FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

pastiche 第10話 

 

 

 
 pastiche
 第10話





 

 

 多分、景色は極彩色かモノクロだ。
 実のところ周りなど見えていないが、そんな気がした。

 彼は話してくれると言う。あれだけ、隠し続けていた彼が。期待と不安で気持ちがぐらぐらする。

 自分が飲み込む息が、自分の喉を苦しくしている。
 そんな空気の中、春歌はトキヤを見つめた。

 未だに取り戻せない最後の記憶の部分を、トキヤが知っている。
 春歌は固唾を飲みトキヤの言葉を待った。

 トキヤは、無表情であっさりと告げた。

 「私が音也を突き落としたんです。つばさ山でね。」

 「・・・え。」

 その瞬間の頭の中は、なんと説明していいのか、上手く言葉にならない。春歌はそんな風に捉えていた。捉えられるような冷静な部分が、頭の中の僅かな部分にあった。衝撃が強すぎて、脳が麻痺したのだと思えた。

 空洞の中にぽつんと、言われた言葉がただの文字列として置かれ、記憶に組み込む事も、理解しようとするのも、聞き流すのも、すべて脳細胞に拒否されている。そんな感覚。トキヤの今の告白がまったく現実味を帯びずに浮遊している。

 「突き、落とした・・・? え・・・?」

 「ええ。」

 ぎこちない動きをする春歌と、滑らかに答えるトキヤ。

 「君を苦しめる音也を、私は許せなかった。ロケが終わって、話があると言うと簡単についてきましたよ。本人も証拠は無くても、私に言いたい、聞きたい話は山ほどあったでしょうからね。」

 トキヤは、視線を床に向けている。
 その目が実際は何を見ているのか窺い知れない。

 「つばさ山は自殺の名所です。そして、私たちはアイドルです。人目の無い場所で話をしようという提案を不審がられないのも、実際人目が無いのも、深くまで入り込んだら崖に転落して探し出すのは困難だというあの山も、すべてが好都合だった。」

 「つばさ山は、迷うと聞きました。とても歩ける道なんてない、人の手の入ってない場所なんだって。」

 「ええ知ってます。知っていたから私は、ロケの間もその前も、色々準備しました。」

 「準備?」

 トキヤは春歌をじっと見た。
 目の奥まで覗き込むようなその瞳に、春歌は少したじろいだが、トキヤはまた視線を外した。

 「つばさ山に入って、適当な距離で、木に印をつけて回りました。帰り道で迷わない為に、他人には判らないように、自分だけが判るようにね。原始的な方法ですが確実です。よく見つけ出したというか、よく実行した、と言うべきですかね。そうして、適当な崖を探し当てた。」

 「そんな・・・ん・・・? あ、れ? つばさ、山? 羽山じゃなくて、つばさ山?」

 春歌の言葉にトキヤは少し顔を上げる。だが春歌の方は見ない。
 自分が倒れていたのは羽山だ。

 トキヤが音也をつばさ山で突き落としたのが本当だというのなら、羽山で倒れていた自分はまったく関係ないのだろうか。

 「さすが自殺の名所でしたよ。ここから落ちたら、這い上るのはおろか、見つけ出しても貰えないだろう、という場所は結構ありました。落ちる途中で岩に頭をぶつけて死ぬか、飢えて死ぬか・・・覗き込んでも底が見えなくてゾッとしました。公に報道されていないだけで、年間行方不明者なんてものは実際は大勢いる。あの場所でも、そのうちの何人かが命を落としているのでしょう。雰囲気も不気味でしたよね。」

 「そんな、ふうに、言われても・・・。」

 春歌は、とにかく何かを言わなければという気持ちで返答するが、どう返答していいか悩み、そんな言い方をした。トキヤが少しだけ笑う。

 「思い出さないのですか。君も、あの場所に居たのに。」

 「・・・あの場所・・・? だって、一ノ瀬さんはつばさ山に行ったんですよね。私が倒れていたのは、羽山ですよね・・・?」

 「世の中は面白いものです。」

 トキヤはまた少し笑う。

 「自分の目で直接見てもいないのに、それらしく言われたりすると信じてしまう。まさか自分ならこんな場面で嘘はつくまいなどという思い込みが、疑う心を失くしてしまう。君が羽山で倒れていた、というのは、私の自己申告ですよ。つばさ山と羽山はとても近い。あの道路から救急車を呼べば、どっちの山に居たとしてもおかしくない。非常に便利でした。」

 「え・・・。」

 春歌は驚いてトキヤを見た。
 トキヤはもう笑っていなかった。

 「君はね、助けに来たんですよ、音也を。つばさ山までわざわざね。私の帰りを、東京でおとなしく待っていてくれればよかったものを。」

 淡々と、トキヤは言った。

 「私が音也に対して立てていた計画を知って、君は、音也を助けに来たんです。・・・私を、止めようとしに来た・・・。あそこの地理に詳しくないからといって、計画を練る時に色々紙に書いたのは、またそれを捨てずに置いたままにしておいたのは失敗でしたね。それを君に見つけられて、目印を辿って、山の奥まで入ってきて・・・。」

 「嘘です・・・そんな・・・そんなの嘘です!」

 「嘘? どのあたりが?」

 春歌の咄嗟の叫びに、トキヤは無表情で返す。
 相変わらず彼は、まるで観察するような目で春歌を見つめる。心の奥まで無遠慮に探るような視線。春歌は妙な違和感を多少感じながらも、なんとか気丈に言い返す。

 「どのあたりって・・・ぜ、全部です! そんな、一ノ瀬さんがそんなことするなんて、そんなの、そんなの信じない。嘘です。そんなの、絶対に違います・・・っ! そんなの・・・信じない・・・。」

 「根拠のない信用を口にされても困ります。」

 トキヤはまた少し笑う。

 「音也と言い争ってるうちに、どんどん真っ暗になりましてね。言い争いが揉みあいになって、暗くて足元が見えなかったから足を滑らせた音也が・・・まあ、結果的に私が突き落とした形になりました。どうしようもありませんでした。・・・丁度、音也が落ちる正にその瞬間に君が来たんです。君は目撃して、ショックを受けて、気絶したんです。事実は小説より奇なり。あんなタイミングで現れるなんて君、通常ではありえませんよ。」

 「・・・。」

 「いくら体の小さい女性であっても、人ひとりを担いで道もない山を降りるのは、相当の労力が必要でした。お陰であんな時間になってしまった。かなり深くまで入り込んでいましたし、君は目を覚まさないし、腕を木に引っかけたようで怪我が酷いし、焦りましたよ。しかし余程ショックだったのでしょう。目が覚めた君は、記憶をなくしていた・・・。」

 「ま、待って下さい。音也くんは足を滑らせたんですよね。だったら一ノ瀬さんは何も悪くないじゃないですか。罪に問われたりしないじゃありませんか! 今からでも遅くないです、警察とか、どこか頼んで、音也くんを探して貰えば・・・!」

 「探してもらってどうするというのです。」

 トキヤの声にはぶれがなかった。
 迷いなく、告げていく。

 「人の手のまったく入っていない山でしたから、印や懐中電灯を持ってきて無かったら、それこそ私も迷って死ぬところでした。音也は・・・あれからもう、半月くらい経っています。どう考えても・・・でしょう。」

 「でも!」

 「縦しんば、」

 トキヤが髪をかきあげる。

 「まだ生きていたとしましょう。それで、どうするんです? 生きて彼が帰ってきたら、君はまた、音也に脅され、傷つけられる毎日を受け入れるのですか。一ノ瀬さんを愛してると泣きながら、その私との関係を終わりにするというのですか。ドメスティックバイオレンスとリベンジポルノで君を社会的に殺そうとする音也など、何をしでかすかわからない。私ひとりどころか、レンも、聖川さんも、シャイニング事務所すべての所属タレントは芸能人、要はイメージで仕事をしているのですよ。」

 「そ、れは・・・。」

 「私も君も、羽山に居た。音也のことは知らない。それですべてが済むんです。事実、今まさに済んでいるじゃありませんか。事務所の上層部は、音也は単に仕事がイヤで逃げ出したという見解で落ち着こうとしています。君に酷い真似をしていた間ずっとサボっていた評価が、そんなトコロで浮き出ているんですよ。それに彼の生い立ち的に、必死になって探す親族筋がいないのは、今の私たちにとってはラッキーでした。」

 「そんな話になっているのですか・・・。」

 春歌は少し驚いて呟いた。
 社会というのは、こんなにも簡単に人を斬り捨てるのか、という現実を見た唖然だった。

 「ええ。このままこの話は事務所としては終わりでしょう。世間は冷たいものですよ。音也はまだ新人で、売れっ子でもなんでもない。そんな芸能人ひとりメディアに出なくなっても、誰も気にしないし話題にしない。あのロケ分がお蔵入りになっても、私が多少気分がへこむだけで、誰も大きくは困らない。売れてない芸能人の扱いなどそんなものです。」

 言葉だけ聞けば当然の事柄が、実際自分に振りかかるとこうも残酷なのかと、春歌はしみじみ感じていた。
 そう。売れっ子でひっきりなしにメインを張るような芸能人でなければ、代役などごまんといるのだ。仕事来ない者、運のない者、要求をこなせない者は、気に掛けて貰えるでもなくただ淘汰されるのだ。それが現実だ。

 知っていたつもりなのに、辛い。

 「大体。」
 
 トキヤが口調を強める。

 「特に君は、止めに来て偶然彼が落ちる瞬間を見てしまっただけです。彼がいなくなった件に関して、君は一切何もしてないんです。呼び出したのも私。突き落としたのも私。それを放置したのも私です。君じゃない。それは絶対忘れてはいけませんよ。いつか、これから時間が経って音也が崖から落ちるシーンを思い出したとしても、君は偶然見ただけなのですから悩む必要は無いんです! 」

 「で、でも・・・!」

 反論しようとした春歌の頬を、トキヤがそっと撫でた。

 「これが真実です。これ以上何かを探すのも思い出すのも無駄ですし、必要ありません。音也が滑り落ちてしまったあれは天罰だ。そう思って、私たち2人が真実を墓場まで持っていけばそれでいい。」

 「・・・。」

 春歌は何も言えなかった。

 「私を、嫌いになりましたか。」

 トキヤが悲しげに笑った。
 春歌は固まったまま動けなかった。

 「愛してます。私は君だけを愛してるんです。君の為ならどんなことでもしてあげたい。例えそれが、世の中では悪事でも、間違ってると言われる所業であってもです。君の為なら世間になんと言われようと構わない。君と一緒に居られるのなら、私はどんな罪も背負いましょう。君と離れない為になら、なんでもする。」

 トキヤが、春歌をまっすぐみつめた。

 「春歌、私は、君を心から愛している。何があっても、どうなろうとも。この気持ちだけは絶対に変わらない。」

 「一ノ瀬さん・・・。」

 言い終わらないうちに、視界がぶれた。

 「キャっ・・・!」

 叫びも途切れた。
 トキヤに口を塞がれたのだった。頬が濡れる。トキヤが泣いているのだと気付いた春歌は、だがあまりに多くの情報が一度に雪崩れ込んできたせいで、処理能力に置いてきぼりにされてロクな抵抗も出来ない。

 ブラウスの胸元を開かれ、乱暴なキスを何度か肌に落とすと、トキヤは春歌のショーツを剥ぎ取った。

 「! 一ノ瀬さ・・・!」

 反射的にトキヤを押しのけようとした。
 だがトキヤの体はびくともしない。ぽたりと、トキヤの涙が春歌の頬に落ちた。

 「いちの・・・。」

 「春歌。」

 至近距離で目が合う。
 またじっと見つめられる。言葉にならないこの視線の違和感。

 しかし、少しの間じっと見つめあっていたトキヤの目から、そんな違和感が消えた。
 
 「私は何があっても君を愛しています。それだけは、絶対に忘れないでください。だから、お願いだから、もうこれ以上は・・・これからは、今からは、もう私だけを見てください。頼むから・・・!」

 その叫びは静かではあったが絶叫のようで、春歌は自分の体が、ゆっくりと沈み込んでいくような感覚を覚えた。
 
 彼を泣かせたくなかった。

 春歌の脳裏に、取り戻したばかりの記憶がぐるぐると回る。
 
 自分の心変わりで音也は豹変した。ではここで今、トキヤを拒絶したら? 

 トキヤが音也のようにならない保証がどこにある? 

 音也だってあんなに優しかった。彼だって本気で自分を愛してくれていた。なのに突然変わったのだ。この目の前のトキヤに、今この状態で春歌が、自分はまだ思い出す事があるなどと口走ったりしても愛の方向を変えないという保証など、何処に。

 そもそもが、元はといえば自分の心変わりのせいで、トキヤがこんなになるまで追い詰められてしまったというのに。ここまで来たら運命共同体だ。

 
 春歌は、ぎゅっと目を閉じ、そしてトキヤを抱きしめた。


 「・・・春、歌?」

 
 春歌は、もう震えていなかった。
 しっかりとした口調で、トキヤに告げる。


 「決めました。私はもう今からは、一ノ瀬さんとの未来だけを見ます。一ノ瀬さんが傷ついてる顔は見たくないです。私も、一ノ瀬さんが、一ノ瀬さんだけが好きだから。愛してるから・・・もう、このまま、今聞いてしまった音也くんの話も忘れてしまうぐらいに、抱いて下さい。」

 「春歌・・・。」

 トキヤが感極まった様子で呟く。

 「こんなに嬉しいことはありません・・・。春歌、呼んでください、名前で。またやり直したい。君と。」

 春歌は微笑み、小声で告げる。

 「トキヤくん。愛してます。」

 そのまま、ぎゅっとトキヤに縋り付いた。

 
 今この場では、何をどうすることもできない。
 何かをどうにかしようと動いたら、きっと悪い方へ未来は転がると、はっきりと不安になれるから。

 そしてきっと、音也の安否は――――――――――。

 
 それを悟った春歌は、トキヤのすべてを受け入れる選択肢を取ったのだった。









  
 
 To Be Continued・・・







 

 
 次回11話は、11月14日頃更新予定です。
 今回は話の繋がり上、いつもより更新が早くてすいませんがよろしくおねがいします

 










 
関連記事
スポンサーサイト
[PR]

FC2公認の男性用高額求人サイトが誕生!
稼ぎたい男子はここで仕事を探せ!

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

最新記事
カテゴリ
検索フォーム
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。