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Room2308 第3話

 




 Room2308
 第3話







 

 一ノ瀬さんには、翌日は会えなかった。

 会えない方が良かった。会いたい気持ちは確かにあったけど、会ったら一ノ瀬さんに何を言ってしまうか不安だった。自分の身に起こったあの嘘のような出来事は知られたくなかった。

 でも、一ノ瀬さんに聞きたい事はあった。

 だから、そのまた翌日も会えないとわかり、自分の胸が騒いだ。どうして会ってくれないのかという不安がざわめいたのだ。
 翌日というのは、そう。一十木くんがホテルの部屋へやってきた日から数えて翌日。一ノ瀬さんにまた会えなくなったのは、そのまた次の日だ。

 私が、恋人である一ノ瀬さん以外の男の人と、関係を持った日。その日から2日、恋人とは会えなかったのだ。


 
 「今日は、会えますか。」

 会えないと分かったのは、2日目の朝、取り敢えずそれだけのメールを送った後だった。返事はすぐ来た。

 「申し訳ありません。今日はもう今仕事が始まるところで、夜遅くまで終わりません。また休みがいつになるかを連絡します。」

 そんな風に、会えない理由は仕事だと短い説明をするメールだけは届いた。昨日は心のどこかでほっとしたが、今日も会えないと言われ、私は少し不安になった。

 急いでメールを返す。

 「お忙しいところすみませんが、どうしても聞きたい事があります。おととい、一十木くんがホテルに来ました。一ノ瀬さんに頼まれて来たって言ってましたが本当ですか? 少しの時間でいいから、出来るだけすぐ会いたいです。いつなら会えますか。」

 返事はまたすぐ来た。

 「水曜夜8時、事務所がよく使うシャインで。事務所の名前で予約しておきます。」

 私もすぐ返信する。

 「わかりました。でも先に、一十木くんに伝言を頼んだのが本当かどうかだけ教えて下さい。」

 以降、返信は来なかった。
 
 


 
 結局、あれからもメールの返事は一切届かず、一ノ瀬さんが一十木くんに伝言を頼んだのが本当かどうかは、解からないまま水曜日を迎えた。

 色々考えてみても、一十木くんが、伝言を頼まれたそれ自体は嘘をついてるとは思えなかった。あのホテルの部屋の番号を知っていたのが何よりの証拠だ。加えて、中で私が待っているのも予め解っていたとしか思えない言動。

 でも、私が知りたいのはそこじゃない。伝言自体はきっと本当で、でも、彼があんな事をしたのが何故なのか知りたい。
 
 「トキヤが望んだ事なんだから。」 という、彼のあの言葉の意味を知りたい。一ノ瀬さんの望みが、私が一十木くんとああいう関係を持つ事だなんて考えられない。そんな馬鹿げた話、ありえない。だって私たちは、あんなに愛し合っていた。彼が私を好きだと言い、私もそれに同じ答えを返し、連絡を取り合い、抱き合って・・・。

 他の男性にあっさりと引き渡されてしまうような理由に、何も心当たりが無かった。

 
 一十木くんはあれからすぐ地方でイベントの仕事があり、数日間東京へ帰ってこない予定になっていた。それは、月初めに貰った所属タレントの大まかなスケジュール表で知っていた。

 私は一ノ瀬さんの曲だけを作っているのではない。一十木くんの曲も多くを担当させてもらっている。
 
 他にも、学園時代から一緒に仲良くしていた数人。それに、事務所へ入ってから何人かの先輩の曲も担当させて頂いていた。だから、毎月月初に、その時点での大まかなスケジュールが担当タレント人数分、私にも回ってきていた。

 あの夜は結局、一十木くんは明け方までに帰ったようだった。最後に彼が、「あれっ、もう2時なんだ。」 と小さく呟いた声を覚えている。明日早いんだよなあとブツブツ言いながら、シャワーを浴びてくる、と私に言い残してベッドを離れて行った。私は意識が朦朧としていて雪崩込むように眠ってしまって、はっと目が覚めた時は朝6時少し前だった。

 その時に部屋中を探したが、もう一十木くんは居なかった。

 
 
 トキヤに頼まれた。トキヤが望んだ。トキヤは、君の事が大好きだよ。だから俺と。

 
 「なんなの・・・。」

 何度思い返しても、わけが判らない。

 思わず口をついて出た言葉は非難めいたものか、ネガティブなものばかりになっていた。

 あの時の一十木くんの言葉の数々は、私を強姦しようとして、その場をごまかす為の出まかせの類だとしか。

 でも。

 そこまで考えて何度も行き詰る。
 そんな出まかせを言うなんて、おかしいのだ。
 
 普通に考えたら嘘をつくにしろ、君はトキヤにフラれたんだよ。だから俺と付き合おう。というような話をするのではないだろうか。あの状況であれば、その方がよっぽど自然で無理が無い。

 嘘をついてるようにはどうしても見えなかった。
 無邪気な笑顔は罪悪感の欠片も無かった。それどころか、未来を見ているような喜びすら彼からは感じられた。中に出す行為にすら、彼からは躊躇いが見えなかった。

 中に出されたのが解った時は、自分の中で何かが終わった気がした。
 自分の中側からとろりと流れ出る一十木くんの精が、ホテルのシーツと自分の身体を汚して纏わりつく絶望感。

 嬉しそうにそれを眺める彼が恐ろしかった。
 何度か私を犯して漸く満足し、私を抱きしめながらベッドでまどろむ彼が言った。
 
 「今日のこれで君が妊娠したら、俺、君と結婚できるのかな。嬉しいなあ。あ、でも今日は大丈夫な日なんだよねー・・・だったら無理かなー。それに、結婚出来たとしても、君は実際にはトキヤのモノなわけだしぃ。あーその辺がよく判らないんだよなあ難しくて、色々変だから。」

 彼が言う、”よくわからない” が、私にとっても見当のつかない部分だった。彼は何かをわからないまま、こんな重大な真似をしている。私はそれが怖かった。その何かを彼が理解してないせいで事態はどうなるのか。それがまったく見えないからだ。

 どこからどう見ても、恋人同士が愛し合った後に紡ぐ雰囲気そのままの彼は、少し乱暴に欲望をぶつけてきたそれまでとは打って変わって優しかった。大好き、大好き。と何度も頬ずりをしてくる一十木くんに後悔や後ろめたさは見て取れなかった。私を好きだというその言葉が、どうしても嘘だとは思えなかった。そのかわり、彼の目には私しか見えてないような異様さはあった。

 その異様さに怯えるのすら億劫になる程、一十木くんに身体をいいようにされ続けた私は半分意識を失っていた。

 私は彼に、大丈夫な日だ、などというような話は一切、してない。何を根拠に大丈夫な日、などと一十木くんが言ったのか。しかし事実、あの日はそういう日だった。

 彼は私と結婚したいというような事を言いながら、一ノ瀬さんと別れてほしいでもなさそうだった。まるで、一ノ瀬さんとお付き合いしてる私と、自分も同じように付き合っているような・・・上手く言えないけど、なんにせよ普通じゃない雰囲気だった。

 何度思い返しても、疑問を解決する答えもヒントも得られず、私は一十木くんとホテルでああなった翌日から数日間、ただただぼんやりと、1日の大半をベッドで過ごしていたが、水曜日の夕方、何とか気持ちを奮い立たせて身支度を整えたのだった。



 

 
 あの夜私は、時間に遅れず待ち合わせ場所へ着くように、家を出た。
 
 事務所が良く使うシャインというそのお店は、昼間はカフェで、夜はお酒も飲める小洒落たお店だった。

 私も数回、事務所の皆と出かけた。料理も美味しくて内装も凝っているし、雰囲気もステキな好きなお店だった。芸能人もしょっちゅう訪れるので、一見さんは入れないと聞いている。

 事務所を通せば個室を用意してくれるし、お勘定も後からでいいという話も、以前先輩から聞いた。事務所もタレントに勝手に動き回られるよりは、自分たちの顔の利く範疇で飲酒などしてもらった方がいいらしく、この店の予約は、快く事務所の名前で取ってくれるらしかった。

 夜、皆の仕事が終わってからの打ち上げなどでしか来た事がなく、大体が事務所の上司とタクシーで店の前まで来るので気付かなかったが、位置はあのホテルの丁度真裏辺りだった。あのホテル自体も、基本的に私のようなお金の無い若い女には用が無いから、地理がよく解ってなかった。

 

 到着すると、すんなり個室へ通された。

 「お飲み物はいかがなさいますか。」

 若い男性店員に聞かれ一瞬迷ったが、

 「・・・オレンジジュースはありますか。」

 そう聞くと、御座いますと答えられ、結局私はそのままオレンジジュースを注文した。

 まばらだがグループ客も居た店内とは、ほんの数歩の廊下を歩いた先で薄い扉1枚隔てただけだ。しかし、客の話し声も完全に聞こえず、バータイムらしく照明が暗い個室に落ち着くと、急にひとりぼっち感は色濃くなった。
 
 約束の時間よりほんの少し早目に来たが、まだ一ノ瀬さんは来ていなかった。いつになるか判らないから、相手が来てから注文します。というのも店に悪い気がした。

 仕事をしてからここに来るのだから、約束の時間に遅れるのは仕方がない。寧ろ、キャンセルになる可能性だって十分にある。なんでもいいから会いたくて、会えるならどれだけでも待とうと思った。

 その時、カタンと扉の外で音がしたような気がして、入口を見た。するりと戸が開き、私を案内してくれた店員が、こちらです、と、掌を上に向けて、誰かを部屋に招き入れていた。

 「いいよ、これはオレがココで貰おう。」

 その声で、私は目を見張る。
 店員から、グラスが2つ載ったトレイを受け取り私に向かって微笑みかけたのは、一ノ瀬さんではなかったからだ。

 「やあレディ、今日もとっても可愛いね。はい、オレンジジュース。」

 背の高いグラスに入ったオレンジジュース。
 ストローがやけにカラフルで、凝った装飾だった。

 カランと、風鈴のような、小さな女の子が履いた下駄のような。音が鳴る。
 
 テーブルに置かれたグラスの中の氷が揺れて鳴る、高い音。店の中で完全に遮断された空間に、水が固まった独特の音が響いた。

 私はそれを、狐につままれたような気持ちで聞いていた。

 「・・・神宮寺、さん・・・。」

 「驚いたかい。イッチーは来ないよ。急に別の仕事が追加されたんだって。」

 ベンチシートの、わざわざ私の隣に座りながら、神宮寺さんは笑顔でそう言った。向かい側にも席はあるのに。気付いたら店員の男性は既に居ない。頭の奥がじん、と痛んだ。

 待ち人は来ない。
 伝言を預かった異性の友人。
 
 2人きりの空間。そして、笑顔の相手。待ち人が来ない同じ理由。
 
 既視感。
 そして、それに伴い静かに波立つ不安。

 だってこんな、数日前と同じような展開で、不安にならない方がおかしい。

 「どう、して、神宮寺さんが・・・。」

 どうして。
 登場人物だけ変えてあの夜をリプレイするみたいな、空気。

 そこまで考えて背筋がヒヤっとした。
 
 必死でその想像を振り払う。
 手の甲の、人差し指の付け根辺りで小さく額を抑える。冷静になれと、自分を叱責した。

 「どうしたんだい。ひょっとして、具合でも悪いんじゃないだろうね。」

 「あ、いえ、あ、その、は・・・すいません。大丈夫です。」

 息がかかる程近い距離で顔を覗き込まれ、ビクリと肩を震わせてしまったが、なんとかしどろもどろになりながらも返事をした。

 しっかりしないと。
 あんなの何度も起きる訳がない。でも取り敢えずどうしていいかわからない。繰り返されそうなこの前振りが怖い。

 逃げたい。


 「あの、一ノ瀬さんが来ないなら、帰りますので。」

 私は、バッグを手に取った。
 その手を、神宮寺さんに握られる。

 「つれないなあ。もうドリンクも来ちゃったのに飲まずに帰るなんて、まさか、優しい君がまさかね。そこまで速攻で帰る必要は無いだろう。作ってくれた店員さんが可哀想だよ。それにね。」

 神宮寺さんが嬉しそうに笑う。

 「イッチーがに頼まれてるんだ。今夜は自分の代わりに君を楽しませてあげてほしいって。君の恋人から罪滅ぼしの代理をお願いされて、オレは友人として快く請け負ってしまったんだよ。・・・だから、帰せないな。」

 「・・・。」

 振り払い切れない想像から必死で目を逸らす。

 神宮寺さんはいい人だ。だから、来られなくなった一ノ瀬さんに頼まれて、友達として伝言を預かった。ついでに、待ちぼうけを喰わされた恋人の相手をと。

 単にここで、お茶を飲みながら談笑する。普通なら、思いつくのはそのくらいだ。それが普通なのだ。

 なのに一十木くんを思い出す。

 彼は言っていた。この情交はトキヤの望みなのだと。もしも今神宮寺さんが言わんとするのが、それと同じ意味だとしたら・・・? でも、そんなワケが無い。彼はそんな人じゃない。そう思い込もうとして必死に、神宮寺さんが楽しませてくれる事とは何かを考えた。そうじゃないと震え出しそうに怖い。

 ここはホテルじゃない。ここはたまたま個室だけれど普通の店の中だ。こんな場所で何も出来やしない。

 出来やしないと自分に言い聞かせるのに、焦りと不安がじわじわと体の上へ昇ってくる。彼に握られた手が熱い。

 「ほら、飲んで。まずは乾杯しよう。」

 グラスを持たされる。

 神宮寺さんは、女の子の扱いに慣れている人だ。
 異性の手を握るなんて、彼にとっては挨拶以前の動作。そんな人だ。日本人離れしたスマートな対応で、学園時代も女の子たちの心を掴んできた人。

 でも。
 こんな至近距離で、私に否応なくグラスを持たせる人じゃない。私のよく知る神宮寺さんは、否定を許さない笑顔で無理強いする人じゃない。それなのに。
 
 さっき、逃げたい。怖い。と思ったあの気持ちは、自分としては珍しく強く働いた第六感だったのだと薄く気付く。目を逸らしたのは無駄な希望に縋っただけなのだと、その瞬間の私は確かに気付いたのに。逃げ出すならもう今しかないと、入口に目を遣ったのに。

 「ほら、乾杯。」

 なのに。

 私の気付きを霞ませるように、優しく目を細めて促す彼の声は、まるで魔法みたいで。
 
 一ノ瀬さん以外の男の人にあまり慣れてない自分が情けなくなるくらい、私は、神宮寺さんみたいな素敵な人に間近に顔を寄せられ、囁かれ、言われるままジュースを飲んで、その場から帰る選択肢を失くしてしまったのだ。

 ふらふらする頭が重くて、でも、頭痛ではなくて、不思議な感覚だったのは覚えてる。

 「可愛いね。たったそれだけ飲んだだけで、そんなになるんだ。」

 「な、に・・・。」

 「大丈夫。怖がらなくていいよ。イッキの時は大分泣いたみたいだからね。オレは、そういうのはイヤなんだ。」

 神宮寺さんが囁く言葉も全部聞こえているのだけど、聞こえて、まともに言葉が出せなくて、あ、とか、う、とか言ってる最中に、次の言葉を言われると、もうさっきの言葉を忘れてしまって。

 車に乗ったのは判った。
 一瞬だったのは覚えている。走り出した車はすぐに止まって、私も降りた。到着した場所はとても眩しい光と、広い空間なのも判った。どこかで見たと感じていた。

 その時はまだ、自分の脚で立っていたと思う。多分、支えられてはいたかもしれないけど歩けていた。

 その後は、断片的な記憶で。
 
 その記憶の数々は思い出したく、ない。

 バラバラのパズルみたいに再生されるそのひとつひとつは、どれを取っても、神宮寺さんと私が裸で絡み合う映像だったから―――――――――。






 
 






  To Be Continued・・・











   次回第4話は、3月22日頃更新予定です。




 

 
 

 
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最新話お疲れ様です♪
みるくさん今回も最高な連載です‼︎
ま、まさかメンバー全員と⁇
と思いながら読ませていただきました。とっても続きが気になります♡

ma85さんへ

ma85さんおはようございます!
はーそうですかそう言って頂けるとモチベーションが上がります~!

今回も私の趣味だけに走りそうなのですが
最後までお付き合い頂けたらとっても嬉しいなって思います。
コメントや拍手頂けるって、ほんと有難いなっていつも感謝です。
更新が常に予定通りにできるよう最後まで頑張ります!
いつもありがとうございます!
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

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感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
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拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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