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Amadeus 第5話







 Amadeus
 第5話









 真斗は満足気にパンフレットを眺め、ほう、と感嘆の息を吐いた。

 彼の隣で、春歌はパンフレットを読んでるフリをしながら別の事を考えていた。


 誘われたのはジャズコンサートで、チケットは即日完売したらしい人気の公演だった。テレビ局で見かけた芸能人の姿もちらほらあった。見事な演奏は、確かに聴いてる間はほぼほぼ春歌を魅了し、束の間現実の一切を忘れさせた。

 拍手が止み、ホール内の照明が点いても春歌も暫く席に座っていた。その春歌より明らかに余韻に浸っている真斗がようやく現実に戻ったようにして服の襟を直す仕草を見せる。そして、会場のロビーラウンジでお茶を飲んでいきたいと言い出し、春歌はそれに付き合った。

 日曜だからか早い時間から始まったコンサートのお陰で、ロビーラウンジはまだ営業していた。ラストオーダーまで余裕があるせいで、広くない店は満席に見えたが、運良く残っていた最後の席に滑り込めた。

 眼鏡を掛け、帽子を目深にかぶった真斗に気付く者はいない。
 それでも用心して、2人掛けのテーブルの椅子の位置を少しずらし、他の客の目から真斗の顔が見えない位置に彼を座らせる。


 
 美しい音楽だった。
 連れて来てもらえたのはありがたい事だった。

 蘭丸の為にもいい曲を。
 最近富にそう思うようになった春歌にとって、勉強にもなるこういう機会はしかし金額もそれなりかかる為、チケットを用意して貰えるなどは本当に感謝すべき事だ。付き合い出してからは何をしていても蘭丸の曲の為に、と結びつけてしまって自分で苦笑する時がある。

 そう言えば、蘭丸は最近、春歌の作った曲が良ければ良い程、悲しそうな目をする事があるなと、春歌はふと、こちらに向かってくるウエイトレスが持つ盆の上の茶器が自分達の元へ運ばれてくるだろうとぼんやり予想しながら思い出した。

 自分で自分の曲を良いと評するのはおこがましい。自信が持てるといえばいいのだろうか。これこそ! と満足いく仕上がりになった曲ほど、蘭丸は歪んだ表情を見せる。それはほんの少しの時間で、しかも、真剣に聴いていると言われればそれまでの表情なのだが、自分は彼を愛しているのだ。彼の些細な変化には敏感だ。違和感はあった。悲しそうな苦しそうなその一瞬の顔が判る。

 ただ、その歪みを生む原因が悲しいというのが適切かどうかは判らなかった。単に機嫌が悪いようにも見えたし、イライラしてる感じもした。何故だか苦笑する日もあった。それが苦笑なのかと詰問されたら怯みそうだが、少なくともあの時はそうとった。でもそれはいつも一瞬で、しかし確かなのはどちらかといえばマイナスな何かを表現しているとしか思えなかった。何故だか判らないがそんな気がする事が多かった。
 
 でも幾ら並べ立てても、気にしすぎかな、とも思える程度の雰囲気だったのですぐに忘れてしまう小さな事だ。その時だけ。さっきのような、思わず笑顔で拍手を贈ってしまう演奏を聴いてる最中などは特にそんな些細な引っ掛かりはまったく浮かばない。演奏は感激して入り込めた。

 でも、大きな問題については別だ。
 そう、今まさに自分が置かれているこの状況。自分の意思とは関係無く、しかも蘭丸からの要請で真斗と何故か交際をしているというこの展開についてだ。これに関しては常に何をしていても頭の片隅に引っ掛かっている。

 聴いてる間、何度、真斗にどうやって聞き出そうかというそれが頭をよぎったか判らない。寧ろそれしか考えてなかったのではないかとすら思う。あの時の蘭丸さんの電話の相手は貴方ですかと、それだけを尋ねるのにこんなにも悩む。

 
 蘭丸には、あの後何度か機会を伺って、今なら機嫌がよさそうだと思った時に1度だけ尋ねた。

 
 「あの時の電話は、真斗くんとしていたのですか?」

 
 蘭丸は特に慌てるでもなく すぐさま真斗ではないと言ったので春歌は多少拍子抜けした。だが、相手が誰だったのかは答えてはくれなかった。努めて何気ない風を装い、では誰だったのかと問うた春歌を彼はつまらなそうに一瞥すると有無を言わさず抱き込み、そのまま口がきけないようにする為の如く性急に抱いた。

 蘭丸のどこかあやふやな態度のせいで、春歌はなんとなく、真斗ではないという説明そのものも心の底からは信じられないままだった。あの時のあの、質問に答えた瞬間の蘭丸の雰囲気だけを思い返せば、とても嘘をついているようには思えない。さらりと答えた感じから直観的にその時も本当だろうと感じ取った。筈だったのだが、その後の質問に答えてもらえなかったのがどうにも腑に落ちない。

 
 「お待たせしました。」

 
 かちゃりと音を立てて置かれる紅茶が香る。

 運ばれてきたティーカップはとても浅くて、そんなに喉が渇いてない春歌には丁度良かった。
 真斗が一口飲み物を飲んで、ほっと小さく息を吐いたのを見計らい、春歌は徐に口を開いた。

 「今日はありがとうございました。あの、今度から、こんなお誘いも出来れば直接言ってもらってもいいですか。その、私たち、お付き合いを始めたのに、あの時うっかり連絡先を交換し忘れてしまったので、交換、しませんか。」

 お付き合いを始めた、という台詞がすんなりと口をついて出た自分に驚く。
 そうすると、あの時の蘭丸が同じなのではないかという疑いが色濃くなる。嘘だからこそ、何の衒いもなくすんなりと言えるのではないか。

 堂々巡りだ。
 何かあれば疑い、何かあれば信じる。それの繰り返し。出口が無い。

 今や心の片隅で常に猜疑心を飼って生活している自分とは正反対な爽やかさで、真斗は、そういえばそうだったというような顔をする。
 今しがた聞いた音楽に感動している顔だ。そこに邪さや汚れたものはない。眩しかった。そして今度はそんな真斗に蘭丸の様子を重ねて、やっぱり蘭丸は嘘などついてないと思う。蘭丸は態度や言葉はぶっきらぼうだが、平気な顔で嘘を吐くような男でもなかった。

 だけど、だったらこんな事を要求するだろうか。

 ・・・だめだ。

 春歌は頭を振る。
 
 とにかく日々これの繰り返しで、春歌は精神的に疲弊してきていた。

 真斗が笑顔で話を続ける。


 「ああ、そうだな。俺はあの時つい舞い上がってしまっていて・・・。そうだな、交換するとしよう。」

 「そうしたら、直接誘ってもらえますしね。」

 「そうだな。お前こそ、次はあいつを通さず俺に直接連絡をくれればいいぞ。」

 「・・・はい?」


 春歌は作った笑顔のまま首を傾けた。
 真斗の台詞は春歌にとっては不思議だったからだ。

 「? 私、真斗君に会った時に直接お返事しましたよ?」

 
 「ん? ・・・ああ、そうではなくて、それは待ち合わせ場所をあそこにしようかと提案してくれた時の事だろう。その前の、取り敢えず行けるかどうかの簡単な返事は最初、神宮寺を通してくれたではないか。お前に会った時どうしても時間が無くて待ち合わせの話しかできなかったんだが、今日はそれも伝えたかった。そろそろ神宮寺を通して色々話をするのも止めにしてもいいのではないかなと。しかしまあ、あいつには仕方ないから礼を言わねば。このチケットもあいつが譲ってくれたのだからな。」

 
 あまり驚かない。
 ただ、この前も、どうして神宮寺さんなんだろうと思ったが、今回も脈絡もない部分から彼の名前が出て来て、春歌は益々不思議に思った。

 この流れからいけば、蘭丸がこの間電話をしていたのは多分神宮寺レンだ。神宮寺レンがこのコンサートの話を持ちだし、その場で蘭丸がOKの返事を出してしまったから自分は行かざるを得なくなってて、そして、レンはそのまま蘭丸の返事を額面通り受け取って真斗に伝えている。多分、その流れだ。

 でも、そしたらあの、約束とは何だろう。蘭丸は約束という言葉を口にしていた。彼は神宮寺レンと何かを約束しているらしい。蘭丸とレンがする約束というのがあまり思い浮かばない。

 
 突然自分に、真斗と付き合えなどと言い出したのは蘭丸だ。真斗はどうやらずっと自分の事を好きだったようだから、それが周りにバレていたとしても、彼女を突き出すような真似をする蘭丸の真意が判らないとしても、そこにレンが加わる図が不思議だ。まったく関係ない人間が絡む理由が判らない。

 真斗の願いをある意味叶えるような行動? なぜ? それが神宮寺の何の利益を生むのか。そして自分の恋人を差し出すのと代われる程の利益が蘭丸にあるとでも。間に第三者を挟んで? まったく意味不明だ。じゃあ利益も無しに? 何のために?

 まあ、それを抜いても自分の恋人に違う男とも同時進行で付き合えと言うのが大体、現実味も無いし信じられない行為なのだが。

 思い返せば春歌自身、自分が不思議だが、あの時の蘭丸相手には断れない何かがあった。
 
 どこまでも理不尽な要求を呑まざるを得ない、切迫した何かが彼にあった。だから自分は言われるがまま真斗と逢ったのだ。それが何かは判らない。ただ、あの時も感じたが、本当にこの要求を呑まない自分には用が無い。という気迫があった。寧ろ、その為に蘭丸は春歌を手中に置いていたのだとでもいうような。

 判らない事だらけだ。
 わからない、わからないの連発。でも実際何もかもが判らないのだから仕方がない。蘭丸は自分に飽きたのだろうか。それとも最初から自分を愛してなどいなかったのか。

 そこまで考えて頭を振った。
 バカげている。何が楽しくて、他の男に渡す為に愛してるなどと囁き、面倒なケンカも乗り越えながら付き合いを継続して来たというのだ。ありえない。こんなことを考えるなんてどうかしていると、春歌は冷めてきた紅茶を口にした。

 「時間はあるか?」

 ふいに聞かれて、何気に顔を上げる。
 すると真斗がふっと目を揺らした。

 「・・・いいな。」

 「え?」

 「お前の、その顔だ。そういうふとした表情が、お前はとても可愛らしくて、目が離せない。」

 カっと顔が火照る。
 途端に逃げ出したくなってカップを落としそうになって慌ててソーサーに戻す。顔に何かがついていやしないかと急に気になって頬に手を当てた。

 「そうやって照れられると、俺もどうしていいか判らなくなってしまうな。」

 真斗は少し下を向いて自虐的に笑い、そして、春歌の手を取って立ち上がった。

 「部屋を、取ってあるのだ。このすぐ近くのホテルに。行こう。」

 私は、蘭丸さんと。

 喉まで出掛った言葉は言えなかった。
 言ったら自分は蘭丸の相当な怒りを買い2度と逢って貰えないし、真斗は傷つく。そして、何故かいつも名前が出てくるレンの不思議が判らないままになってしまう。

 そんな考えが一瞬で数多過って、言えなかった。


 
 

 
 「ダ、ダメです!」

 
 甘い吐息から一転、素っ頓狂とも言える声を春歌は上げた。
 ベッドの上だ。
 拒む自分の方が卑怯たらしい。判っていても一度は抵抗してしまうのが女なのかもしれない。

 
 「・・・何故だ。俺は、俺の印をお前の身体に刻みたい。そんなにダメか。」

 「い、痛い、から・・・。」

 必死に身を捩り、嘘でも泣きそうな顔を作る。
 たっぷりしたキスを終えた真斗が強く肌を吸い上げようとするのに気付いて、咄嗟に手で押し返した。

 どうしてもつけられたくなかった。蘭丸に見られたくなかった。こんな事をさせている男に仕返しでもという気持ちは春歌は一切持てなかった。それでも蘭丸が好きだから、証拠は見られたくなかった。例え明白でも、目に見える自分の身体に真斗の証を付けられるのだけは拒みたかった。

 色々気になるとかなんだと理由があれど、結局流されてベッドに横になっている自分が虚しい。
 何だかんだで真斗をそれなりに好きでいる自分が浅ましくてうんざりする。快楽に弱い自分に嫌気が差す。

 だけど、印はつけられたくない。
 そんな事を許したら自分はそれこそ蘭丸と終わりそうな気がする。

 いや、もう終わっているのではないか。こんな状態になっている時点で。嗚呼、また堂々巡りだ。こんな時に。こんな逃げ出す事も叶わないような場所で。彼と自分の立場を考えたら、騒ぎになるような真似は例え小さくても出来ないのだ。


 「どうした。何を考えている。」

 真斗の少し低い声で現実に引き戻される。
 ぐっと、彼が体重をかけてより自分を抑え込んだのが判った。

 「あ・・・。」

 声も手も上げる前にちりっと痛みが走る。
 
 とうとう跡が付けられた。
 それが判って自分の中の何かの光が断ち切られる。

 やっぱりどうしても納得がいかない。
 どうして一番好きな男以外とこんなことをしなくてはいけないのか。あの時頷いた自分が悪いのだけれど、でもあの場で断ったら自分は一番好きな男まで失っていたのに。そもそもがあんな話が持ち上がる理由が知りたい。

 自分の世界なのに、自分が知らない所でいつから日常が狂っていたのか。この跡は、これ以上何かを引き起こすのだろうか。2度も3度も同じ痛みが走るという事は、何か所も付けられているのか同じ場所により深く刻まれているのか。

 こたえを教えてくれるのは、きっと、彼だ。
 彼に会わないと。聞かないと。

 そう決めた時、鋭い快感が自分の中を貫いた。










 To Be continued・・・








 
 







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にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

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だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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