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pastiche 第8話

 

 

 
pastiche
 第8話






 


 トキヤからのメールは、有無を言わせないものだった。

 「14時。私の部屋で。」

 たったこれこれだけを送信されたら、何があるのだろうと思い向かわざるをえない。
 今の春歌には知りたい事が山ほどあるし、その山ほどは、誰がどんな情報として持っているかの区別もつかないのだ。つくづくトキヤは頭がいいと、春歌は約束の時間にトキヤの部屋へ赴いた。

 自分の恋人は、本当は音也だったかもしれない可能性。
 それがある以上、本当は2人きりにならない方がいいと思っていても、それでも、トキヤが嘘をついているようにも見えなかった。

 途中で何か買って行こうと思い、通りのコンビニに入りながら電話をする。

 「はい。」

 「あ、私です。あの、今すぐ近くのロートンに居るんですけど、お水とか、牛乳とか、ほしいものがあればと・・・。」

 「・・・コンビニですか・・・赤いラベルのミネラルウォーター、そこに売ってますか?」

 やり取りしながらトキヤの希望の商品を見つけ出し、レジへ向かう。

 「部屋の鍵は開けておきますから。一階の暗証番号は教えた通りですし、勝手に入って来て下さって結構ですよ。」

 そう言われても、自分はトキヤの部屋の玄関でまごつくだろうと予想しながら、春歌はマンションのエントランスをくぐった。
 そしてやはり、玄関でもう一度チャイムを押し、トキヤがドアを開けてくれるのを待ってしまった。

 「そういう性格ですよね、君は。」

 トキヤは微笑んで部屋へ通してくれた。
 春歌も苦笑して、買ってきたミネラルウォーターを、コンビニの袋ごと手渡す。

 通されたリビングのソファに座る。

 「そう言えば、さっき私が折り返しすぐに電話したの、気付かなかったんですか。」

 トキヤがキッチンから声を掛ける。

 「えっ! そうなんですか!」

 「ええ、切ってすぐに、やっぱり違う水にしようかとすぐ電話したんですけど・・・。」

 春歌は携帯電話を取り出し、履歴を確認する。
 トキヤからの着信履歴は表示されない。

 「あれ? でも、残って無いです。一ノ瀬さんからの着信は。」

 「おかしいですねえ。ちょっと見せてください。」

 「あ、はい。あの、私の発信履歴はありますけど、一ノ瀬さんからの着信は残ってないんです。まさか、違う誰かに電話しちゃったんでしょうか。あ、でも一ノ瀬さんがそんな間違いしませんよね。」

 ふむ・・・と言いながら春歌の携帯電話を暫く操作していたトキヤは、まあよく判りませんが、私がかけ間違えたのでしょうか。などと言いながら、そのまま端末をテーブルに置いた。



 


 昨日。
 昼間レンたちと別れ、急いで部屋に戻った春歌は、手帳にあった数字をインターネットの検索画面に叩き込んだ。

 「・・・ペンション・・・。」

 ヒットした検索結果を見て、春歌は息を飲んだ。

 それは、ペンションの電話番号だった。
 心臓が動くその振動が目の前に見えるかのように、どくどくと脈打つ感触を強烈に感じながら、春歌はPC画面をそのままにし、携帯電話に番号を入力した。

 「はい。ペンション風の音です。」

 明るい女性の声がした。

 営業している。
 春歌の心臓がまたどくんと跳ねた。

 「あ、あの。」

 口のすぐ下が心臓かというほどの緊張。
 必死に震える声を宥めながら、春歌は言った。

 「つかぬ事をお伺いしますけど、そちらは、羽山のお近く、ですか・・・?」

 「ええまあ・・・まあそうですね、はい。」

 明るさをあまり崩さず、はきはきとした対応がなされた。
 
 場所的にも、ヒットした。
 自分が倒れていたという山。その近くのペンション。きっと此処に予約を取っていたに違いない。
 
 心臓がまたどくんと大きく動く。

 「あの、先月の20日なんですけど、一ノ瀬か、一十木、という名前で、予約が入っていませんでしたでしょうか。」

 いきなりこんな事を聞いて、おかしな女だと思われないだろうか。
 もし予約が入ってたとしても、電話を掛けている自分が不審者だと思われて、正確に教えて貰えないのではないだろうか。どくどくと脈打つ心臓の音がまた大きくなる。

 「20日ですか・・・あの、どういう・・・。」

 相手の女性の声のトーンが少し下がった。
 訝しがっているのがわかる。春歌は少し慌てて返事をした。

 「いえあの、その、人を、人を探しているんです。その人が最後に居たのが羽山の近くなんです。だから、もしかしてそちらに予約とか入ってたら、って思って。」

 すると、相手は多少安心したようで、ほっと短い息を吐いていた。

 「そうですか・・・それは大変ですね・・・えっと、いちのせ、ですよね・・・。」

 パラパラと紙の音がする。台帳でも調べてくれているのだろか。

 「はい、一ノ瀬か、一十木で、予約はないでしょうか。」

 「20日にはありませんねえ・・・というか、その前後にもそういうお名前では・・・。」

 「そう、ですか・・・。あ、あの七海で、予約入ってませんか。」

 「ななみ、ですか・・・うーん、申し訳ないんですけど、そういうお名前の方のご予約は頂いて無いですねえ。・・・あのぉ・・・。」

 電話口の女性が、少し黙った。何かを考えてるような間があった。

 「? はい?」

 「・・・いえ、申し訳ございません。すいません、今お伺いしたお名前では、予約は入ってないんですけど・・・。」

 気を取り直したように、明るくはきはきと応対され、春歌もそれ以上何も質問も浮かばなかった。
 
 「そうですか・・・すいません、ありがとうございました。」

 電話を切る頃には、心臓が大きくなった錯覚は収まっていた。

 しかし、手帳にあった数字の羅列が、このペンションの電話番号だという事は判明した。予約は入って無かったが、やはりあの山には何かある。何があるのか。自分はあの山に、何を置いてきたのか。

 レンと真斗には、このペンションのことは言えなかった。
 確実な何かが無いせいもあるし、まだ言うべきではないような気がしたからだ。


 

  

 そして。
 今、トキヤにこれを言うべきかどうか、春歌は迷っていた。多分だが、非常に高い可能性でトキヤと自分が恋人同士だったのは事実だろうと考えられる。真斗の話、チラついた自分の記憶。証拠は充分だ。

 だが、どうしても音也の存在が振り切れない。
 根拠はないが、自分でもどうにも音也のことが気になる。見舞いに来てくれていなかった時から、どうしてかこんなに彼に拘る気持ちが拭えない。音也とただならぬ仲だった可能性も低くない今、どうしても自分の記憶喪失と音也の失踪が、無関係だとは思えないのだ。

 やはりあの山に、何か用事があったからこそあのペンションの電話番号などを手帳に書いたに違いない。音也とトキヤの2人が、そして深夜には自分もあの土地に揃っていたあの日に何があったのか。それが知りたい。

 

 目の前では、トキヤが出してくれたジュースがシュワシュワと泡を軽くたたえていた。

 「それ、頂きものでしてね。炭酸入りのミックスジュースなんですよ。珍しいですから、どうぞ。」

 「ありがとうございます。」

 昨日の件は言うべきだろうか。
 迷いながら、出されたジュースを飲む。しかしどう言おう。ずばり切り込んで、風の音というペンションを知ってますか。などと聞けばいいのだろうか。

 「美味しいですか。」

 「あ、はい、そうですね、美味しいです。」

 「そうですか、それは良かった。痺れ薬が入っていますから、すぐ動けなくなりますよ。」

 物騒すぎる台詞に春歌が固まった。
 がしっと腕を掴まれて、床に引き下ろされる。

 「なっ、な・・・!」

 「大人しくして下さい。腕の骨を折りますよ。」

 「!」

 咄嗟に身体が静止した。
 トキヤは無表情で、何を考えてるのかは伺い知れない。力が込められた腕は離されないままだ。ぞおっという轟音が、自分の体内を冷たい火柱で焼きながら貫き走り抜ける。

 知っている。
 私はこの感覚を知っている。

 春歌の脳裏に体中の細胞が訴えかける。私は、この恐怖を知っている、と。これは記憶なのか、それともトラウマなのか。

 目の前の唇が動く。

 「レンに、聖川さんに、何を吹き込まれたんです。」

 「ひ・・・。」

 冷たい目が眼前に来て、春歌は身を竦めた。

 「な、なんで、それを・・・。」

 「そんなに不思議ではないでしょう。聖川さんと昨日事務所で偶然会って、これから仕事ですかと何気なく聞いたら、レンから連絡があって、夜は七海と約束をしたのだ。と聞いたので。それだけです。私は超能力者ではありませんよ。」

 くだらないと言わんばかりに返答される。まだ腕は掴まれたままだ。


 「私との関係は喋ったんですか。」

 「いいえ、いいえ!」

 必死に首を横に振る。
 歯が鳴りそうなのを耐える。

 「では、音也が行方が分からないという以外に、音也に関して何を教えて貰ったんです。言って下さい。」

 春歌は一瞬、目を伏せてしまった。
 行方が分からない以外の音也の情報を手にしていると、誰の目から見ても明らかな動作をトキヤに見せてしまったのだ。トキヤは目を眇めて、まだ腕を離さないまま言った。

 「正直に話して下さい。何を言われたんです。」

 「な、にも。」

 精一杯の声を振り絞る。泣かないようにするには、短く返答するだけでぎりぎりだった。

 「なにも? 何も言われてないと。では、どんな用事で君が、あんなペンションに電話をかけたりしたんですか。」

 ぎくりとした。
 どうしてトキヤにそれがわかるのだ。どこで見られていたというのだ。怯えた目で自分を凝視する春歌に、トキヤが思わず笑う。

 「盗聴や盗撮でもされてるかと思いましたか。ふ、馬鹿らしい。今、君の携帯を目の前で、私が見たじゃありませんか。」

 「あ・・・。」

 「一昨日のセックスでは満足できませんでしたか。存外、君は見た目と違い随分な淫乱らしい。あれよりもっと理性を失くすくらい攻め立てないと、大人しくしてくれないのですか。」

 トキヤの手が、するりと腰を撫でた。
 春歌ははっとして、大きな声をあげる。

 「な、なんで! 」

 その声で、トキヤが春歌を一瞥する。

 「どうしてですか! なんで一ノ瀬さんが、あの電話番号がペンションの番号だって判るんですか!」

 「・・・。」

 トキヤが不機嫌そうに春歌を見た。

 「あの番号は、私の手帳に書いてあったんです。しかも私は最初、電話番号かどうかも判らなかった。どうして一ノ瀬さんは、履歴の番号を見ただけで、あれがペンションの番号だって判ったんですか! 何を隠してるんです、どうして何も教えてくれないんですか! 知っているのに教えてくれないなんて、卑怯です!」

 トキヤは暫く動かなかった。
 春歌は短い呼吸を繰り返した。緊張していた。声を張り上げトキヤを非難した自分に。そして、それに対し黙っているトキヤに。

 トキヤが、肩を下げた。
 力が抜けたのが伝わる。

 「君は、私との関係を思い出してくれたと思っていました。」

 立ち尽くしたまま、トキヤが言う。
 春歌はこたえた。

 「思い出しました。一ノ瀬さんと、その、ああいうことをして、私、思い出しました。前も一ノ瀬さんと、こういう事をしたことがある。って・・・。」

 弾かれたようにトキヤが春歌を見た。
 春歌はそんな彼を見つめ返した。

 「一ノ瀬さんが言うように、私たちは恋人同士だったと思います。それは私も信じられるようになりました。でも、おかしいんです。音也くんとの関係がまったく思い出せないなんて、おかしいんです。だって私は、音也くんを、いつから音也くんと呼んでいたのか覚えてないんです。」

 トキヤの目がゆっくりと、見開かれた。

 「一ノ瀬さんと買い物に出かけた時、私は一ノ瀬さんを好きでした。友達としてじゃなく、好きって気持ちになってたんです。その記憶があるのに、その時手伝いに来てくれた音也くんをどう思っていたのかとか、全然覚えていないんです。こんなのおかしい。それに・・・。」

 言い淀んだが、春歌は意を決して告げた。

 「音也くんの携帯に、私の画像があったのを見た人がいるんです。・・・裸で寝ている私の、画像を。」

 それを聞いた瞬間のトキヤの表情は、今まで春歌が生きてきた中で、一度も、誰からも、見せられた事のない表情だった。

 ゆっくりと、春歌から体を離したトキヤがテーブルに崩れた。

 「一ノ瀬さん!」

 思わず駆け寄った春歌に支えられたトキヤが呻く。
 春歌はトキヤを支えながら、自分の体に変化が無い事に気づく。

 「大丈夫ですか一ノ瀬さん。あ・・・あれ、私、動けます、よ・・・?」

 さっきトキヤに痺れ薬などと言われビクビクしていたが、体はいつもと何ら変わりない。トキヤは崩れ落ちたまま、ああ、あれは冗談ですよと言った。

 「冗談? どうしてですか。どうしてそんな冗談・・・。」

 「君があんまり大人しくしていてくれないから、少し脅そうと思って・・・でも・・・もう遅いのかもしれません。」

 「遅い? 遅いってなんですか。何が遅いんですか。」

 春歌がそう尋ねると、トキヤが突然がしっと春歌の腕を掴んだ。
 一瞬、ほんの一瞬だけ何かの躊躇いを見せたトキヤだったが、春歌の顔をしっかりと見て、ニッコリ笑うと、明るい声でこう言った。

 
 「このまま腕の骨を折っちゃったら、君は、どこにも行けなくなるよね。」


 「――――――――っ」

 
 それは、トキヤの台詞ではなかった。
 トキヤの口から流れる言葉はただの模倣だ。

 その時、春歌の頭の中で、ぱんっ! と軽快に何かが弾けた。レンたちに話を聞き、真斗に話を聞いてずっと持っていた、奥歯に物が挟まった感覚に似たもどかしさが、その台詞を聞いた瞬間に勢いよく弾け飛んだのだ。

 目の前のトキヤを凝視する。
 トキヤの演技を通して、以前その台詞を自分に突き付けた ”彼” を凝視する。

 「お、と、や、く・・・ん。」
 
 春歌の呆然とした呟きを聞いたトキヤは、沈みそうな絶望を受け入れるかのように、惨憺な顔で目を閉じた。





 
 

  

  To Be Continued・・・







   

  次回 第9話は、11/6頃更新予定です










 
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No title

 え、ちょ、予想外の展開に驚き。
 そのことに気づいたはいいものの、今の状況をどう打破するのか……どうなってしまうのか。

 次回も楽しみです♪

紅さんへ

紅さんこんばんわ!

ううううううれしいですー!
驚かれるのが一番嬉しい!
ああ、良かった・・・って気持ちでいっぱいですwww 嬉しすぎます。

まだ続きます
明日か明後日には最新話更新予定です!
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

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感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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