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pastiche 第4話

 




 
 pastiche
  第4話



 

 



  「え?」

 林檎は笑顔のままだったが、明らかに身構えた。
 トキヤと異なってはいても同じような反応は、春歌を慎重にさせるのに充分だった。

 「ね、ねえ春ちゃん。春ちゃんは今、余計な心配とかは良くないんでしょう? 明日は一週間ぶりの、しかも新しい病院で初めての診察なんだから、関係ない話を聞いて気持ちを乱して行かない方がいいわよ。」

 「気持ちが乱れるような話なんですか。」

 「・・・そんなことは無いわ。」

 林檎がにっこり笑う。
 
 それがわざとらしくて、春歌は林檎が隠し切るつもりでもないのだと推測した。もし本当に何かがあって、それをどうあっても隠しておきたいなら、こんなに態度には出さない筈だと。ばれてしまっても仕方ない、若しくはばれた方が良い位と思っているからこその態度だと。だから春歌は強気で押した。

 「じゃあ、聞かせて下さい。」

 待ち合わせをした喫茶店は、事務所からあまり遠くない。
 
 全体の2割程の席が仕切りで区切られていた。完全な個室にはならないが、隣の席の人間の顔は着席中は勿論、席を立っても覗き込まなければよく見えないし、余程大声で話さない限り、会話は聞きとれない距離があった。

 仕切りの役をする壁に、ガラス細工が施してある。
 そこに映る自分の顔が、歪んだモザイクのようだ。

 運ばれてきたアイスティーの氷をストローでつついて、林檎は溜息を吐いた。

 「・・・先に聞いていいかしら。」

 「はい、どうぞ。」

 「春ちゃんは、どうしてあんな遠くの山へ行ったの? やっぱり、トキヤちゃんとお付き合いをしていたからなの?」

 林檎の質問に、春歌は首を傾げる。

 「どうしてあの山に出掛けたら、一ノ瀬さんとおつきあいをしてるってなるんですか。」

 林檎はカラカラと氷を回す。
 春歌の目の前の林檎のグラスは、所々不規則に窪ませたデザインで、壁のガラス細工に映るのと似た、歪んだ顔が見えた。

 「・・・何をどれから話したらいいのかしら・・・。」

 カラン。と、氷が音を立てる。

 「本当はお医者さんに、記憶が無い部分の事をあまり言わないようにって言われてるのよ。今からアタシが話すのは、あくまでアタシの主観というか、アタシが、人に聞いた話から想像しただけっていうか・・・。春ちゃんが、自分の見た物ではない記憶を信じ込んで、本当の記憶を思い出すのに邪魔になるといけないって言われてるから、だから、それは気をつけてほしいの。」

 春歌は頷いた。

 「林檎先生からお話を聞いても、それを全部鵜呑みにしなければいいんですよね。大丈夫です。お願いです。教えて下さい。何でもいいんです。だって一ノ瀬さんは、先生から聞け、って。日向さんでもいいけど、林檎先生の方が掴まえやすいって。」

 「それ、アタシの方が仕事が無いってこと~? ま、事務仕事は龍也がしてるから反論出来ないわねえ・・。」

 林檎の言う通り、実際、龍也は多忙すぎて掴まえられなかった。諦めて今日は帰ろうかと出口へ向かおうとした時、鼻歌を唄いながら廊下を歩いていた林檎を見つけて声をかけた。林檎は一瞬驚いた顔をしたが、少しの時間ならと応じてくれたのだった。
 
 立場上、龍也より林檎の方が厄介な肩書きが無いだけ、自由な時間があるというだけなのだが、話をしてくれるならどちらでも良かった。春歌はとにかく、トキヤ以外の人間から、自分とトキヤの関係性の手がかりも音也の情報も、貰いたかった。

 「・・・。」


 林檎はもう一度溜息をついた。
 そして、ゆっくりと話し出す。

 「少なくともアタシは、春ちゃんとトキヤちゃんは男女のおつきあいをしてるんだと思ってたわ。別にこれと言って決定的な瞬間を見たとかじゃないけど。でも、他の子もそう思ってたんじゃないかしら・・・。まーでも、ハッキリあなた達から聞いたわけじゃ無いから絶対とは言えないけど。ハッキリさせたらクビだしね。」

 春歌は、トキヤから恋人だったと言われた件は伏せていた。事務所が恋愛禁止なのはしっかり記憶があったし、そもそも本当に恋人かどうか、自分にとってまだ不明確な情報を流すのは良くない気がした。

 単純に、音也が見舞いに来なかったから気になったので、入院中世話をしてくれたトキヤに、音也はどうしたのかと尋ねたら、自分は知らない。詳細は林檎に聞けと言われたから来た。とだけ告げていた。トキヤの激昂も伝えていなかった。

 林檎は、目を伏せながら話はじめた。

 「あの日、トキヤちゃんとおとくんは、自然と触れ合うテーマでロケに出掛けていたの。来月、トーキョーTVのゴールデンタイムに放送される特番でね。旅番組としては豪華なタレントさんが結構出るのよ。それぞれ色んな自然豊かな場所へ行くの。で、つばさ山の傍にある河原でのバーベキュー担当に、ウチの2人が抜擢されたの。」

 林檎は続ける。

 「つばさ山は、あなたが発見された羽山から少し離れた山でね。自然豊かというより、完全に人の手が入ってない山よ。羽山とは比べ物にならないくらい大きいし。登ってすぐくらいまでは道らしいものもあるらしいけど、無理に登って行くと崖みたいな場所ばっかりらしいわ。自殺の名所って噂もあるしね。」

 「噂・・・。」

 名所でありながら、それが噂とは不思議だ。その名にふさわしいという事実が確認出来るからこそ、名所と呼ばれるようになるのではないのか。

 それを林檎が心得たように説明する。

 「山が深くて、崖があって、人の手が入ってなくて昼でも暗いらしいわ。当然、夜も真っ暗・・・。雰囲気的には、自殺の名所と噂されるにバッチリな所よ。で、昔、山の入り口で首吊り自殺があってニュースになった事があるの。それから、興味本位で入って行方が判らなくなった人が何人か居るって噂が広まったの。迷った末に崖から落ちたんじゃないかとかって・・・。色々噂がたくさんある山なのよ。お化けが出るとかね。」

 なんとはなしに、真っ暗な森をイメージする。よくもそんな場所でバーベキューをしている番組を作ろうなどと思ったものだと、多少の嫌悪を覚えた。
 
 「そう聞くと、なんでそんな場所でってなるじゃない。」

 林檎が、春歌の気持ちを酌んだかのようなタイミングで話を続ける。

 「自殺の名所とは言われてるけど、それはアクマで噂だし、死んでるとしても山の奥の方の事よ。今回ロケをしたのは山に入る手前っていうか、山自体には入ってないの。あそこの入り口辺りはとても神秘的で、今の時期は花が一杯咲いて綺麗なのよ。富士山だってそうじゃない? 樹海はあるけど、別にその周りは平気でしょ。そんな感じよ。そこで、自然に感謝しながら火を起こして物を食べるっていうのがメインテーマだったの。」

 春歌はオレンジジュースを注文していた。
 林檎が話を始めてくれるまでにもそれなりに時間が経っていて、飲んでみると、上の方はすっかり味が薄まっていた。

 「撮影は順調に終わったらしいわ。あの撮影が終わったら、それから2人は1週間オフだった。撮影が終わったって連絡を2人とも、ちゃんとしてきたわ。それぞれ別に連絡してきたけど、2人とも、オフになるからこのまま遊びに行くって言ってた・・・でも。」

 林檎は額を抑えた。

 「その夜よ。トキヤちゃんから、貴女を病院に運んだって一報が入ったのは。」

 林檎の声は重かった。

 「龍也も私も、急いで病院に駆け付けた。目が覚めないって聞かされて、血の気が引いたわ。腕の怪我も結構ひどいっぽかったし・・・。でもその後、無事に目覚めてくれて本当に良かった。命に別条が無いって診断だけはおりたから、トキヤちゃんに任せて先に東京へ帰ったけど、記憶が無いって言われた時はどうしようかと思った・・。みんなも、本当に心配したのよ。」

 「ごめんなさい。あの時、みんなあんな遠くまで来てくれて・・・。」

 退院する時にやっと、そこが東京の病院ではないと気付いた春歌は、友達が見舞いに何時間かけてきてくれたのか、その時になって思い知ったのだ。自分は危篤だくらいに言われていたのだろうと察した。申し訳ない気持ちだった。

 「ああいいの、それはいいのよ。みんな貴女の事を、それだけ好きってだけの話なんだもの。・・・それでね、アタシは、トキヤちゃんが今から遊びに行くって言っててあんな事になったから、てっきり貴女と一緒に羽山へ登って、それではぐれて、あんな目に遭っちゃったのかと思ったの。」

 「はあ・・・。」

 「自殺の名所のつばさ山ほどじゃないにしろ、羽山だって何にも無い山よ。恋人同士でハイキングに出掛けるような山じゃないわ。だから、そんなトコに何しに行ったのかって疑問はあるんだけど、実際春ちゃんはそこで倒れてたんだし・・・。だから、アタシはトキヤちゃんと一緒に登ったと思ってるわけよ。」

 林檎がストローで勢いよく飲み物を流し込んだ。

 「それにトキヤちゃんとお付き合いをしてないなら、わざわざ春ちゃんが東京からあんな場所まで行かないじゃない? 彼氏の仕事が終わるのに合わせて、オフを一緒に過ごすために会いに行ったと思うのが自然だわ。でも・・・貴女の記憶が無い以上、本当の事はわかんない。・・・それに・・・。」

 林檎が少し言い淀んだ。
 春歌は目で、言って下さいと訴えた。

 「それとね・・・。これ、ほんと、これこそ勝手な憶測だからこれが正しいとか、絶対そういう風に想わないでほしいんだけど。」

 林檎はしつこく前置きをして、やっと言った。

 「あのね、春ちゃんは実は、おとくんとお付き合いしていたって話もあって・・・。」

 春歌の瞼が大きく動いた。
 林檎がまた、だからこれは噂だから、と慌てる。

 「だから、それだとトキヤちゃんと2人で山に行くのはおかしいかな、って・・・。そういうのもあって、アタシもちょっと自分の中で色々考えがまとまらないのよ・・・。」

 春歌はぽかんとしていた。
 林檎の言葉が上手く飲み込めない。

 音也とつきあっていた? なぜだ。どこからそんな話が。
 だとしたらトキヤのあの言葉は。

 「・・・春ちゃん、落ち着いてね。ほんと、別にアタシも人に聞いただけで、それが本当かどうかもわからないのよ。あくまで噂よ、これも。」

 林檎が必死にいなす。

 「例えば、まあこれも、ほんっと! 例え話なんだけどね、春ちゃんは最初おとくんと一緒に山へ行って、おとくんとはぐれて、電話が繋がる場所から電話でトキヤちゃんに助けを求めたのかなって。まあね、色々可能性としてはね、色々考えられるんだけど。どうしておとくんじゃなくてトキヤちゃんに電話するの? とか細かいことはね、色々おいといてね。」

 春歌は頷く仕草さえ、出来なかった。林檎自身も、説明しながら混乱しているようだった。

 病院や、家に戻って改めて聞かされた限りでは、トキヤは自分を、単に探しに来てくれた、という話になっている。
 
 だがそれは、トキヤが自己申告しているだけだ。もしかしたらトキヤが最初から一緒に居た可能性は否めない。だがそもそもが自分には、山に入った記憶が無いのだ。

 それでも、あんな遠くの土地まで行ったのは確かだ。自分の身体は、あの土地には間違いなく行っていた。山を降りた幹線道路で、救急車に乗せられたのは紛れもない事実なのだから。

 山での本当の同行者は誰なのか。そもそも同行者が居たのかすらも怪しい。

 「まー・・・その、ほんと、春ちゃんはトキヤちゃんともおとくんとも付き合ってなかったのかもしれないし、あの山にだって、もっと別の目的で行ったのかもしれないし。」

 明るく笑う林檎に向かって、春歌ははっとし、一番聞きたかった質問をした。

 「それで、その、音也くんは今どうしてるんですか。オフって言ってましたけど・・・。」

 林檎が黙る。
 嫌な予感がした。

 林檎が春歌を見据える。

 「春ちゃん、よくきいて。」

 林檎は泣きそうな顔をしていた。

 「これは他言無用よ。アタシは今から、シャイニング事務所のナンバー2・日向龍也の代わりとして、上司として話すわ。優しい林檎先生の話じゃないのよ。良く聞いて。この件についてはもう知ってる子も居るけど、でも知らない子の方が大勢居るわ。だから事務所の誰かにも絶対に言ってはだめよ。いいわね。」

 春歌がこくんと頷く。
 林檎はまだ迷っているようだったが、漸く重い口を開いた。

 「おとくんね、連絡が取れないの。携帯も繋がらないし、家にも帰って無くて・・・何処にいるか、わからないの。」

 「・・・えーと・・・オフだから、旅行とか、じゃなくて。」

 林檎が力なく首を振る。

 「オフはもう終わったわ。あの子もトキヤちゃんも、オフはあの日から1週間だったんですもの。」
 
 「単に独りになりたくて、携帯の電源を切ってるだけなんじゃないんですか。お仕事の開始の日付を間違えちゃってるんじゃ・・・。」

 林檎がまた首を横に振る。
 
 そうだ。
 トキヤはもう仕事を始めている。

 「仕事は始まってるわ。この間のはもうどうにもならなくて、急きょ、アタシが対応したわ。他の仕事も全部、請けた物は今、翔ちゃんやまあくんに振り分けてる。今請けた分だけで、それ以降の仕事は取って無いわ。」

 ざわざわと波立つ心臓が、いい方へいい方へ話を進めようと必死になった。必死に笑顔を作り、思い付く可能性を提示する。だが何を言っても、林檎の首が縦に振られる事は無かった。

 「あの子たちくらいの駆け出しタレントは、ウチの事務所では旅行の時は報告が義務付けられてるわ。でも、届は出て無いの。それにね、23日に翔ちゃん達がおとくんと遊ぶ約束をしてたの。だから、23日には彼は東京に帰って来るつもりだったのよ。でも、あなたが山で発見された夜から、ずっと連絡が取れないの。」

 林檎の静かな声が、春歌の中にこだまする。
 
 「音也くんが、行方不明って意味ですか・・・まさか・・・。」

 信じられない。といった顔をした春歌に、今度は林檎が質問を連ねた。

 「あの夜、一体何があったの? 貴女は記憶喪失になるし、おとくんは行方不明になるし、大体春ちゃんは何しにあんな時間に山になんて行ったの? 私たち、何もわからなくて、どうする事も出来無くて・・・。春ちゃん、早く思い出して。おとくんの失踪と貴女の記憶喪失は、もしかして関係があるの?」

 縋るような林檎の真剣な声が、春歌の中にこだまする。
 
 先程のまでの重い声と混じり反響した林檎のその必死さは、春歌の頭の中にある、何も描けない記憶のページをざりざりと引っ掻いて行く。

 何もわからないのは、自分も同じだ。

 春歌は林檎に返事も返せず、ガラス細工にうつる歪んだ自分の肌を、虚ろに見つめるしか出来なかった。







  

  
  To Be Continued・・・






 
  

  次回第5話は、10月15日頃更新予定です。
  なるべく3連休中に掲載できるように努力します。







 

 

 

 
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非公開コメント

No title

サスペンス!!続きが気になります(ノ><)ノ

No title

おぅふ……おとやんの身にいったい何が起きたのか……。聞かされる話で七海がどう動いていくのか……。謎は深まるばかりで、非常に気になります。

次回も楽しみにしています。

No title

みるくちゃん、おはよう。

音也はどこへ・・・?
謎が深まるばかりです・・・。
続きがとても気になります。

ナナオさんへ

ナナオさんこんにちは!

続きが気になるとおっしゃって下さるそのご期待に添えるよう
頑張って書いてます!
宜しくお願いします!

コメント、本当に有難うございます。俄然やる気に差が出ます!

紅さんへ

紅さんこんにちは!

再度のコメント、とっても嬉しいです!
見捨てられないよう、頑張って続きを書いております!(笑)

目に見えるかたちで頂けるお声にパワー頂いております。
3連休中に最新話更新予定です。
本当は今日の夜に出来たらしたい! 野暮用早めに片付くといいなと思ってます。
コメントありがとうございました!

のりこちゃんへ

のりこちゃんこんちですおつかれ!

謎が深まるばかりですいませんwww
本のタイトルもすいませんwwww

でも、コメント頂けてとっても嬉しいです。ほんとありがとう! 愛してるww
最後までまだまだ長くなりそうです。
どうかお付き合い頂ければ嬉しいです。サンクスゥ~~♥
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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