが行き違う事などなかった。しかし思えば、こんなに長く会えなかったのは初めてだ。それがお互いを揺らしているのかもしれない。

 そう思うと、やはり手段はどうあれ、とにかく早い意思表示を示すのが大事だと決意した。

 ボタンを押そうとする指が、息が止まりそうに強張る。
 携帯電話を持つ手が僅かに震え、もう片方の手でそれを守る様に抑える。トキヤと春歌の笑顔が脳裏に浮かび、窓の外に見える暗闇に呑まれそうになりながら、音也は崩れ落ちそうな体を必死に支えていた。



 

 朝になり、春歌はのろのろとベッドから起き上がった。
 トキヤの言葉が、起きるなり思い出される。

 「もし今日、電話が来なかったら、また私の所に泣きにきても構いませんよ。」

 片時も離さず待ち続けていたが、電話機本体からは、とうとう1秒も着信の音楽は流れなかった。

 春歌は、日付が変わってからも、単に忙しかったのだ。だから夜中でも、例えメールでも連絡はあるはず。そんな祈るような気持ちで音也からの連絡を待ち続け、明け方に疲れて眠った。

 いつも、音也の仕事中は極力電話は勿論、メールもしないように心がけていた。
 邪魔になってはいけないという気持ちからだが、それがクセになっていた。だから春歌は傍と、自分から連絡をすればいいという事に今になって気がついた。

 時計を見る。
 ロケは始まっているだろう。旅番組では朝食もリポートするから、今は丁度撮影中かもしれないと思い、メールを打つことにした。

 アドレスから音也の名前を呼び出し、メールを打つ。
 
 『おはようございます。お仕事中にごめんなさい。一ノ瀬さんとの事、誤解させてしまってすいませんでした。音也くんに許してもらえるかどうか分かりませんが、仕事のキリがついたら、会える日を教えて下さい。お願いします。』

 送信ボタンを押して、昨夜と同じように片時も携帯を離さずにいたが、音也からの返信が無いまま日付は変わった。

 「・・・・・・・・・・・・・音也、くん・・・・。」

 音也はそんなに怒っているのだろうか。
 自分は、そんなにも許されない大罪を犯したのだろうか。
 
 あまりにも大きな喪失感と諦めに似た気持ちで、春歌はピアノに向かい、獲り憑かれたように作曲を始めた。
 仕事は仕上げなければいけない。今動かせる全神経をそれだけに集中させ、春歌は音を組合せていった。

 
 胸に穴が空いているから、こんなにも余分な事を考えずに仕事がこなせるのだろうという勢いで、春歌は昼頃にはノルマを仕上げ、取引先へデータを送信した。

 これで、相手先から手直しの連絡があればそれまでは、なければ、次の仕事は大分先がある物だった為、1週間くらいは自由だ。

 そう思った途端、涙が流れる。
 あんな事が無ければ、仕事のキリがついた今、となりの部屋を片付けながら、食事の準備をして彼の帰りを待っていだろう。そうじゃない今が、哀しかった。

 仕事を終えてホッとしたのか、春歌はいつの間にか机に突っ伏したまま寝入ってしまい、携帯電話の着信音で目を覚ました。
 寝ぼけながらも、もしや音也からかと、傍らにおいてあったそれを手に取る。メールの着信音が鳴り止み、着信を知らせるランプが光っていた。

 春歌は、恐る恐る画面を開いた。
 
 「一ノ瀬さん・・・・?」

 落胆と、そして少しの安堵でメール本文を読み終えると、トキヤに短い返信をし、春歌は頭を振って台所に立った。

 
 冷蔵庫にあった挽肉と豆腐を取り出し、玉ねぎを無心に刻む。
 刻みながら、悲しくない涙が出たのはいつ振りだろうと思った。

 結局あの日は、買い物へは出かけたもののそれだけで終わった。あまりに長いこと泣いていて時間が無くなったのも当然あるが、トキヤが気遣ってくれたのが大きかった。

 「外へ出られたんです。合格でしょう。今、これ以上の無理はいけませんしね。」

 特別笑顔でもないのに、トキヤの言葉からは、彼の優しい気持ちが溢れている気がした。
 
 トキヤなり最大限の優しさで傍に居てくれた彼には感謝していた。

 誰も傍に居てくれなかったら、混乱のあまり何をしていたか判らない。
 或いは、誰にも見つからず何日も食事もせずに、倒れて事務所に迷惑を掛けたかも知れない。それを思うと春歌は、一方で原因だったとしても、トキヤの行動が有難かった。

 出来上がったハンバーグを適当に冷ましている間に、春歌はゆっくりとお風呂に入った。

 髪を洗い、同じ生活を日々紡ぐ大事さを思い知る。人はきっと、転がり落ちようと思えばどこまでも際限なく、本来毎日しなければならない事を放り出せるのだろう。

 湯に浸かりながら、数日間の自分を思い返して感じた事だった。

 髪を乾かしながら、だからトキヤは、あんなにストイックに規則正しい生活を送っているのだろうかと考える。だとしたら、彼は人が、その規則正しさを外れた時にどこまで転がるか知っているからそうしているのだろうか。

 どうでもいいような事を想いながら、春歌は髪を乾かし続けた。
 そうしないと、音也から連絡を貰えない事実が胸を締め付けて、息が止まってしまいそうだったからだ。

 クローゼットを開けて、色目の柔らかな服をわざわざ選んだ。こんな時こそ、折角優しくしてくれるトキヤに報いねばならない。責任感で自分の気持ちを持ち上げる。

 あらかた覚めたハンバーグを小分けに包み、春歌はトキヤの部屋を訪ねた。

 

 
 「君は本当に律義ですね。君のそういう所、私はとても好きなんですよ。」

 ソファに座り、お茶を勧めながら隣に腰を下ろしたそうトキヤに言われて、春歌は一瞬ドキっとして俯いてしまった。
 好き だなどと整った顔のトキヤに言われて、そうならない女はいないだろうと必死に冷静さを取り戻そうとする。

 「あ、あの、これ、もう冷めてるので、冷凍庫に入れておいて下さい。」

 誉められて春歌は照れた。

 「ああ、本当にすいません。有り難く頂きますよ。」

 そう言って台所に行ったトキヤは、戻って来た時にケーキの載った皿を手にしていた。

 「これを仕事先で頂いたんですが、私は食べませんので、君にと思って・・・。人気のお店のものらしいです。」

 先程のメールは、美味しいおやつを貰ったので、良かったら部屋に来ないかという誘いだった。
 春歌は、トキヤの気遣いが嬉しく、約束を思い出して奮起して料理をし、トキヤの部屋にやって来たのだった。

 「・・・一ノ瀬さん、本当にありがとうございます。」

 「何を言ってるんです。先にハンバーグを作って貰ったのは私ですよ。これは、ささやかなお礼です。ああ、これをお礼と言っては失礼ですかね。君が今日作って来てくれるとは思っていませんでしたし、何より、人に頂いた物を君にお出ししているのですから。」

 隣同士で、微妙な距離を空けて同じソファに座りながら、2人は顔を見合わせて会話をしていた。
 
 「いえ、そんな、嬉しいです。あの・・・。一ノ瀬さんは、私の事、気遣ってくれてるんですよね。音也くんとの原因が、自分だと思って・・・本当にごめんなさい・・・でも、こうやって優しくしてくれて、嬉しいです。有難う御座います。」

 「優しい・・・?」

 トキヤの目がすっと細まった。
 だが、すぐにいつもの微笑に戻る。

 「別に、優しくなどありませんよ。同じ事務所の君が仕事をきちんとしなかったせいで、我々まで信用をなくしては堪りませんからね。」

 「ふふっ。」

 「なんですか。」

 春歌の笑いを、意外な反応だという顔をする。

 「だって、一ノ瀬さんは本当に優しいです。そうやって意地悪みたいな事を言ってても、本当は相手の為に言ってるって、解ってます。」

 トキヤは恥ずかしいのか、目を逸らして黙った。
 
 照れているトキヤなどあまり見れるものではない。春歌は、他の友人があまり目にしてないだろう彼の珍しい表情を見られた事が嬉しく、ほんのり頬を染めたトキヤに駄目押し宜しく、甘えた声で感謝の言葉を口にする。
 
 「落ち込んでた私を、気にしてくれてたんですよね。じゃなきゃ、甘いものを食べない一ノ瀬さんが、職場で出されたケーキを持ち帰ってきたりしないと思います。嬉しいです。頂きますね。」

 そう言って、春歌は用意して貰ったデザートスプーンでケーキを一口すくった。
 
 「おいしい! ここのケーキって、普通のケーキ屋さんの倍の大きさだから、すごい量なんですよ。こんなに大きいんですから、一ノ瀬さんも食べて下さいね。」

 「いえ、私はいりません。」

 キッパリと言い切るトキヤに、春歌は距離を詰めて座り直すと、

 「ダメです、はい、あーんです!」

 強い調子で、トキヤの口元にケーキの載ったスプーンを突き付けた。

 普段の春歌なら、こんな事は絶対に出来ない。
 春歌も、自分で自分に驚いていた。

 生き物としての防衛本能で、辛さを無理矢理吹き飛ばそうとしているのか、連絡が無くて絶望近くまで沈んだ心に染み入る気遣いが嬉しかったのか。何にせよ、少しばかり判断力の鈍った頭が、春歌をいつもはしない行動に走らせている。

 トキヤは、一瞬の出来事に面食らったような顔をしたが、観念したのか口を開き、春歌はそれに満足そうにほほ笑むと、

 「はい! どうぞ!」

 と言って、トキヤの口にケーキを運んだ。

 「ね、美味しいでしょ?」

 「・・・・そうですね。」

 ニコニコと、無邪気な笑顔で自分を見る春歌に、トキヤの瞳が揺れた。
 甘味をゆっくりと飲み込んで、トキヤは朴訥とした口調で質問をした。

 「・・・・・音也とも、こんな風にケーキを食べたりするのですか・・・?」

 「え?」

 春歌は、思いもしないトキヤの突然の台詞に、思わず手を止めた。
 音也の名前を出された途端、今ひととき楽しい気持ちになっていた自分が、音も無く消えて行くような気がした。

 (何してるんだろう、私。音也くんとこんな事になってるのに、別の人と一緒に居て楽しくなってるなんて・・・)

 然して悪い事もしてないのに、妙に反省しなければいけないような、後ろめたい気がするのは何故だろう。春歌がぼんやり想いを巡らせていた時、トキヤが春歌の手からスプーンを取り上げた。

 その意味が解らずそのままトキヤの手を見ていた春歌の目前に、今度はトキヤがケーキを載せたスプーンを翳した。

 「君がああした次は、音也がこうやって、君に食べさせたりしているのですか?」

 「・・・・・。」

 心臓がどくどくと音を立てる。
 春歌は急に周りの音が聞こえなくなった。
 
 友達として、和やかに楽しく一緒に過ごしていた人物が、急に顔を変えて違う世界を用意して、そこへ自分が座られている。そんな奇妙な感覚が全身を包む。

 どうして彼は真顔なのか。どうして彼の手にあるスプーンに載ったケーキを食べる事が、こんなにも毒を受け取る儀式に思えるのか。
 
 そして、自分の方がこの状況を変化させる舵を握っていると判るのに、今のこの状況にばっさりと幕を降ろせない。

 金縛りにあったように、トキヤに見つめられて動けない。

 「口を開けて下さい・・・。」
 
 言われるまま、口を開ける。ケーキが押し込まれ、租借する。ゆっくりと噛んだのは事実だが、それは数十時間にも思われた。

 2,3度春歌の顎が動いたのを見ていたトキヤは、やおらスプーンを置いて、皿の上のケーキ上部のクリームを指で掬った。
 
 「今の、クリームの少ない部分でしたから・・・。」

 時が止まった部屋の中で、春歌は差し出されるまま、クリームのついたトキヤの人差し指に舌をつけた。

 「そのまま、舐めて・・・。」

 見つめ合ったまま、お互いがお互いの顔を見て酔った顔をしたまま、春歌は舌を軽く付け、そのまま口にトキヤの指先を含んだ。

 トキヤの吐息が甘い熱を孕み、春歌の頭に益々血が上る。
 心臓が競り上がる。息が苦しい。

 自身何をしているのか深く考えられず、なぞるように、トキヤの指に吸うように舌を這わせる。

 「次は、君が・・・。」

 自分の指を春歌の口の中にいれたまま、もう一方の手で春歌の手を取り、テーブルに乗ったケーキ皿まで導く。そして、クリームを掬うように促した。
 魔法にかかったように、春歌はクリームを人差し指で掬い取る。
 その間もずっとその手を握っていたトキヤが、クリームが落ちないようにゆっくりと、春歌の手を自分の口元へ近付けた。

 「あ・・・。」

 指先をペロリと舐められて、春歌は目眩がした。人差し指、中指、クリームの付いてない指も順に口に含まれ、腰がぞくぞくと戦慄いた。
 
 トキヤは、自分は春歌の指を口から離さず舐めしゃぶりながら、春歌の口からは自分の指を抜き取ると、またケーキを少し摘んで、春歌の口に指を戻す。それを何度か繰り返した。
 
 ちゅっという吸引音と、柔らかい甘味を租借する音、口中でうねる唾液の音だけが支配する切り取られた2人の世界で、皿のケーキはなくなり、2人の指からケーキの残骸もすっかり消えた。

 しかし、消えてしまったケーキなど、最初からそこに無かったかのようだった。
 
 2人はお互い熱い頬と吐息で、舌を這わせた相手の指を、離せずに居た。言葉も無く、うっとりと指先を舐め合いながら、過ぎる時間の狭間に漂っていた。

 





 

 


 

 

 
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非公開コメント

No title

く~~~~!!!
いいな、春ちゃん!

もう、春ちゃんの立場が美味しすぎるわよねw

トキヤ様~~~!やることが、とっても計算されていて
それなのに、どこかアブナイ・・・

ドキドキです。ドキドキが止まりません!

ああ…私…やっぱり音也よりトキヤが好きだなと再確認wwwwww

早くトキヤとにゃんにゃんしたいわぁ…はぁん…(;´Д`)ハァハァ (*´Д`)ハァハァ

私もトキヤの指をしゃぶりたい!しゃぶらせて!てぃんこでもいいよ!(黙れ)

雫ちゃん

ドキドキしてくれ!wwwwww

ドキドキしてくれてアリガトウだよ!

トキヤさま、本当に大好きなのに、私ってばさwww
散々みなさんがドキドキしてくれたラストがどうなるのかを
是非楽しみにして下さいまっしww

私も春ちゃんになりたいなあ・・・。
イケメン何人侍らせてんだ・・・。

もっちゃん

私もトキヤの指をしゃぶりたい!しゃぶらせて!てぃんこでもいいよ!(黙れ)

さすがアメブロじゃないので、もっちゃんも直接だなww
意外と、ズバリセックス! じゃないのに逆にエロいと言って下さる方が居て、安心した。

もっちゃんドチラかというと、トキヤさまより、HAYATOファンでわ?
いつかHAYATOさまのすごいのを書きたいわww

ハッ! タイトルが! まだです!
今月一杯せめて考えさせてwww すいませんね・・・。

プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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