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pastiche 第5話

 



 

 pastiche
 第5話






 

 その日はトキヤが、夕方からずっと春歌の部屋に居た。
 林檎に会って話を聞いた翌日のことだ。
 
 午前中は病院で潰れてしまった。予約をしていても、総合病院はその意味がないほど待たされた。
 
 先に腕の傷を見る為に外科へ行った。そこからまた、記憶に関する診察を受ける為に別の棟まで歩いた。大勢の人が行き交う廊下を歩きながら、大分待ちそうだな・・と春歌は思った。

 案の定、大分待った。そしてそれだけ待っても診察は、10分足らずの問診を受けただけで終わった。腕の傷はほぼ治りかけている為、結局身体的な損傷は一切見られない。そうなるともう記憶喪失に関しての治療だけなので、医者が何が出来るというものもないのだろう。

 しかも、自分のようにたった一部だけの記憶がないというのは、精神的なショックが引き起こす一時的な症状で、重要視はされてない。そのような説明をうけたのもあり、春歌は窓口で次の予約を、仕事の都合が判らないので、次は待ってもいいから予約無しで来ます。と断った。

 家に戻ってただぼんやりしていた。
 やっと、ただ佇むだけから気を取り直し、曲でも作ろうとしたその時、玄関のチャイムが鳴ったのだった。

 
 先日の映画帰りにあんな目にあった気まずさは、何故かあまり無かった。
 訪ねてきたトキヤの顔を見た途端、あのソファでの口淫は当然思い出されたのだが、目の前の彼の疲れ切った顔色で打ち消された。

 昨日1日早朝から深夜まで撮影をし、挙句今日はまだ深夜の域を越えない未明からロケだったと説明したトキヤは、まさに倒れそうだった。部屋へ通した途端、シャワーを借りて春歌のベッドでぐっすりと眠るトキヤを見て、春歌は呆れながらもそのままにしておいた。

 それは母性に近かった。
 無償の慈愛は、赦しを産む。それは、女にだけ備わった特殊な感情なのだろうか。と春歌はチラリと思った。

 2時間もすると起きてきて、今度は次に出す予定の新曲の作詞をするというので、春歌も隣で曲を作っていた。

 時々トキヤが手を休めて、必死に楽譜を起こす春歌を見て微笑む。春歌もつられて笑った。少し経った頃、春歌が昨夜作ったシチューを温め直し、冷凍しておいた白飯をチキンライスにして、ドリアを作ってトキヤと共に食べて夕食とした。

 春歌がキッチンに入って少しすると、トキヤが様子を見に来た。
 玉ねぎを刻む音が終わるまで、トキヤは眩しそうに春歌の姿を見詰めながら隣に寄り添うように立っていて、春歌は恥ずかしさであがって指を切りそうになった。それでも、短い会話と笑顔を交わすその度、これが恋人同士としてのトキヤとの日常だったのだろうかと考えた。

 食事を終え、温かいお茶を淹れ直していると、トキヤが徐に聞いてきた。

 「体調は、どうです。もう元に戻りましたか。」

 「そうですね・・・あんなに眠かったのも嘘みたいですし、外には映画を見に出掛けたきりで出ていませんけど、気分が悪いとか、そういう事はないです。もう元に戻ったと思います。」

 「そうですか。」

 会話が切れ、無言の空間が広がる。だが2人でこうしていても、息苦しさは無い。
 
 自然と2人きりで居られるのは、やっぱり恋人同士だったからなのだろうかと、考えを巡らせる。ふと気付くと、トキヤが難しそうな顔をしていた。目があうとじっと見つめられ、そして、その視線を外しながら彼が言った。

 「今日、泊まってもいいですか。」

 「えっ!?」

 春歌は驚いて、思わず椅子から立ち上がりかけてしまう程だった。
 トキヤが苦笑する。

 「まあ、そういうリアクションでしょうね・・・。でも、すみません。私はもう悠長に待つのはやめようと思いまして。君の記憶が戻らなくても、私たちが愛し合っていた事実に変わりはない。だから、今まで通りにします。今まで通りの日々をまた過ごせば、失くした記憶などきっと些細なものになる。どのみち、私と過ごす日々の記憶しか、失くした中で取り戻す必要がある物は無いのですから。」

 まただ。
 トキヤの言い方が引っ掛かる。トキヤとの日々以外にも、何かがある筈なのに、彼はそれは取り戻す必要が無いと言っているのだ。

 しかしトキヤにとって、そんな春歌の戸惑いは取るに足らない用件らしい。
 トキヤは立ちあがり、春歌の手を取った。

 びくりと、春歌の肩が跳ね上がる。

 「寝室へ行きますよ。」

 「いえあの、あの。」

 急な展開についていけず、しどろもどろになる春歌の手を、トキヤはくいっと引っ張った。

 「来なさい、春歌。」

 「・・・っ。」

 反論出来ないその声に、春歌は取り敢えず立ち上がった。
 どうしてトキヤの声に逆らえないのだろう。自然と従ってしまうのはどうしてだろう。

 この前のように乱暴にされたら抵抗すればいい。ハッキリしないうちから体の関係を持つのは辛いと説明して、尚も無理強いをするような男ではないと、春歌はそういう部分ではトキヤを信用していた。友達としての記憶は確かなものだ。彼は真面目だ。そういう根底の安心感が、トキヤにすんなりついていってしまう理由なのだろうか。

 手を引かれ、寝室へ入りベッドへ促された。
 林檎から聞いた事を言おうか、それを言わずに自分の気持ちだけを言おうか一瞬迷ったその隙に、トキヤが春歌を抱きしめた。そして優しい声が、髪に降りた。

 「好きです。私は君さえ居ればいい。」

 身構えていた春歌は呆気に取られた。
 てっきりこの間のように、いきなり行為そのものを要求されるかもしれないと思ったのだ。

 言葉はあの時と同じだ。懇願するような声も。
 でも、雰囲気が全然違った。

 春歌の予想に反し、トキヤは優しく春歌の背を撫で、髪を梳き、触れるだけの柔らかいキスを頬や額に絶え間なく贈った。うっとりとした春歌の身体から力が抜けていく。

 「この前はすみません。乱暴な事をしました・・・反省しています。」

 春歌の首筋に顔を埋めたまま、トキヤがぽつりと言った。

 「私も、辛いのです・・・冷静になろうと思っても、どうして、という思いが抑えられずに・・・君をあんな目に遭わせてしまって、すみませんでした。」

 「一ノ瀬さん・・・。」

 「好きです。私は君だけを、ずっと、何があっても好きでいる。離さない。信じてほしい。だから何も考えず、私についてきてください。私は君を悲しませたりしない。絶対、守ってみせる。」

 ぎゅうっと抱きしめられ、そのまま口を吸われた。
 真剣な、圧倒されるような熱い愛の告白と共にされるキス。

 しかし荒々しさは微塵もなく、優しく、何度も何度も吸われた。また更に力が抜けていく自分の膝を、春歌はその時意識するでもなく、されるがままになってしまっていた。

 気付けばベッドに押し倒されていた。
 それすらすぐに気付かないほど、衝撃を感じずに倒されたのだった。

 凝固した貴重品を慎重に溶かしていく。トキヤの愛撫はまさにそういう丁寧さで進められた。

 いつ溶けるかはその時次第。だからこそ、その貴重品に対して愛情を持て無ければ根気が続かないやり方だ。トキヤは春歌の身体から完全に力が抜けるまで、声が甘い色のみで彩られるまで、優しいキスを上半身に繰り返した。肌を撫でる手も、壊れ物に触れる繊細さを欠く事が無かった。

 優しさと情欲が混在するバスタブ。
 温くて出るのが惜しい気さえする。

 すっかり息を乱した春歌の首筋に、尚もトキヤが掠めるようにキスを繰り返す。
 断らないといけないのに、言葉に出せない。トキヤの誘惑に負けてゆく。

 堕ちるというのは、これなのか。どうして抵抗出来ないのかも判らないまま、引き摺られて行くことなのか。

 「あ、一ノ瀬さん、あ、ん!」

 燻ぶる熱を産む愛撫が長く続き、春歌の下腹の奥はすっかり疼いていた。
 自分は知っている。この、優しいキスと、それによって引き起こされるこの疼きを知っていると思った。

 耳朶を指先でなぞりながら、反対側の耳元で、トキヤが囁く。

 「君はね、この辺りがとても弱いんです。耳や、首筋・・・。ここにキスをするだけで、いつもたくさん濡らして・・・。」

 言いながら、トキヤの指がスッと耳から脚の間に移った。
 迷いのないその指がショーツの中に入り込み、柔らかい肉を割ると、ぬるりとした感触と共に、自分の粘膜が腫れているのが判った。

 「やっ・・・!」

 「ああ、興奮しているんですね。君のいやらしい入口の周りが、もう熱くなってます。」

 「あん、あんっ。」

 指を出し入れされて、喘ぎ声しか出ない。気持ちが良くて、入れて貰えた事に喜ぶ肉がまた熱で腫れて、トキヤの指を逃すまいとしている。こんなにトキヤの指に反応している身体は、やはりトキヤに慣らされていたのだろうかと嫌でも思ってしまう。

 「ココを触ると、腰が跳ねるんですよ。」

 「ひぁっ!」

 敏感な部分を剥き出しにされたのが判った。そこを容赦なく指の腹で撫でられて、腰が跳ねた。

 「ほらね。とても可愛いんです、私の指でこんなに腰をくねらせる君が、とてもいやらしくて、私を誘ってるとしか思えない・・・。」

 言葉に熱が籠り、トキヤも興奮しているのがわかる。
 
 何に? 
 自分のこの、あられもない姿にか。

 そう思ったらまた、春歌の身体の中にかっと火がついた。唾液の温度も判断できないようなキスをされ、益々まともな思考が剥ぎ取られる。絶え間なく胸の天辺と花芽の、敏感すぎる両方を指で刺激され、トキヤの下で壊れた人形のように体中をひくつかせる。

 「挿れても、いいですか・・・。もう君も、出来あがってるようです。」

 「あ、ア・・・。」

 返事が出来ない。
 
 してしまったら、自分は恋人だと認めてしまう気がした。それでももういいとさえ思ってしまうこの快楽が怖い。トキヤの思いやりのある指が怖い。愛されてると実感してしまう。その愛が心地良いと思ってしまう。自分だってこの男に、それなりの好意は持っていた記憶がある。その相手とこんな風になって抗えと言う方が無理だ。もう過去などどうでもいいから、今この男と恋人として繋がりたいと思ってしまう。

 でも。
 だけど。

 それでいいのか、それで、記憶の無い状態で今だけを見て、いいのか。流されてはいけない。自分の恋人は、音也だったかもしれない可能性がある以上は。今この心地良さに負けてしまっていいのか。

 最後の疑問を必死の抵抗とし、

 「ダメ、です・・・。」

 と、春歌は声を振り絞った。

 トキヤはその言葉にキスを返し、そして春歌の耳を甘噛みしながら囁いた。

 「ダメ、とはどういう意味です。ああ、まだ準備が足りないという意味ですか。そんなに私に奉仕させて、嬉しいですか。」

 「ひああああ。」

 さっきより衝撃が重い。
 入れる指を増やされたのだが、重い衝撃が下腹を穿つ感触が、痛みに繋がらないのが恨めしい。自分の身体が男を知っているのが嫌というほどわかる。それはトキヤによってだったのか。それとも。

 指を出し入れしながら、また上半身にくまなくキスをされる。
 ゆるい快楽と抉るような衝撃的な快感に、春歌はもう自分の身体の節の境目がつかなくなってきていた。ああ、ああ、と、同じ喘ぎ声を出すしか反応が出せない。指すら動かない。体すべてが甘い痺れに力を奪われてしまった。

 快感を与えられ続けた身体はすっかり蕩け、トキヤが自分の服を総て脱いで、脚の間に割り行ってきても、逃げる気力を起こさせなかった。

 目の端に、恐ろしく膨張したトキヤの男性自身が映る。
 息を飲みそうになるが、それすらままならない。気怠い甘さで全身がずぶ濡れになり、その重さで動けない。自分の腹に着くほど反り返ったそれを、トキヤが春歌の中心に擦りつける。

 たったそれだけで、ちゅくりと水の音がした。

 「や・・・っ、や、ぁ・・・。」

 「いや? 私もですよ。擦りつけているだけでは我慢できない。」

 そのトキヤの言葉が終わる前に、にゅるりと簡単に、それは春歌の中に入り込んできた。至極自然だった。それだけトキヤの愛撫で、体が完全に解されていた。痛みもなく、ひっかかりも抵抗もなく、トキヤのものが奥まで簡単に届き繋がった。

 「は、あ、あ、・・・。」

 圧迫感で漏れる息も、決して辛さではなく。
 トキヤに抱かれて悦ぶ全身が、切なく吐息を上げさせているのだ。

 「ああ、君のからだ・・・またこうして抱けて、嬉しい・・・。はぁ、本当に久しぶりで、持たないかもしれません・・・。」

 感極まったトキヤの声が、また心を揺さぶる。そんなに舞い上がってもらえて嬉しい。求められ過ぎて嬉しい。
 
 
 どうして、どうして嬉しいと思うのだろう。好きだから? 好きだったから? つきあっていたから? それが真実なの?


 「私たちはね、こうして愛し合っていたんです。キスをして、身体を触り合って、繋がって・・・君が可愛い声をあげて・・・。」

 「あっ、あんっ、あん。」

 「気持ちいいでしょう。私とこうしているの、好きでしょう。」

 「あ、そんな、あんっ。」

 「私は君さえ居ればいい。春歌、君もそうですよね。こうやって私と一緒に気持ち良くなって、それ以外に何がほしいですか。」

 今そんなことを言うのは卑怯だ。
 頭も身体も、総てが今トキヤに支配されつくしたこの状態で。

 優しくて、甘くて、どろどろになって混じり合うセックスを味わわされて、思考の芯までびしょ濡れになってからそんなことを聞くなんて、狡すぎるのに。その狡さにさえ感じて声をあげてしまう。卑怯な男の手に嵌った弱い自分に酔う感覚が堪らない。だってそれが、自分を手に入れたくて必死になってくれた末の蛮行だとわかるから。

 「君は、私と一緒に居ればそれでいいんです。一生まもってあげます。春歌、どうか、私のことだけ考えて、もう何かを思い出そうとするのはやめて、私との未来だけを考えてください・・・!」

 それは呪文か。
 それとも、祈りか。与えられるキスが春歌を翻弄する。

 喘ぎ声と吐息の絡むシーツの海で、トキヤともつれ合い流されていく。
 そしてその合間、僅かな一瞬に、確かな記憶がチラチラと明滅する。自分はこんな夜を過ごしたことがある。確かにある。

 確かに私は、こうして彼に愛されたおぼえが、ある――――――――――――――。


 大きな波に飲み込まれ必死で酸素を吸いながら、春歌はトキヤの腕の熱さに爈かれ続けた。






    


  

  To Be Continued・・・



  




  次回第6話は、10月19日頃更新予定です。








 
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No title

しかし、病的だな……。うぅ……真実を知るのが怖いが、楽しみでもある。

紅さんへ

紅さんこんばんわ!

物語もこれで大きく動き出します(予定)
楽しみだと思っていただけているなら本当にうれしいです。
がんばりますー!

コメント本当にありがとうございました!
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

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只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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