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pastiche 第3話

 



 pastiche
  第3話

 


 

 
 その日春歌は、映画館に連れられて来ていた。
 トキヤがチケットを取って誘ってくれた。目立った人気作品でも無いせいか、平日午後の映画館に大した混雑はなく、人もまばらな客席の後ろの方へ座った。トキヤは目深に帽子を被り、眼鏡を掛けて変装していた。

 

 「この映画、見たことあります・・・。」

 誘われた時、チケットを見せられた春歌がそう言葉にすると、トキヤは嬉しそうだった。

 「これは、君と一緒に見た映画です。覚えていてくれましたか。」

 「あ・・・いえ、見た覚えはあるんですけど・・・。」

 胸が痛い。
 どうしてだろう。こんなにも相手に申し訳ないという気持ちになるのは、やはり彼が恋人だった事を心のどこかで覚えているからなのだろうか。

 それとも、単に人として人を傷つけるのが無条件に辛いという人間愛的なものなのだろうか。

 それでもトキヤは、俯く春歌の頭をそっと撫で

 「構いませんよ。見たことを覚えていてくれただけでも気持ちが違います。もう一度見たら、また何か思い出すかもしれないと思いまして。もうすぐ上映が終わってしまうそうなので、午後からでも。」

 そう言われて、映画館までやってきた。

 「やっぱり見ました、これ。」

 上映開始直後、春歌は小声でトキヤに告げた。
 耳に口を寄せ、真顔でそう自分に囁いた春歌の手を、トキヤがきゅっと握った。明らかに春歌の身体が驚きで揺れても、トキヤは手を離さなかった。

 「耳元で囁いたりするからですよ・・・手を握るくらい、許して下さい。」

 暗闇でもわかるほど顔を近づけられ、悪戯っぽい笑みでそう言われて、春歌はこくりと頷いた。
 決して、強請られたからだけではなかった。トキヤにある種の好意を抱いていた記憶は微かながらあるのだから。

 映画を見た後、トキヤが一緒に夕食をと誘った。
 
 「じゃあ、私が御礼に作ります。台所をお借りしてもいいですか。」

 春歌の申し出を、トキヤは歓迎してくれた。帰り道、2人一緒に買い物をした。
 
 立ち寄ったスーパーで、野菜を品定めしながら、春歌が何気なく呟く。

 「一ノ瀬さんって、確かあの映画の原作書いた人の作品の中では、「つばさの丘」 がお好きなんですよね。」

 「え・・・。」

 「あれ? 違いましたか。確かそうおっしゃってたんですけど・・・。」

 右手と左手に種類の違うトマトを持ちながら、春歌は適当にぶつぶつ呟き続けていたが、トキヤがそれを両方取り上げて陳列棚に戻した。

 「あ、トマトまだどっちにするか・・・。」

 「君、それ、今思い出したんですか。」

 「はい?」

 トキヤは心なしか早口だ。

 「私が好きだという本のタイトルの話ですよ。それは私が、付き合い出してから君に話したんです。」

 「えっ。」

 スーパーマーケットの真ん中で、2人で見詰め合う。トキヤが提げた買い物カゴの中は空のまま、冷気の届く野菜コーナーの前で。
 そしてどちらからともなく、微笑んだ。

 「すみません、こんな場所でつい・・・思い出してくれたのが嬉しくて、何だか、言葉がうまく出てきません・・・。」

 「あ、はい。私も、なんだかビックリしています。今、全然意識していないのに言葉が自然にぱーっと出てきて・・・。なんだか嬉しい、です。」

 嬉しい。
 心からそう感じた。

 山中から助け出してくれた恩人。そして、ずっと病室で付き添ってくれていた相手。そのトキヤが、彼の言う通り自分の恋人だという話が一気に現実味を帯びた。

 雲をつかむような道のりかと思われていたが、すっと大きな成果を手に入れた気がした。無意識のうちの台詞だったのも大きい。無意識に口をついた言葉は、本当の記憶だと思えるから。


 先程棚に戻されたトマトをもう一度手に取りながら、春歌は何気なく聞いた。

 「あの、どちらから言ったんですか。」

 「何をです。」

 「ですから、その・・・どっちが先に好きって言ったのかなって。」

 照れくささで手早くトマトをカゴに入れ、別の野菜を品定めするふりをしてトキヤの返事を待つ。少し浮かれて下らない事を聞いたかもしれないと思い、トキヤの顔がまともに見られなかった。

 トキヤが春歌に近付き、後ろから耳元で囁いた。

 「私から・・・でしょうか。でも、言葉より先にキスをしました。君を抱きしめて、キスをしたのが始まりです。」

 「・・・っ。」

 耳にかかる吐息に、身体が強張る。数日前にキスをされそうになった時の、トキヤのあの男の香りが一気に自分を絡め取った気がして、春歌は思わず歯に力を入れた。

 「どうしました。君は耳が弱かったから、私の息がかかっただけで、こんなひんやりとしたショーケースの前なのに体温が上がってしまいましたか。」

 誘うような声音。
 春歌は心の中でぶんぶんと頭を振って大きく一歩横にずれた。

 「おや。」

 「い、一ノ瀬さん、心臓に悪いです。」

 真っ赤になった春歌を見て、トキヤは軽く吹き出す。

 「どうして笑うんですか。ひどいです、からかったりして。」

 「からかったりしていませんよ。可愛いですね、まったく。」

 「なんですかそれ!」

 一気に縮まった距離を確信はしたが、春歌はやはりまだ踏み込めないでいた。
 まだ、たった一つだ。たった一つ、大きな鍵を探し出せたにすぎない。買い物を終えて食事を一緒に楽しく作り、後片付けまでその楽しさが続いた。

 
 
 夕飯後に談笑していて、ふと会話が途切れた。
 春歌は、思い切って切り出した。

 「あの。」

 心臓の音が大きくなる。なぜだろう。でも、聞かなければ。あの時途切れてしまった続きを。

 「音也くんは、今お忙しいんですか。」

 トキヤの顔色が変わったのを見た春歌は、やはりこの前のトキヤの離席はわざとだったのだと確信した。

 「・・・何故です。」

 トキヤの低い声が響く。
 顔色だけでなく、彼が纏う雰囲気まで一変したのに気付いた春歌が怯む。

 「そ、その・・・音也くんだけ、お見舞いに来てなかったのが、やっぱり何となく気になって。前にお聞きした時は、ケーキで話が途切れてしまいましたから。どこかへロケにでも行ってる、とかでしょうか・・・?」

 「知りませんよ。」

 「は?」

 ふて腐れてるともいえる口調は、およそ普段の彼に似つかわしくない。
 春歌はどうしてそんな態度を取られるのか見当もつかない。

 「知りません。君も、そんな事は考えなくていい。」

 「え、知りませんって、どういう、お休み中・・・とか?」

 「だからっ! 君が気にする必要はないと言ってるんです!」

 トキヤの大声で、春歌の肩が揺れた。
 時間が止まる。トキヤの怒声は流れる空気まで凍らせたかの如く響き渡った。

 「・・・すみません。つい・・・。しかし、君は余分なことは極力考えないで下さい。失くした記憶のうち、私とのことだけを思い出してくれればいいんです。」

 「えっ・・・それ、って。」

 それはどういう意味だ。
 失くしているのは、トキヤと恋人同士だったという部分だけではないのか。音也の話を出す度に明らかに態度がおかしくなるトキヤは何を隠しているのだ。

 春歌はそう問いたくとも問えない。
 あれだけの激しい感情を見せられてすぐ、そんな質問は出来なかった。

 

 長い沈黙の後、トキヤが溜息を吐いた。

 「・・・聞きたいなら、月宮先生に聞くといいでしょう。」

 トキヤが、唐突に言った。

 「月宮先生に? どうしてですか?」

 「日向さんでも構いませんが、月宮先生の方が多分、事務所で掴まえ易いというだけです。」

 「どういう・・・。一ノ瀬さんはどうして教えてくれないんですか。というか、一ノ瀬さんは音也くんが今どこに居るのか、本当に知らないんですか。」

 「知りませんよ。・・・知りません。音也がどこに居るかなど、私はまったく知らない。」

 そう言いながら、トキヤが春歌を抱きしめた。

 「あっ。」

 「どうして私の事だけを考えてくれないんです。」

 切羽詰まった声でトキヤが訴える。

 「私は君さえ居ればいい。君は・・・君はそうじゃないんですか。どうして・・・っ!」

 「!」

 逃げる暇が無かった。
 元々しっかりと腕の中に抱えられてしまっていたので、身動きが取れなかった。

 「いちのせさ」

 「やっぱり待てません。」

 なにを、と問い返す声は空気に載らなかった。
 強引に唇を塞がれ、骨が軋む程に強く強く腕に仕舞いこまれたせいだった。

 トキヤの舌が口の中の粘膜あらゆる箇所をなぞりくすぐっていく。舌を取られると余計に頭の芯が痺れ、そして吸われる痛みに指先がぴくりと反応した。荒っぽく、それでいて粘着質に絡むその舌は、一向に春歌の口を犯すのを止める気配が無い。

 「やっ・・・。」
 
 唇が一瞬離れた隙に息を吸うも、また塞がれる。大体その僅かな瞬間も、舌はトキヤに捕まったままだ。熱くて劣情が匂い立つようなそのキスは、あっという間に春歌の足腰から力を吸い取っていく。崩れそうな身体はトキヤがしっかりと抱いてくれている。

 「ぁふ・・・。」

 前後も不覚になりながら、解放された安堵で声を洩らす。
 太股から脇腹まで撫であげられて、思わずトキヤにしがみついた。トキヤの唇は既に春歌の耳や首筋を這い、行為はどんどん大胆になっていく。

 とん。と、身体を小突かれ、後ろにあったソファに座らされた。
 わけが判らず自分を見上げる春歌をの肩を掴み、トキヤは自分も片膝をソファに乗せ、腰のベルトを外した。トキヤの下腹部が目の前に来る。それが意味する続きを察して春歌は息を飲み、身を捩って無言の抵抗を見せた。

 「いつもしてくれたじゃないですか。ほら、目を逸らさないで。君の唇のせいでこんなになったんですよ。」

 「ちが・・・そんな・・・。」

 必死で俯く。直視出来ない。トキヤが取り出したそそり立つモノを唇の端にぐいっと押し付けられ、身体が震えた。横を向こうにも、トキヤに上から頭を抑えつけられ既に遅かった。

 つるりとした先端で唇を撫でられる。熱くて、柔らかい弾力を持つ先端。そのすぐ先は凶器に近い固さだ。それを知ってる肌の細胞が歓喜するのか、自分の奥をきゅっと収縮させた。今逆らってもどうにもならない。観念して、春歌は震える唇を開いた。

 「もっと口を開けて。それでは入りきらないでしょう。」

 「ぅ・・・。」

 もっと口を開けたところで入り切るものではない。なのにトキヤは意地悪く押し込み、春歌ももう両手をソファについたまま、されるがままに座っていた。

 「久しぶりだから、嬉しいですか。よくしてもらいましたから、やはり覚えてるんでしょうかね。上手です。」

 自分はしょっちゅう、こんなことをしていたのか。
 トキヤの言葉を反芻して、頭の隅の一部冷静な端が考える。

 微量な電流が身体を走る。思い出そうとする度に脳裏にちらつく情事の相手は、やはりトキヤなのか。だとしたらこの電流は、恋人に濡れる反応そのものなのだろうか。

 今だって、嫌悪感の類はおよそ感じない。
 
 怖いという気持ちはある。だが、トキヤが相手であるそれ自体に嫌悪感は感じない。トキヤに何かされる度にゾクゾクと感じる何かは、決して恐怖だけが生み出すものではない。そこに同時にある僅かな何かは確かに悦びで、そのせいでトキヤの言葉に従ってしまうのだと解る。だがしかし、それをトキヤと恋人同士だったからという結論に結び付けてしまっていいのか。単に女として、男の熱に本能で応えてしまってるだけなのではないか。

 膣に異物を挿入されれば、苦痛を和らげる為に潤滑油を自ら溢れ出させるように。
 この口だって、今トキヤに無理に押し込まれている辛さを緩和する為に、体としての機能が感覚を麻痺させているのかもしれない。

 ぼんやりと考える。

 悩む。
 
 わからなくて、頭の中がこんがらがる。それを見透かされたのか、トキヤがぐいっと頭を抑え、より奥へ自分のものを押し込んだ。

 「今日はこっちだけで許してあげましょう。でも、全部飲んで下さいね。」

 「ぅぐ・・・っ。」

 トキヤの静かな絶頂が、口の中一杯に拡がった。
 気持ちの重なっていない行為の哀しさに、涙が出そうになる。

 どうしてこんな事になってしまったのだろう。少し前まで、幸せな気持ちすらしていたのに。どうして。

 (ああ、私が、音也くんの事なんか聞いてしまったから・・・。)

 飲み込むのも簡単ではない粘度の高いトキヤの体液が、喉にへばりつく。
 息を整えながら満足そうなトキヤの手に髪を梳かれる。その手の心地良さに揺られつつ、林檎の元へ話を聴きに行かなければと、春歌は冷めた頭で考えていた。










     To Be Continued・・・




 
    次回第4話は10/7頃に更新予定です。




 

 


 
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にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

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だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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