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MyFunnyValentine 第1話




My Funny Valentine



 第1話
 
 


 
 チョコレートはカカオ豆で出来ている。
 
 だけど、カカオ豆は食べた事が無い。

 今、どうしてこの場でこの状況で、こんな下らないコトを考えているのか自分自身でも解らない。
 頭の片隅だけ別世界に飛ばしたまま、ミナコは目の前の男の胸部を見ていた。

 目を、合わせられなかったから。

 「・・・ッチ、何とか言えや。」

 「だって。」

 苛立たしげに舌打ちする態度に反論しようと、ミナコは咄嗟に顔を上げて、結果的に避けていた相手と目が合う。
 しかし次は、相手に顔を逸らされた。

 「コウ、どうして・・・。私は、ルカちゃんは大好きだけど、でもそれは、コウに対して持ってる気持ちとは全然違うモノなの。私・・・私は、コウのこと、男の人として好きな。」

 「やめろって。」

 ミナコの告白を遮り、苦虫を潰したような顔で琥一が俯く。

 「ルカの気持ち知ってんだろ。」

 「な、そ、それじゃあ、コウの気持ちはどうなの? 私は、コウの気持ちが知りたいの。コウは私をどう思ってくれてるの?」

 俯いてた彼が顔を上げた。
 睨まれるのかと身構えたミナコは、しかし琥一の沈痛な面持ちに畳みかけた勢いを失速させた。

 「・・・俺が、それを言ったら・・・。」

 琥一は言いかけて立ち上がる。
 
 「ルカにどんな顔すりゃいいってんだ。ルカとよろしくやってくれよ・・・。」
 
 「コ・・・。」

 「やめとけ、俺なんか。ルカの方が、よっぽど女慣れしてて楽しい気分にさせてくれるに違いねえ。・・・オマエもう帰れ。そろそろルカが帰って来る時間だ。」

 「そんな。」

 ミナコが尚も喰い下がろうとした時、近付いてきたバイクのエンジン音が止まって、窓ガラス越しにルカが見えた。
 
 「言ってる傍から帰って来やがった・・・。余計なコトは何も言うなよ。いいな。」

 琥一が念を押すようにそう言い、きれいにラッピングされて先程自分に手渡された、ミナコの手作りのバレンタインチョコレートを掴んだ。

 「はーただいまー。ぁ・・・ミナコ! 待っててくれたんだ?」

 少し仏頂面で入って来た琉夏は、ミナコの姿を見つけると、ぱっと表情を明るくした。

 「こんな日に限って大迫チャンに捕まるとか、マジでツイてないって思ってたけど、良かった。ミナコがまだ居てくれて。そろそろ暗くなりそうだったから、もう帰っただろうなって諦めてた。」

 嬉しそうにミナコに近寄る琉夏を制するように、琥一が先程の包みを琉夏に突き付けた。

 「え、何コウ?」

 「ミナコから、てめーにだ。」

 ミナコは驚いて琥一の顔を見たが、琥一はただ真っ直ぐ琉夏を見ていた。

 「ちょ、え。待ってよ。なんで俺、コウから貰ってるワケ?」

 隠しきれない嬉しさが混じる声で、琉夏が多少困惑しながらミナコを見る。
 ミナコは、琥一にギロリと睨まれ、結局適当に笑うと、琉夏に

 「細かいコトは気にしなくていいのに。ルカちゃん、貰ってくれる?」

 心と反対の言葉を口にして、じくじくと胸が痛い。
 ズタズタに裂かれてゆく心はもっと血が噴き出さんばかりに、自分の意志とは無関係に主張するものだと予想していたが、人間は案外、隠す能力に長けているのだと身を持って知った。

 面と向かってルカに、違うと言うだけの勇気が無かった。琥一に嫌われるのは、もっと耐えられなかったのだ。

 「マジで?・・・・スゲー嬉しい。ミナコ、ありがとう。」
 
 「あ、ううん。」

 眩しいものを見るような目で自分を見詰める琉夏の目に、ミナコは悲しさと申し訳なさで逃げ出したかった。


 「おいルカ、送ってってやれ。もう暗いから、あぶねーしよ。」

 「そうだね。ミナコ、後ろに乗っていきな。あ、でもちょっと待ってて。俺、これ部屋に置いてくるよ。ココに置いといたら、コウに食べられちゃうし。」

 「喰わねえよ、バカ。」

 軽い足取りで階段を上がっていく琉夏の姿が見えなくなるのを確認して、ミナコはもう一度琥一に向き直った。

 「コウ・・・ひどいよ・・・。」

 「・・・・・・・。」

 「どうして・・? 私のコト、嫌いなの・・・?」

 「・・・そうじゃねぇだろ。」

 「じゃあどうして?」

 「同じコト何度も言わせんじゃねえよ。アイツにはお前が必要なんだよ。お前だって、別にルカを嫌いなワケじゃねーだろうが。」

 「ミナコー! 行くよー!」

 階段を降りながら、琉夏が2階辺りから大声を張り上げる。

 琥一はミナコに背を向けると、すれ違いざま 「行ってくる」 と声を掛けた琉夏に目配せもせず、階段を上がって行った。


 

 「送ってくれてありがとう。居残りで疲れてるのにごめんね?」

 「居残り言わない。大迫チャンに捕まっただけ。てゆっか俺はへーき。お姫様を送り届ける役得は、寧ろいつでも大歓迎。」

 家に着き、バイクのエンジンを止めて貰ってから降りたミナコは、琉夏に御礼を言った。

 「あれ? ミナコん家、珍しく電気ついてないけど・・・。」

 「あ、うん。今日はウチの親、親戚の結婚式で遅くなるの。ちょっと遠いから、新幹線で行ってるから。まぁでも、11時くらいまでには帰ってくるけどね。」

 「え? 11時って、その間オマエ、ずっと1人で居るつもりだったのか。」

 「うん。」

 「うん。って・・・、何で言わなかったんだよ。だったらどっかで食ってから帰るとかあるじゃん。」

 「大丈夫だよ。」

 「何言ってんだよ。」

 琉夏が、ミナコの腕を掴んだ。
 
 「俺が大丈夫じゃない。危ないだろ。ウエストビーチに戻ろう。んで、また送ってやるから。コウに何か作って貰えばいい。電話して、材料聞いて買って行くからさ。」

 「・・・・・・・。」

 今ウエストビーチに戻って、頑なに自分の告白を拒否した男と顔を合わせるのか。
 そう思った時ほとんど無意識で、ミナコは琉夏に、家に上がって食事をしていけばいいと口にしていた。

 「え・・・でも、いいの・・?」

 琉夏の、戸惑いながらも嬉しそうな声。その表情に、ミナコの良心が少し痛んだ。琉夏は、あのチョコレートが本当に自分に渡された物だと、微塵も疑っていないのだろうか。だとしたら、もっと良心が痛い。

 「うん。でも私、今日の夕飯は適当にパスタとかで済ませようと思ってたの。茹でて、キュルピイのかけるだけソースでおしまい! って・・・。それでも良ければ、だけど・・・。」
 
 「いい。パスタ、いいね。俺、今この瞬間からパスタが世界で一番大好きになったから。キュルピイのかけるだけソース、最高。」

 「もう。ルカちゃんはすぐそうゆうコト言うんだから。」

 「ねね、タラコ味ある? 俺、タラコがイイ。」

 「あるよ。私もキュルピィパスタソースシリーズは、タラコが一番美味しいと思ってるの。」

 引き返せない。
 あの時、琥一の、チョコレートを掴んだ手が次に何をするのか判断できず、見過ごしてしまった自分はもう戻れないのだとの諦めもあった。
 ミナコは鍵を開けて琉夏を招き入れると、リビングでテレビのスイッチを入れ、琉夏をそこへ座らせてお茶を用意した。
 
 そして、着換えをする為に一旦一人で自室に入った。
 ぼすっと、ベットに倒れ込む。

 こんな予定では無かった。親が居ないのを理由に、コウを夕食に誘おうと思っていた。ここに来てくれるのは、自分の予定ではコウだった筈なのだ。なのに、コウが居ないどころか、琉夏が居る。

 「捨てるかと思った・・・捨ててくれた方が、よか・・・った・・・。」

 今更どうにもならないのに。繰り返し過る後悔に頭を振って、ミナコはセーターとロングスカートに着替えてリビングに戻った。

 


 「ごちそうさまー!」
 
 食った食ったと繰り返しながら、満足げに琉夏が腹をさすっている。

 ミナコは、お粗末さまでしたとニッコリ笑顔をつくる。
 そして、パスタを用意している間に琉夏が近くのコンビニで買ってきてくれたプリンの蓋を、ぺりぺりと捲る。

 「あ、やっぱりルカちゃんのプリンと違うね。」

 「そうだな、こっちの方がなめらか。ソコが30円の差か。」

 「プリンのお供が緑茶でごめんね。先に気付けば、ルカちゃんの好きな飲み物買ってきて貰えたのに。丁度コーヒーも紅茶も切れてるとか、ありえない、ママってば。」

 「ん? プリンに緑茶、サイコー。」

 2人で2種類のプリンを味見しながら、あれこれ言い合う。
 
 テレビはつけっぱなしになっていた。適当につけて、それから退屈凌ぎに琉夏が適当にチャンネルを変えて遊んでいただけだから、およそ自分達では選ぶ事は無いだろう、どこか外国の深刻そうな経済事情のルポ番組が流れている。

 「ミナコ。」

 「ん? なぁにルカちゃ・・・。」

 ミナコは驚いて声を切った。
 音も無く、いや、音はしていたのだが、生活音の中に紛れていた。それくらい、ミナコにとって琉夏と居るコトは特別な日常ではなく、そして、緊張を要するものでも無かったのだ。

 だから、気付いたら自分の隣の椅子に浅く腰掛け、真っ直ぐに目を見ながら腕を掴んだ琉夏に、咄嗟に身構えてしまったのだった。

 「さっきの・・・。あのチョコレート、ホントに俺が貰ってもよかったの?」
 
 琉夏の言葉に、息が止まる。
 嘘と、事実と、琥一のメンツ。琉夏への情。そして保身。思いつく限りあらゆるものを天秤に架ける。時間が無い。時間をかければかける程、口にした言葉は信用度を下げる。

 「・・・うん。」

 「俺、信じていいの?」

 「うん・・・。」

 「ねえ、オマエ、嬉しそうに見えない。」

 「そ! そんなコトないよ!」

 弾かれたように否定する。
 弱まった琉夏の目の光に、罪悪感と、そして、偽善的な母性本能が湧いたのをミナコは自覚していた。

 「そっか・・・うん、信じるよ。ミナコが、俺を選んでくれた、それ、信じる。」

 ミナコは返事が出来なかった。曖昧に笑った。
 そもそもあのチョコレートは、琉夏の―――――――――。


 1ヵ月前。
 幼馴染みの仲良しの3人。その中でミナコは、ずっと琥一に特別な、淡い想いを抱いていた。
 だが、琥一はああいう性格だ。なんとなく、向こうも異性としての好意を持ってくれているのではないかという出来事はソコソコあるのだが、勘違いだった時の恐怖で、ミナコは踏み出せずに居た。この関係が壊れてしまうのが怖かったのだ。
 
 もしも琥一が自分を女として見てないのなら、想いを告げた途端会話もなくなるかもしれない。ミナコはそれが怖かった。
 
 だからこそ、琉夏も交えて3人で楽しく過ごしていたし、それが最善だと、ミナコは信じていた。
 ある日、学校帰りの夕暮れ時の浜辺で、そう思っていたのは自分だけだったのかと頭を殴られたような衝撃で立ち尽くすその瞬間までは。

 「俺、ミナコが好きなんだ。俺と、俺だけと、付き合ってほしい。」

 その時のミナコは、すぐには何を言われたのか判らなかった。

 なぜ、琉夏なのか。
 真剣な瞳も声も、ミナコの胸をぐさりぐさりと静かに突き刺す。

 この言葉を口にしてくれたのが、どうして自分の想い人では無いのか。しかも、なぜ想い人の弟なのか。赤の他人だったら、又違った筈なのに。しんとした2人きりの砂浜で、ミナコはぼんやりと、向かい合わせに立つ彼の肩越しに見える景色よりも更に遠くへ、目を馳せた。

 「私、その・・・。」

 言い淀むミナコに、琉夏は寂しそうに笑うと言った。

 「いいよ。今は、ムリに返事しなくてもいい。でもさ、俺がこうやって自分の気持ちを告白した事で、ミナコの俺を見る目が変わるかもしれないだろ。だから俺は未来に賭ける、なんちて。・・・まぁ、悪い方に変わる。ってのも、あるんだけど。」

 「そんな、悪い方になんて、ソレはないよ・・・。」

 「そっか。でもさ、やっぱり、返事は今はいい。・・・あのさ。来月、バレンタインじゃん? 返事はその時で。ごめんなさいなら、チョコは要らない。でも、OKなら、チョコ、俺だけに頂戴。・・・コウにも、あげないで?」

 「え、な、なんで・・・あ、あの。でもっ! ほら、私、毎年コウだってあげてるし、不二山くんやニーナにも、義理チョコあげてたから・・・。」

 コウにもあげないでという琉夏の一言が、もしかして、自分がコウを好きだというのがバレているのかとミナコは焦った。琉夏に返事をするしない以前に、折角のバレンタインデーでコウにチョコレートを渡せない状況は何としても避けたくて、咄嗟にクラスメートの名前などを口にしたミナコに琉夏は、

 「OK。じゃあ、柔道部コンビには毎年恒例ってコトで、義理チョコプレゼントをどーぞ。義理チョコを、ね。大事な事だから、2回言う。」

 お茶目に許可を出す琉夏が、笑って、そしてすぐ真面目な顔をした。

 「でも、それ以外は、くれるんなら俺にだけにしてほしいんだ。・・・ミナコだって、断るんなら、言いにくい台詞言うより、チョコは無い!って行動で示せたら、その方が気分が楽でいいだろ? それに、俺が貰えても、コウも貰えてたら、なんか、チョコの意味が判んなくなっちゃいそうだからさ。」

 これは、琉夏の気遣いなのか。
 静かにきっぱりと依頼する琉夏の背で、赤さが波に混じって消えそうな夕焼けを見ていたミナコにはもう、断る為の台詞が見つけられなかった。




 そして。
 今日、そんなやり取りが琉夏とミナコの間で交わされていた事など知りもしない琥一が、琉夏にミナコのチョコを渡してしまった。琉一にと、覚悟を決めて告白したミナコの渡したチョコレートを。

 「ありがと、ミナコ。」

 そう言って、琉夏が顔を近付け、ミナコにそっとキスをした。
 驚いて固まったミナコの静止を肯定だと受け取った琉夏は、そのままもう一度キスをした。今度はミナコの背に腕を回し、自分に引き寄せ、遠慮勝ちに舌を差し込む。

 ずるりと頭から何かが抜け落ちた感触がして、ミナコはただ琉夏のキスを受け止めていた。
 涙は出なかった。失恋したのだと実感したが、泣きたい気持ちでは無かった。
 
 もう琥一へ目を向けるコトは出来ない。ミナコは、その事実を叩きつける琉夏のキスを、深海へ沈むような気持ちでされるがままに受け止めていた。


            
           
 

               To be continued・・・・・
 


 

 

 

  

 

 

 
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MyFunnyValentine 第2話

 

第2話 
 



 「ミナコ!」

 帰り際、校門前で肩を叩かれて振り向くと、琉夏がニコニコして立っていた。

 「あっ・・ルカちゃん・・・。」

 今日は家庭科、体育と、男子生徒と隔離された授業が多く、しかも数学の時間などは琉夏も琥一もサボっていたのか教室に居なかったので、ほっとしてサッサと帰ろうとしていたミナコは、最後に琉夏に捕まった。

 「今日、部活無いんだ?」

 「あ、うん。不二山くんはやってるけど。私は週3回位しか行かないから・・・。」

 「ふぅん? ねぇ、ずっと思ってたんだけどさ、部活って、毎日やるもんじゃないんだ?」

 「それはまぁそれが理想だと思うけど。不二山くんが気を遣ってくれるの。自主練する日は、お前は無理に来なくていいぞって。雑用はニーナにさせるって言って、私が居ない時はニーナが掃除とかしてるの、可哀想でしょ。」

 「はは、そりゃ可哀想だ。」

 なんてこと無い会話をしながら笑顔で歩ける。多少ぎくしゃくしながらも、ミナコにとって、昨日の一件は夢かもしれないと思わせる今迄通りの日常。

 「ミナコ、乗っていきなよ。」

 何本目かの角を曲がると、ほどなく歩いてバイクの前で琉夏が足を止めた。
 学校から少し離れたこの駐輪場は、彼らが通学で禁止されているバイクを置いておく場所だ。

 ミナコは一瞬戸惑う。乗って行くからなんだというのだ。今までだって仲の良い幼馴染として、何度でもタンデムしてきた同じバイクだと言うのに、何故か妙に辛い。

 「昨日も送らせちゃったし、毎日じゃ、ルカちゃん困るでしょ。」

 「別に俺は困らないけどね。オマエを送るだけだし。」

 軽く笑う琉夏が、シートへ極々浅く尻の端だけを乗せる。

 「チョコ、ありがと。昨日食べたよ。」

 「・・・あ、うん、そっか。・・・どうだった? 私、上手に出来てたかな?」

 「苦かった。」

 琉夏の、一瞬前までと打って変わった心なしか冷たい目と口ぶりに、ミナコは心臓が喉元まで膨れ上がったような圧迫感に急襲された。全身が負の何かで膨らまされ息をする器官が押しやられる。

 「あれ、見た目も味も・・・コウ向けだよね。ミナコ、俺の好み覚えててくれてなかったんだ。ちょっとショック。それとも、わざとビターチョコにしてあったの?」

 どくんと、膨らみ切って破裂しそうな心臓が跳ね上がり、手足が止まる。
 逃げ出したいのに、淡々と言葉を発した琉夏の足元から目が離せない。

 「ミナコ。」

 「あ、の、ルカちゃん・・・。」

 言い出す前に顎を掴まれ唇を塞がれ、ミナコは思わず手にしていた鞄を落とした。冷たく湿った舌。髪を撫でる手。腰に回った腕。琉夏の感触に、外だというのにまた昨日のように頭が熱病みたく霞む。

 唇を解放されたミナコが、大きく息をついた時だった。

 「あっれ、コウ、居たの。」

 「!!」

 ミナコはあまりの驚きで、人の目には止まらないだろう早さで振り向きかけてやめた。いやきっと、実際は自分がそういう動きをしたような気になっているだけで、身動ぎもしていないのだと一方で気付いてもいた。振り向こうとして、本当に目の前に琥一が居たら、今どんな顔をするべきか判断出来なかった。

 振り向けない。今の琉夏とのキスを、事もあろうに琥一に見られたなど。

 背後で小石が音を立てる。
 琉夏が、ミナコの腰に回していた腕に力を込めた。

 「悪いコウ。ミナコがさ、乗っけてってほしいって言うから、今日はバイク譲ってよ。」

 「・・・勝手にしろ。」

 間違いなく琥一の声だった。間違いなく琥一に見られたのだ。違うと言いたい。引き留めて、今のキスは誤解だと言いたい。でも何が誤解だという気なのだろう。自分が望んだものではないから? だけどではどうして、自分は全力で抗って逃げなかったのだと問われたらどうする?

 フラッシュバックよろしくミナコが頭の中で数々はためかせているうちに、琥一の気配は遠くなっていく。

 さっきの琥一の声に、心なしか張りがないと感じたミナコは、考えをまとめないまま振り向いた。丁度琥一が角を曲がろうとするところだったが、振り向いた途端に、琉夏にもう片方の腕で鎖骨の辺りを抑え付けられた。

 角を曲がった琥一の姿が消え、琉夏が、ミナコの肩に顔を埋める。

 「ねえ、コウを追っかけようとしたの?」

 「・・・・。」

 
 耳元で囁かれたミナコの体が強張る。


 「コウにばっちり見られちゃったよ? 俺と、結構濃厚なキス、してるトコ。」

 「な、そ・・・!」

 「そーいえば、今日は2人して実家寄ろうって、今朝コウに言ったんだった。一緒にバイク乗って帰るの、忘れてた。俺アタマ悪いから、大事なコト以外は忘れちゃうんだ。」

 ・・・嘘だ。
 ミナコは歯を見せて笑う琉夏を見て、そう思った。

 忘れてたワケじゃない。琉夏は覚えていて。そもそも、きっと最初からこうするつもりで、実家に帰るなどという、琥一が絶対に待ち合わせ場所に来ずにはいられない餌で、約束を取り付けて。

 コウが来たから、キスをしてきたに違いない。でも何故?
 自分の気持ちが琥一にあるのがバレているからだとしか考えられないが、自分はそれを口にした事がないし、3人で居る時に特に琥一だけを贔屓するような真似をした覚えもない。

 それに何より、ミナコが琥一を好きだというのが理由なら、琥一にわざと見せつける理由がよく判らなかった。それより自分以外の男を見ている女を単に怒鳴りつけるとか、そういう方が有り得るとミナコは思ったのだ。他に理由があるとしたら・・・諦めさせる、為? 

 (それなら、なんとなくアリ、かもしれない。)
 
 ぐるぐる回るミナコの頭の中が、昨日天秤に架けたモノをまた手繰り寄せ、昨日からたった今までの、琉夏と自分の会話を辿る。

 (もしかしてルカちゃんは、私がコウを好きでも無駄だってコトを、思い知らせたいのかな? キスしてるトコロを見ても、コウは私のコトが好きじゃないから怒りも悲しみもしない。だからムダだって、私に判らせる為、とか・・・?)

 考え過ぎだと、思い直す。第一とにかくハッキリしているコトは、自分は本当はコウが好きなのだということは、バレてないというコトだ。

 ミナコは結論付けた。
 人の気持ちなど、本人が口にでもしない限り他人が根拠を持って決めつけられない。

 (だったら、まだ、大丈夫。)

 このままシラを切ればいい。もし自分の気持ちが琥一にあるとバレたら、今の琉夏はまた何かを仕掛けるような気がする。
 最初に琉夏を受け入れた気持ちも、あれは確かに諦めとかその類ではあったが、それなりに嘘では無いと、琉夏に理解してほしかった。今はまだ琥一に未練があるけれど、でも、琉夏を傷つけるような真似もしたくない。その想いは嘘じゃない。これは琥一の望みでもあるのだ。だから、その通りにしないと。


 このまま手を打たずに居たらとんでもない事が起こるような気がして、ミナコは琉夏の袖をそっと掴んだ。

 「ん?」

 琉夏が、ミナコを見る。
 ミナコは腹に力を入れてにっこりと笑った。

 「ルカちゃん、送って行って。ルカちゃんと一緒に帰りたいの。」

 「え・・・。」

 不意打ちを食らった顔で琉夏がミナコを凝視した。

 だがそれはほんの数秒で、すぐいつもの彼に戻り、ミナコの髪をくしゃっと撫でた。そしてそのままバイクのエンジンをふかし、ミナコに後ろに乗るよう促した。

 

 着いた先は、ウエストビーチだった。
 道すがら、彼が自分を真っ直ぐ家に送り届ける気が無いとミナコは気付いたが、黙って琉夏にしがみついていた。これ以上、琉夏の不安を増すような真似はしたくなかった。それが、琥一に害を及ぼす気がしてならないからだ。

 昨日自分は琉夏のキスを受け入れた。
 あの事実の最中の自分の気持ちがどうであれ、拒否しなかった以上、自分はこのまま琉夏と付き合うべきだとも、走る轟音に包まれながら考え続けていた。

 バイクから降りると琉夏が

 「コウは居ないよ。実家に行かないなら別の用があったからね。そっち行ってるはずだ。」

 そう教えてくれた。
 ミナコは、ほっとしたような残念なような複雑な気持ちだった。

 琉夏がミナコの分まで鞄を持ってくれて、先に中に入り、階段を上がって行く。ミナコは自然にそれについて歩いた。
 着いて来てしまったが、波の音しかしないウエストビーチで、あんな出来事の後なのに何を話そうかと考えながら、ミナコは琉夏の背中をぼんやり見ていた。
 
 何度も訪れた部屋へ入るなり、琉夏が鞄を2つ放り投げた。
 それを見遣るミナコを乱暴に引き寄せ、そのままベッドに押し倒す。思い掛けないあまりに急な展開で、ミナコは驚きで言葉も上手く出なかった。

 「っ、ルカちゃっ、何す・・・!」

 「続き。」
 
 「!」

 ルカの髪の先が、ミナコの頬をくすぐる。

 続きの意味が何を指すか判って、ミナコは身を固くした。

 上から自分を抑え付けている琉夏に、覗き込まれている。見下ろされているのではなく、覗き込まれていると、ミナコは背筋をヒヤリとさせた。

 探られている。心の中を。
 自分は試されているのだ。琉夏を本当に好きなのかどうか、実験されている。そして多分この実験は、ストッパーが働かない限り琉夏の満足する結果を出すまで進行だ。

 そこまでを瞬時で想像したミナコの心臓の巡りが、ピッチを増した。
 幾ら琉夏と付き合うしかないと、さっき帰る道中でそれなり意を決めたとはいえ、その決心すら曖昧だったミナコには、琉夏の求めが恐怖でしかない。

 ミナコの悲壮な困惑を知ってか知らずか、薄っすらと笑った琉夏が、ミナコの耳の後ろに人差し指で触れ、その指を、そのままつうっと首元へ滑らせた。

 「・・・っ。」

 頸動脈を切られそうな張り詰めた空気に、ミナコは息を潜めた。

 「俺のコト、好き?」

 琉夏の声には色が無いような、ただ、底が抜けているようにも聴こえた。とにかくこの場をやり過ごしたい一心で、ミナコはオウムよろしく返答をする。

 「・・・うん。」

 「俺に、このまま、俺のしたい事ヤラれちゃってもいい。っていう意味の、好き?」

 「っ・・・そ、れは・・・それは、好きでも、別だと思う。」

 ゆっくりと、息を荒げないように言葉を紡いだ。
 気を抜いたら、呼吸のし過ぎで会話にならない気がしたからだった。そして、我ながら上手い言い逃れだと、頭の一部の冷静な部分が少しほっとする。何とかなるのではないか、ミナコがそう思った時、制服のリボンを琉夏に解かれた。

 「ルカちゃん・・・!」

 跳ねさせようとした手首を抑えられ、ミナコは慌てて起きあがろうとしたが、琉夏の体が乗った状態では全く身動きが取れなかった。

 「や、やだっ、待って、お願いルカちゃん、待って・・・いやっ!」

 琉夏は、必死で身を捩るミナコの耳朶を食み、うなじを舐める。
 そうしながら無言でブラウスを捲り上げると、下着をずらして露わになった双方を鷲掴んだ。

 「い、いやああっ、ああっ。」

 誰にも触られた事のない胸を力の入った掌で撫でまわされ、ミナコは堪らず身をくねらせた。痛みと、知らなかった感触。両方に襲われて生理的な涙が浮かぶ。

 相変わらず無言の琉夏が、ミナコの胸の尖りに、強く歯を立てた。

 「ひきゃあああああ、や、ヤダああああ、やめてえええ!」

 咄嗟に大声を出したミナコを更に抱き込み、琉夏は益々強くミナコの乳首を噛み千切るように歯に力を入れる。それが更にミナコの悲鳴を大きくさせた。

 「きゃああああああーー! やめてえ! 痛い! 痛い! やめてえええ! 」

 「おい何してんだ!!」

 どんどんっ! といきなり大きな物音と怒号がして、ミナコは痛みから解放された。

 「え・・・・。」

 ミナコは突然の事に驚き、そして琉夏は、そんなミナコからゆっくりと、少しだけ体を起こして離れた。
 反射的に必死で体を少し起こしたミナコは、そしてまた信じたくないものを見る。

 琥一が居た。まだ半分ミナコに伸し掛かったままの姿勢の琉夏と、涙で頬を濡らして服装が乱れたミナコ。そして、呆然と立ち尽くす琥一が揃い、時間が止まる。

 「・・・ははっ、コウ、最悪だろ。恋人同士のイイ時間を邪魔するとか、どんだけ。」

 止まった時間に再びスイッチを入れたのは琉夏だった。

 「っ!」

 琥一の顔が赤くなり、琉夏がミナコの上から体をずらした。
 ミナコは取る物も取り敢えず制服を直し、シーツの上で抜けそうな腰をなんとか動かして琉夏と距離を取った。ミナコの顔を見てはっとした琥一が、大股でベッドへ近付いた。

 琉夏が相変わらず座り込んだまま、自分達の傍へ来た琥一を見上げた。
 その琉夏と、ミナコを交互に見たコウが、すっとミナコの方へ手を伸ばしかけて、やめた。

 「・・・ミナコが、こいつが叫んでるのが、帰って来たらいきなり聞こえたんだよ・・・悲鳴みたいでよ、どうしたのかと思って思わず・・・ルカ、コイツ泣いてるじゃねーか。俺は別にてめーらのコトどうこう言うつもりは無ぇけどな・・・。」

 琥一が琉夏を睨む。
 気まずいのか。苛ついているのか。どちらもなのか。

 「あーあ。邪魔されて、俺、萎えちゃったよ。」

 「ルカ!」

 琥一の話を遮り、ぴょんっとベッドの上から大袈裟に飛び降りた琉夏が、わざとらしく伸びをして茶化した声を出した。

 「ちょっと頭冷やしてくるわ。」

 「おい待て!」

 「何? イチャイチャしてるの邪魔されて萎えてんだけど。しかも俺、なーんかDVの疑いかけられてるっぽいし。だから頭冷やして来るよ。ミナコ、ごめんね? 俺、ちょっとヒドいコトしちゃったかも。でもさ、男だから、嫌がられても止まらないんだから仕方ないよ。」

 鼻を鳴らして不貞腐れた笑い混じりの声で、琉夏が琥一を睨む。

 「コウだって、それは判るだろ。同じ男なんだし。」

 「てめぇ・・・何考えてやがる・・・さっきも・・・!」

 「さっきって? ははっ、別に何も考えてないけど。 ミナコと仲良くしようと思ってるだけだけど? コウこそ、何言ってんの。」

 「おい待――――――。」

 引き留めようとした琥一の手を琉夏は冷たく叩き、ミナコに向かい、さっきミナコを突然押し倒して覗き込んだ時と同じ目で言った。

 「俺が今ここで謝るより、コウに慰めて貰った方がオマエは嬉しいんじゃないかなって、思うんだ。ていうか、俺、謝るべきなの? 俺、が?」

 「ルカちゃん・・・。」

 琉夏のその、わざわざ反芻して告げられた言葉の意味を受け止めきれず、ミナコは怯えた顔で琉夏を見た。
 琉夏も、ミナコのその目を真っ直ぐ見詰め返す。

 「ルカ、てめえっ。」

 琥一が琉夏の腕を掴もうとしたが、琉夏は素早く身を翻し、階段を勢いよく駆けおりながら、

 「バイク借りてく。コウ、たまにはバスに揺られてゆっくりミナコを送ってやってよ!」

 明るい声音で叫び、振り返りもせずにウエストビーチを出て行った。

 バイクのエンジンの音が遠ざかり、ほんのりと潮の香りのする琉夏の部屋で置き去りにされた2人の目が合った。

 「コウ・・・!」

 「ミナコ・・・!」

 堰を切ったように何もかも溢れ出させて何もかも捨てて、崩れそうになりながら2人は抱きあった。
 泣きじゃくりながら自分にしがみつくミナコを、琥一は折れそうな程強く抱き締め続けた。

 「ミナコ、すまねぇ・・・。俺が・・・俺のせいで・・・っ。」

 琥一が苦しそうに絞り出す声が、ミナコの涙と嗚咽にとけて、2人の胸にただただ染みを拡げていった。



                  

                 To be continued・・・・・



 


 

 

MyFunnyValentine 第3話

 
 
 第3話



 ひとしきり泣いたミナコが、漸く落ち着いた時だった。

 ミナコの背中を2度3度優しく摩った琥一が、ぼそりと、送っていく。とだけ口にした時、ミナコは全身怒りに似た苛立ちが沸き上がり、今やっと整えた呼吸を殴り捨て、琥一のシャツを引っ張りながら叫び出した。

 「なんで!? なんでそんなコトしか言ってくれないの!? 私がルカちゃんにさっき何されたのか、コウにとってはどうでもいい事でしか無いの!? 私、私っ・・・さっきのルカちゃんが怖いの! お願いコウ、お願いだから、私はコウが好きなの!」

 「待て、落ち着け。わかった、わかったから・・・。」

 「判ってないよ! 何が判ったの!? 私がルカちゃんにさっき何されたのか判ってるの!?」

 叫んでいる最中も、適当にしか着ていない服が擦れて痛いその胸の先が嫌でも意識され、ミナコは又ぼろぼろと涙を流した。
 そして、どうしていいか考えあぐねているのか何も喋らず居る琥一を目の前にして、益々苛立ちが募り頭の天辺まで沸騰しそうになり、衝動に任せて適当に止められているブラウスのボタンを外し始めた。

 「・・・?」

 琥一はミナコが何をしようとしているのか理解が追いつかず、ただ黙ってぼんやりとしていた。ミナコが手早くブラウスとブラジャーを床に落とし、やっと琥一がはっとする。

 「見てよコウ。・・・ルカちゃんに、噛まれて・・あ、やっぱり傷になってる・・・。痛いの、ここが。」

 「っ、ば! ばか服着ろ、服! 何やってんだ!」

 あまりの驚きで後ろを向きその場から離れようとした琥一の腰に、ミナコが必死でしがみついた。

 「離せバカ! 何やってんだおい、よせ!」

 「離さない! だって、だって、コウが好きなの・・・! 痛いの、ルカちゃんに噛まれた所が痛くて、傷になっちゃってて、痛いの・・・!」

 「っ・・・。」

 悲痛さだけに塗れたミナコの言葉に、琥一の動きが少しだけ止まる。
 
 「本当に痛くて、ちょっと触っただけですごく痛いよ・・・。ルカちゃんが噛んだんだよ。私、やめてって言ったのに、イヤだって、言ったのに・・・! ね、コウ、ほんとだよ。見て。傷になちゃってるんだよ・・・ひどいよ・・・痛いよ・・・。」

 はらはらと流れる涙が自分の二の腕を濡らすのにとうとう耐えられなくなった琥一が、ゆっくりとミナコに向き直った。
 
 そっと、ミナコの鎖骨の辺りに触れる。
 
 「すまねえ・・・ほんとに。」

 顔を逸らしたまま、ただ指先だけをミナコの肌に載せて、琥一は泣きそうな顔でもう一度ミナコに謝った。

 「・・・傷、ひどいのか・・・?」

 ミナコは、伸ばされた手でもしかしたら張倒されるのではないかと一瞬身構えていただけに、予想もしなかった琥一の台詞に驚いていた。
 
 そのまま彼の指が彼女の胸に降り、緊張で尖った先端の根元、ルカが強く噛みすぎて、赤く抉れたようになっている部分の脇に触れた。

 ミナコの息が止まる。
 さっき琉夏に触れられた時も息が止まった気がしたが、あれとは違うとミナコは感じていた。あれは、目でも潰されるような前触れの緊張だった。だが、今は違う。

 「・・・傷を、診るだけだ・・・。」

 琥一が躊躇いがちに、ゆっくりとミナコの胸元に視線を移した。

 例え傷を診てくれるだけであろうとも、琥一の指に触れられて止まる息は、そのまま悦びに真っ直ぐに繋がっているのが処女の自分でもわかる。


 「ひでぇな・・・これじゃ、痛ぇだろ・・・すまねえ・・俺のせいで・・・。」

 ミナコは、さっきと同じ台詞に首を傾げた。

 コウのせい? 

 一瞬、裸のまま彼の前に立っているのも忘れ、本気で考え込む。
 
 どういう理屈か見当がつかない。確かに琥一はミナコのチョコレートを琉夏に、ミナコからだと偽って渡した。だが、だからと言ってこうなったのはそもそもミナコがハッキリと琉夏を拒絶しなかった結果であって、殊更琥一が謝る理由があるとは思えない。

 なのに何度も謝る琥一が不思議で、ミナコはじっと黙った。

 琥一も暫くそのまま、指先も動かさずじっとしていたが、突然体を屈め、そっと、ミナコの傷に口付けた。

 「・・・!」

 ミナコの体がびくりと震える。
 それを予想していたかのように、琥一の腕が彼女の両腕をぎゅっと掴んで捕える。

 一瞬だけ傷にキスをして、そしてそのまま琥一が、ミナコをひょいと持ち上げ、担いだ。

 「えっ? え、コウ! ええっ? 何、えっ?」

 いきなり変わった視界の高さと、静かすぎた状況からの転換について行けずに軽いパニックを起こしているミナコを担いだまま、琥一は何も言わずミナコのブラウスを拾い上げ階段を上り、自分の部屋のベッドへミナコを降ろした。

 「な、え? コウ、え? 何これ。」

 相変わらず戸惑ったままのミナコを、琥一がそのまま押し倒す。

 「コウ・・・!」

 「すまねえ。」

 「っ。」

 「・・・俺が、悪ぃんだ。お前をこんな目に遭わせる事になるなんて、思って無かったんだよ・・・。すまねえ、でも、大丈夫だ。」

 「え・・・。」

 どくんと、ミナコの心臓が脈打つ。
 琉夏に傷つけられた自分に対して、理由はよく判らないが謝ってくれて、そして琉夏の部屋から琥一の部屋に運んでくれた。そして、今自分を押し倒して、自分の首筋に顔を寄せてくれている。

 この状況で、行きつく未来は1つではないかと、ミナコが期待に息を飲んだ。
 だが、琥一は、ミナコの頭では思いつかなかった展開を口にした。

 「今だけ、今だけでいい。お前をこのまま、こうして抱き締めさせてくれ・・・。そうしたら、俺はきっぱりケリをつける。もう琉夏があんなコトしねえように、俺がしっかりするからよ・・・!」

 「? え・・・? コウ、それどういう・・・?」

 「聞くな。頼むから。言ったら俺が・・・。」

 琥一が何を迷っているのか何となくの見当がつきかけていて、だがそれは違うような気がして。
 しかも違ったらもう自分は立ち直れない。それを潜在的に理解しているミナコに、たった一言さえ口にする勇気は無かった。

 「俺は・・・言葉にしちまったら、もうこれで終われる自信が無ぇんだ・・・。今だけ黙って、こうさせててくれ・・・。そうしたら、もうルカがお前を傷つけるような真似はしなくなる。だから、今だけ・・・。」

 遠くで波の音が聴こえる。
 今だけ。そう繰り返す琥一の悲しげな腕が、2人で愛し合う未来は無いのだとハッキリ告げる残酷な記号のようで、ミナコは実感なく、だが確実に深く打ちひしがれていく心を感じて、じっと琥一の腕に抱かれながら暗くなる部屋の壁を見ていた。

 




 「どこ行ってやがったんだテメーは。バイク乗って行きやがって。」

 日付が変わりそうな時間になってから帰って来た琉夏に、開口一番琥一が投げ付けた。

 「・・・コウ、一人?」

 「あ? ったりめーだろが。」

 「ミナコは?」

 「てめーの頭は飾りか? バスでゆっくり送って行けとかほざいて、バイク乗って行きやがったのはドコのドイツだ。記憶障害かよ。」

 いつもと変わらない態度で、なんか食ったのかと言いながらキッチンへ向かおうとする琥一の肩を、琉夏が肘で小突いた。

 「どういうつもりだよ。・・・つまんないお節介であんま人をコケにすんなよ。」

 琉夏の、喧嘩の前座のような物言いに琥一は乗らず、ふぅ、と溜息を1つだけ零した。

 「なんか勘違いしてんだよてめーはよ。・・・頼む、大事にしてやってくれ、あいつを。俺にとって、あいつは妹みてーなモンだ。あいつは何も悪くない。だから。」

 「いつまでそうやって兄貴面してるつもりだよ・・・!」

 苛立ちを抑えずに、琉夏が低く呻く。
 琥一はそんな琉夏を見てもトーンを変えず、

 「兄貴面してるワケじゃねぇ。勘違いすんな。俺にとっては、お前も、あいつも、面倒見る保護者気分になる対象だってだけだ。・・・そんだけだ。そんだけなんだよ。てめーは頭が良すぎて考え方が捻くれてんだよ。どういうつもりも何も、俺には無ぇ。」

 「いや、どういうつもりだよっていう俺の台詞は間違って無いね。あれだけお膳立てしてやったのに、まさかミナコにキスもしなかったの?」

 「いい加減にしろ。する訳ねえだろう。俺にとってアイツはそんなんじゃねえ。」

 「・・・呆れるぜ、コウ。」

 低い声で言い捨てた琉夏を、琥一が軽く睨む。だが、琥一はそれ以上その話を繋げる気が無いとばかりに、何か食ったのかと、先程と同じ台詞を口にした。

 琉夏は答えず、ふっと一瞬俯いた目をもう一度琥一に向けると、憤然とした笑みを浮かべてから階段を上がって行った。



 

 琥一に2度目の拒絶をされてから2週間後。
 ミナコは打って変わって、明るい笑顔で琉夏の隣に座り、昼休みを屋上で過ごしていた。

 「やっぱりタラコのおにぎりが一番美味い!」

 「ルカちゃん、本当にタラコのおにぎり好きだね。」

 嬉しそうに弁当を頬張る琉夏を、ミナコは目を細めて見詰めた。
 優しい幼馴染の顔で横に座る琉夏は、昨日も今日も、ミナコの作ってきた弁当を、美味しいと言いながら屋上で食べている。

 一昨日ミナコは、初めて男に貫かれた。
 相手は琉夏で、琉夏がこの間のように泣き叫ぶミナコに強引に噛みついたのではなかった。ミナコから、琉夏にキスをした。

 「ミナコ・・・。」

 ミナコはずり落ちそうな感情を必死で神経に引っ掛けて、他に縋る物が無く琉夏の首にしがみついている自分の惨めさと醜さを、狡さで無理矢理覆い隠していた。

 自分はなんてひどいのだと思った。
 忘れたい。消し去りたい。その為に、自分を好いてくれている男を利用するなんて、ほとほと汚い。

 身に凍みるほど判り切っていたが、それでもミナコは琉夏に縋りつかずにはいられなかった。甘えられるものに甘えたかった。あれだけの勇気を振り絞っても自分にたった一瞬しか触れず、感情を見せてくれなかった琥一に持っていた自分の気持ちが、ひどくみすぼらしくて可哀想で、耐えられなかった。

 だったら、琉夏の愛情を信じて、縋りたいと、ミナコは思い直したのだ。
 愛情を踏み台にするような狡さ。それに気付く頭に蓋をして、ミナコは必死で琉夏の愛に甘えた。

 「どうして? ホントにイイの? あのねミナコ、嫌なのに無理する必要は無いんだ。だから・・・。」

 「ルカちゃん、どうして私が嫌だと思ってるって決めつけるの?」

 自分が狡いと認識してしまうと、割と疑問を口にするのは楽だった。
 そこで初めてミナコは、単に今まで自分が、琉夏に嫌われたくなくて質問をしなかったのかもしれないと違う側面から己を見た。

 何にせよその時ベッドの上でミナコは、琉夏がどうして自分よりも琥一を選んでいると決めつけているのか、実際そうだが、何故本人でも無ければミナコが打ち明けた覚えも無い琉夏が妙に自信を持って信じているのかを尋ねた。

 琉夏は結局それには答えなかったが、その代わり、何度もミナコの気持ちを確かめてきた。

 「ルカちゃんと、したいと思ってる。その気持ちはウソじゃないよ。信じて。」

 きっぱりと強い目で言い切ったミナコの言葉を聞いた琉夏が、ほっと安堵したように見えたのは気のせいではないと、ミナコは温かい舌で唇をなぞられながら思っていた。

 
 ミナコの体に口を付ける度に甘さを増す琉夏の吐息は、ミナコの頭の中から虎一に拒絶された心の曇りをかき消す威力が十分だった。
 頭の中から大事な何かが抜け落ちて行く感覚に揺られながらミナコは思った。これで良かった。これでいい。琉夏の愛を注がれている最中は忘れられる。手に入れた昇華あるいは代替に没頭する。
 
 「あ、あっ、ヤダそんなトコ、いやっ、そんなトコ舐めちゃ、あっ・・・だ、めぇ・・・。」

 抵抗の途中で襲う快楽に、あっさりと流される。
 自分でも知らなかった小さな芽を舌と指で転がされると、ミナコは忽ち体を震わせて大声をあげた。

 「オマエすごい・・・こんなに膨れちゃって。こんなになっちゃったら、もうちょっと触っだけでイっちゃいそうだな。」

 「ひぃんんん! やめ、ダメえ!」

 「ん? なんで、気持ちいいんだろ。だったらやめない方がいいだろ。」

 ちゅうっと軽く芽を吸い、琉夏が囁く。

 「っん・・・だめだよ。たくさん気持ち良くならないと、オマエが辛いんだ。」

 そう言って、初めて知る強烈な快感に仰け反って喘ぐミナコを舌で攻め続ける。ミナコは仕舞には息も切れ切れになった。だが、舌から解放されてグッタリとしたミナコの蕩けた部分に琉夏が指を入れると、ミナコはまた壊れた玩具のように喘ぎ出した。

 「・・・もう、いいかな・・・そろそろ俺がヤバイ。」

 琉夏の呟く言葉の意味が、ミナコには良く解らなかったが、ぼんやりと芯が溶け出す頭では、もうそんな事はどうでもいい事にしか思えなかった。

 


 そんな事を思い出してぼんやりしていたミナコは、琉夏にふっと耳に息を吹きかけられて、飛びあがって驚いた。

 

 
 「うわぁ、俺が驚いた。」

 「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてたからビックリしちゃって。」

 ミナコは咄嗟に言ってからはっとした。
 琉夏の顔色が変わったわけでも無いのだが、万が一にでも虎一の事を考えていたとは思われたくない。無実の罪は着せられたくなかった。

 「琉夏ちゃん見てたら、その、あの、ちょっと思い出しちゃって・・・。」

 「へ? 何を?」

 「う。そりゃ、その、この間の、初めて、した、コト。」

 フェイドアウトするように声を小さくさせながら、真っ赤になって答えたミナコを見て、琉夏が座っている距離を一層縮めた。

 「ミナコ、やーらしい。」

 「ち、違うよ、そんなんじゃないもん。」

 「もう痛くない? 大丈夫? 」

 「うん、もう大丈夫だよ。あの日は、家に帰ってからもちょっと痛かったけど、でももう今は全然平気。どこも痛くないよ。」

 「そっか、良かった。・・・ねえ。」

 琉夏が、そっと耳打ちをする。

 「帰り、ウエストビーチに来てよ。今日も、オマエとしたい。」

 息がかかって肩が跳ねる。首筋にぞくっと痺れが走った。
 それらを知らなかったそれまでには既に戻れなくて、琉夏に腰を引き寄せられるまま抵抗もせず、今日もまた、ウエストビーチのあの琉夏の部屋で声を上げる自分が容易に思い浮かぶ頭を霞ませながら、ミナコは琉夏のキスを受け止めていた。

 忘れられる。きっと。
 自分はこれから、自分を好きでいてくれる優しい琉夏に甘えながら、自分を拒絶した、一番好きだった男への気持ちは忘れられるんだ。それだけを信じて、ミナコは琉夏の服の胸元を、ぎゅっと握った。



 
               

              To Be Continued・・・・・
 

 

 

 

MyFunnyValentine 第4話

 

 
 第4話

 


 琉夏とは付き合いを続けていた。

 その間ミナコに訪れた特段の変化と言えば、琉夏にキスをされると、それが合図のように自分の下腹の中心が溶け始める、そんなクセがついた事。

 そして、琉夏の唇が全身を這うのを待ち望み、自分もまた、琉夏の身体に指を沿わせ口付けを繰り返す。その行為に溺れるようになっていた事だった。

 「すごく、イイよ、ミナコ・・っ。」

 
 男の味を覚えたら愛情がどうだとか、あまりミナコは考えなくなっていた。考える機能が停止するように琉夏が抱くからなのか、快感の渦に呑まれる瞬間を求めるのに躍起になっていた。

 一方で、学校で昼休みを共に過ごしたり、一緒に帰ったり。
 休日にはどこかへ出掛けたり。男女交際と呼べるものは一通りした。そんな日常で起こる小さな出来事から、琉夏は真剣に好きでいてくれるのだという事は判った。

 応えたいと、ミナコは思った。そこに嘘は無かった。
 抱かれたからかもしれない。そうも思ったが、そうでないような気もした。上手く整理できないが、それしか道が無い状況から抜けられなかった。

 

 たまにウエストビーチでも学校でも、琥一と鉢合わせした。その度ミナコの胸はざわめいた。
 だが琥一は声をかけて来るでもなかった。こちらも敢えて目を合わせないようにした。彼がああいう性格だとは知っているから、単に声を掛けてこないだけで、それ以上でも以下でも無い。そう思えば乗り越えられる。何て事は無い。とミナコは自分に言い聞かせた。

 「乗り越えられる」そう表現している時点で、ミナコは自分がどれだけ琥一を好きだったのか、そしてまだ未練があるのかをいつも思い知る。だからまた琉夏に甘える。どれだけ甘えても、琉夏が突き離さない事に堕落していた。

 ミナコは琉夏に縋って縋って、縋りきっていた。
 琥一に会う度ギシギシと鳴る胸の痛みから逃げる先で、琉夏ほど甘えられるものは無かった。

 琥一に会うと、わざと見せつけるようにミナコの腰を引き寄せたりする琉夏は相変わらずだった。
 ミナコはその度にそれなりに抵抗してみせるのだが、熱い頬を撫でられたり、髪越しに耳元へ唇を寄せられたりすると、その抵抗はあっさり途切れてしまうようになっていた。

 「口では嫌がってるけど、息があがってるよ、オマエ?」

 琉夏の指摘が琥一に聞こえやしないかとヒヤヒヤしながら、琥一がこんな自分を気にしてくれないかとおかしな期待もしていた。息が上がる理由が琉夏の指と舌だけでは無いと反論したいが、言える筈も無い。

 何を言い訳した所で、自ら琉夏とのセックスに耽る日々は否定できない。
 
 この何カ月かで、琉夏が紛れもなく男なのだと自身に刻みつけられていた。
 元々が好きか嫌いかの単純さで分類すれば好きな人物だ。嫌悪が無い分、男だと判ると、自分の感情とはもっと別の、多分原始的な遺伝子のレベルで琉夏の身体を求めるようになった。

 「ね、こうすると、気持ちいい?」

 「・・ぁ、あ。うぁ、ダメだっ、って! 出る、出るっ!」

 がしっと大きな両手で腰を掴まれ、ミナコは動きを止められた。
 必死に射精を堪えている琉夏が面白くて仕方が無い。最近は琥一を忘れる為に琉夏の熱を利用するのでは無く、単に探求する為に琉夏の身体を使うようになった。

 琉夏の手の力が緩んだので、また先程と同じように腰を動かす。
 
 仰向けの琉夏に跨り、浅く挿入したまま腰を左右に振る様にする。丁度くびれの部分が、自分の中の壁に引っ掛かり擦れて気持ちがいい。腰を密着させていない為抜き差しが琉夏からは見えてしまうが、それを見ている琉夏の達するのが早いのが何だかおかしくて、ミナコは最近気に入ってこれをしていた。

 「ああ、ミナコ、これダメだよ・・・ミナコの中に俺の入ってるの、丸見えだもん・・・こんなの見てたら、も、ヤバいから。」

 上気した顔で琉夏がうわ言のように言う。それが更にミナコの気持ちを昇らせる。もっともっと琉夏を自分に夢中にさせたい。自分にはそれが出来ると信じたい。

 そう。自分に魅力が無いからあの時琥一が手を出さなかった訳では無いのだと思いたい。

 普段考えないようにしている分、不意の時に突き詰めれば結局そこへ辿り着く毎度の思考を振り払う為、ミナコは琉夏の耳元に唇を寄せ、息を乱しながら首筋にキスをする。

 「ルカちゃん、どっちが好き? 奥まで入れるのと、こうやって、先っぽだけくちゅくちゅされるのと・・・?」

 「どっちもいい。ミナコとひとつになれるなら、どっちも気持ちいいよ。ミナコ、ミナコ・・・!」

 名前を呼びながら激しいキスをしてくる琉夏を可愛いと捉える自分が、妙に汚れた気がしても、それすらそれでいいと思っていた。

 逃げていても、快楽を追求する余裕がミナコにはあった。
 きっとそれが、真っ当に琉夏に心酔してないせいなのだろうと自虐する虚無すら、ミナコは忘却した。

 どうでもいいのだ。
 変わらぬものなどどうにも出来ない。琥一の気持ちは動かない。そして多分、琉夏の気持ちも早々変わらないだろう。それをひっくるめてある意味前向きにやり過ごすのがきっと失恋の乗り切り方なのだ。
 それがミナコが何とか言葉にし得た答えだった。いちいち傷ついていられない。目の前の楽しい事で昇華してしまわなければ、自分が潰れてしまう。

 「あああっ、ルカちゃんだめえ。」

 興奮して下から激しく突き上げ出した琉夏を制止する。当然訊いて貰えないが、だがそれもすぐ止る。琉夏は限界が近かった。ミナコを強く抱きしめ、体を強張らせて絶頂が来るのを拒否している。

 だからミナコは彼を煽る。

 「ルカちゃん、早く動かしたいよぉ。ルカちゃんので一杯ミナコを掻き回してぇ、早くぅ。」

 「っダメ! マジ待ってほんとにっ・・・。」

 上から見下ろす琉夏は、本気で焦って半分泣き顔だった。
 絶対動かないでとミナコに念押しして、傍にあったコンドームの封を歯で切る。切羽詰まって狂った目をしているが、避妊具を付ける微妙な間のあいだ、男はみんなこうなのだろうかと、ミナコはつまらない事を考える。

 そしてつまらない事なのに、楽しい。

 自分を喰らう欲に支配された顔。それをもっと見たい。もっともっと、琉夏を狂わせてやりたい。自分が優位に立って見おろす側で。そんな奇妙な高揚感に、ミナコはやみつきになっていた。


 琉夏はいつも避妊してくれたので、任せていた。
 知識は持っていたが、流石に自分で購入するのは憚れた。だが琉夏は欠かさず準備をしてくれた。それが余計に、ミナコを安心という傲慢に落とし込んでいた。

 着け終わった途端、琉夏がミナコに襲いかかる。

 「俺、持たない。すぐイクから、ごめんねミナコ。」

 「ううんいいの。・・・また後で一杯、して?」

 「~~~! だから、そんなコト言うのダメなんだってオマエはっ・・・!」

 琉夏のすべては、目の前の女である自分だ。
 抱かれていると特に、普段でもひしひしとそれが伝わっている日々で、ミナコは惚れられる上機嫌に酔いしれる自分を選択し続けていた。

 ミナコしか存在しない快楽の世界で果てる琉夏は、とてつもなく満たされている。誰の目にも解るそんな彼を見る自分に満足する日々。ミナコにとって精一杯の、今の自分の気持ちの手懐け方だった。

 
 


 翌日の昼休みも、ミナコは琉夏と一緒に過ごしていた。
 暑いと感じる日も増えてきて、昼間、日陰で過ごすと丁度良かったりする。少し陰になった屋上の一角で、ミナコは琉夏に膝枕をさせられていた。琉夏は、今日はお腹が空いて無いなどと言って、昼休みに入ってここへ来た途端からこうしている。

 目を閉じてうとうとしている琉夏を膝に乗せながら、ミナコはサンドイッチをかじった。
 琉夏がサンドイッチをあまり喜ばないのを知っていたが、主婦でもないミナコにそんなにレパートリーも無く、そこまで気を遣わなくても・・・という気もして今日は持ってきた。
 空腹で無いと言っていた琉夏は、美味しい、アリガト。と、ゴロゴロしながら1つだけ腹に収め、御礼を言ってくれた。

 
 食事を終えて紙パックのジュースをストローで口に運びながら、たわいも無い内容で少しだけ言葉を交わす。
 穏やかで、恋人らしいっていうのはこういう感じなのかと、ミナコはぼんやり思っていた。

 暫くすると、琉夏がスカートの中に手を入れてきた。

 「ちょ、ルカちゃん!」

 慌てて、ミナコは琉夏を制する。
 ここは学校だ。しかも他の生徒もたくさん居る、昼休みの屋上だ。

 「何にもしないよ。太腿撫でるだけだから。」

 悪戯な笑みで、目を瞑ったまま琉夏が言う。
 
 撫でるだけが厄介なのだ。そう抗議したくても、少し離れた場所には生徒も大勢居るし、騒がない方がバレない。ミナコはそう思い、琉夏にはっきり判るように顔を顰めて見せるだけで黙った。

 厄介だと頭を掠めたミナコの予想は当たり、琉夏がショーツへ指を忍ばせた。
 
 「っ!」

 「シーっ。声出してバレたりしたら、オマエが恥ずかしい思いするよ?」

 クスクスと笑う琉夏。
 笑っているのに、確実に熱を帯びた艶を含んだ彼の声に、ミナコの判断力が呆ける。

 ああ、彼はベッドに入る前、いつだって声にこんなに艶が出る・・・。淫猥な前触れに腰の力が抜ける。習性というのは恐ろしい。彼の声音で、それが誘いか悪戯か、体が判断出来てしまうようになったのだ。

 死角になって、少し離れた所で昼休みを過ごす他の生徒からは、ミナコの膝の辺りは見えない。だがいつ誰が寄ってくるか、前を横切るか判らない。ミナコは必死で残った理性を総動員し、やめて、と小さな声で抗議した。

 「・・・に居たよー?」

 琉夏が悪戯を止めず、それどころかショーツの脇から指を入れ直接肌をなぞって来た時、息を飲むより先に、風に乗って耳に届いた遠くの声にミナコはドキリとした。

 「るかー! おーい!」

 「! ルカちゃん、誰か呼んでる! 誰かルカちゃんを探してるみたい。」

 「んー・・・誰だよ・・・知らん顔に限るな。」

 「ルカちゃん!」

 膝の上の大きな体を揺すっても、琉夏は相変わらず澄ました顔で目を閉じている。そして指を止める様子も無い。
 琉夏の名前を呼んだ声が、クラスメイトの男子の声だと覚えがあったミナコは、琉夏の応答が無ければその生徒が近付いて来るのではないかと気が気では無い。

 「ミナコ、ちょっと足拡げてよ、うまく触れない。」

 「な、何言って・・・!」

 ミナコが流石に焦って、琉夏を跳ねのけようとした時。

 
 「おいルカ!」

 肩が飛び上るほど、ミナコは驚いた。
 琉夏も、目を開ける。

 「起きろバカルカ。」

 座る2人を影が覆い、その影が琥一のものだと声で理解したミナコは、すぐには俯いた顔を上げられなかった。
 先程の男子生徒は、琥一に琉夏の居場所を尋ねられていたのか。

 ルカは、寝転がったまま体の向きだけを変えて、琥一を見た。

 「なに、コウ?」

 「ちょっと来い、用があんだよ。」

 「ここで聞くよ。オレ、ミナコの膝から離れたくない。」

 「いいから来い。腹、踏むぞ。」

 凄む琥一に、琉夏が一瞬ムっとした。だがそれは一瞬で、琉夏は素直に起き上ろうとした。
 のっそりと上半身を起こした琉夏にほっとする。

 それに同調するように、ずっと膝枕をして曲げたままでいた為に、すぐには上手く動かない足を伸ばそうと、ミナコがぎこちない動作で膝を立てた途端、琉夏が、ミナコのその膝を抑え、もう片方の手指をまたショーツの中へ滑らせた。

 「ひぁ!」

 突然の、そして有り得ない琉夏の行動に、ミナコは思わず小さな悲鳴を上げた。
 目に飛び込んで来た琉夏の顔は、ミナコをいつも昂ぶらせる狂ったものを滲ませていた。

 息を飲み、ミナコは固まる。

 「こんなに濡らしてるミナコ放っておけないから、コウ、用は後にしてよ。」

 言いながら乱暴に膣に指を入れ、すぐに中で指先を曲げる。そのまま数回擦られ、神経を通して自分の淫液がぴちゃりと跳ねる音を聞いたミナコは、あまりの羞恥に窒息しそうになった。

 スカートで隠れて琥一の目にはっきりとは見えないのが有り難かった。だが頭が混乱し、ちがう、と必死で涙声で訴えるミナコを抱き抱え、琉夏は尚ミナコの秘部から指を抜こうとしない。

 ミナコは鼻に抜ける声を必死で殺し、顔を隠しながら琥一に訴えた。

 「や、めっ・・・! コウ、ちが、違うのっ、あっちへ行って・・・!」

 言葉にならない。
 琥一の顔が見られない。だが琥一が立ち尽くしているのが判る。

 彼も驚いているのだろうか。それとも、琉夏の指が自分を犯しているのが明白で、それから逃げない自分が淫乱だと呆れられているのだろうか。こんな事をされて悦ぶ女だと軽蔑しているのだろうか。

 ただただ琉夏のあまりの行動に驚き、ぐるぐる回る頭に振り回され、貫くような羞恥心だけの世界に放り込まれた故の遭難。

 

 それは、きっとたったの数十秒。
 スローモーションが延々と続くような、とろりとした沼で緩慢にもがくような、長い長い時間だと錯覚させる数十秒。

 チャイムが鳴ったのが聞こえた。
 すると琉夏は指を彼女から抜き、琥一に向いてニヤっと笑った。

 「俺の指、舐める? ミナコの味するよ?」

 その言葉がミナコの心を突き刺したのと、真っ赤になった琥一が目を逸らして逃げるように立ち去ったのが同時だった。

 琥一が去った途端、わなわなと怒りか羞恥か判らないものが込み上げて、ミナコは琉夏をきっと睨みつけ、罵った。

 「ひどいよルカちゃん、なんて事するの、最低! 最低だよ! 学校で、こんなトコで・・・!」

 だが、また少し笑った琉夏は、そんなミナコに躊躇もしていないようだった。彼の赤い舌が、件の自分の指をペロリと舐める。そして、琉夏は言った。

 「俺に抱かれてるって、そんなにコウに知られたくないんだ。」

 「そ! そういう問題じゃないでしょ! 最低、ルカちゃん最低だよ、だいっきらい!」

 感情に任せて捨て台詞を吐いて走り去るミナコを、琉夏は追いかけて来なかった。
 泣きながら階段を下り、そのまま学校建物の裏手に回ったミナコは、壁を背に座り込んで目を閉じた。

 今まで何度も、琥一に偶然会う度に琉夏にキスをされたり、抱き締められたりした。だがこんなあからさまな行為は無かった。
 小さな日常を積み重ねて、純粋な信頼も築いたつもりでいるが、琉夏は何が気がかりなのだろうか。一体何が彼を不安定な行動に駆り立てるのかがミナコには判らない。

 「ぜったい嫌われた・・・。」

 琥一に。
 
 ミナコは、あんな状況になっても自分に手を出さなかった琥一を思い出す。

 あれだけ流されない男にとって、他人も大勢いるあんな場所であんな事をされて、更に濡らしていたなど暴露され、もう自分は軽蔑されるしかないと絶望していた。

 軽蔑されるに値するほど琉夏とセックスばかりしている自分の現実が、追い打ちをかける。
 彼はどう思っただろう。琉夏に感じていると思われたのだろうか。

 「違うのに・・・。」

 今さっきのはそうじゃない。それだけは判ってほしいのに。
 それとも、少しでも、琉夏と替わりたいと思ってくれたか。

 「は。ありえない。」

 嘲笑が洩れる。涙が流れる。心が真っ黒に沈んでいく。
 
 膨らんでは爆ぜ、膨らんでは消え、を繰り返す様々な可能性と絶望。願望。自虐。嫌悪と苛立ち。
 どうして自分はこんなに悩まないといけないんだろう。上手く行ってると思っていた。琉夏との交際は足元の定まらない平均台の上での一時的な抱擁と見ていても、それでも、それなりに上手くもう少し続けられる自信があったのだ。

 そんな自信はまやかしだったのだ。
 琥一の前でこんなコトが起こった程度で、琉夏を好きになれるという錯覚から覚めてしまうのだ。

 そこまで考え、呆けた目で自分の爪のかたちを眺めていたミナコは、立ち上がって教室へ戻った。
 戻る途中で、決意をしながら。

 

 
           

               To Be Continued・・・・・
 

 
 
 
 
 
 



 

MyFunnyValentine 第5話

 
 
 第5話 
 



 
 チャイムが鳴った。
 
 ミナコは廊下を出て、よそ見もせず待ち合わせ場所へ向かった。誰かに、琉夏に、声を掛けられる前に辿り着きたかった。掃除当番だったような気もしたが、ホームルームが終わったかどうか位で教室を飛び出してきたので、そうだったとしても今更どうにもならない。

 待ち人は先に来ていた。 
 現れたミナコを見ると、眉を顰めて無言で前を歩き出した。ミナコもそれについて歩く。

 暫く歩いたところで先に口を開いたのは、琥一だった。

 「ルカは、ほんとにいいのか。」

 「え。」

 「最近、毎日一緒に帰ってたろうが。お前を学校で探してっかもしんねえぞ。」

 「・・・。」

 (イライラする・・・。)

 ミナコは琥一のその言葉に、ただ憤りだけを感じた。なぜココで琉夏の名前を出すのかと苛立つ理由が、琉夏とセットにされている悲しさでは無く、琉夏を優先する琥一の遠慮にあると屋上での一件で判ったから、益々舌打ちでもしそうになる。

 今日は琉夏はバイトの日だった。そんな単純な答えを返すのすらイヤで、ミナコは黙っていた。

 答えないミナコを咎めもせず、琥一もただ黙って歩き続けた。

 
 
 ウエストビーチに着くと、着替えて来るから待ってろと言い残して、琥一が階段を上がっていった。
 ミナコは少しだけ間をおいて、足音を立てないように気を付けながら後を追った。
 
 「コウ。」

 「ぅわあっ!」

 シャツを脱いで、ベルトを外したトコロだった琥一が、突然目の前に現れたミナコに驚いて後ずさった。

 琥一は本気で驚いたようで、後ずさった時にすぐ後ろにあるベッドに座り込んだ。

 その様子がまるで、羽根がうまく動かず飛び立てない小鳥のようで、ミナコの頭の奥に愉悦が沸く。何故だか判らない。何かが楽しい。気持ちが昂ぶる。そうミナコは捉えた。

 「ばっ、な、待ってろって言っただろうが。」

 焦る琥一に、ミナコはニッコリと笑って言った。

 「ううん。コウ、今脱いでて丁度いいんだもん、待たないよ。」

 「あ? てめ何言って・・・っておい!」

 いきなり自分の制服のスカートを足元に落としたミナコに、琥一が驚いて声を上げる。驚き過ぎて動きの止った琥一めがけ、ミナコは勢い良く、予め幾つか外しておいて、残っていたボタンを引き千切るように脱いだブラウスを放り投げた。

 「わっ。おい、な、にしやがるっ。」

 焦った男など、簡単だ、ここまでは。ここからが―――――。


 ミナコは、自分がウエストビーチに来た瞬間から今までのほんの数分のこの間が、思い通りに進んだ事に勢いを貰う。
 琥一が逃げ出せない程目の前のミナコに呆気に取られ、その隙に自分が服を脱ぐという算段通りである事にほくそ笑む。

 慣れたのだ。裸の女を目の前にした男の理性の無さに。
 狼狽しながら欲情する。その匂いに気付ける程に、琉夏に抱かれた。

 投げ付けられたブラウスを手で払いのけるのに必死になる琥一に、ミナコは飛びついた。
 あの大きな体を女の自分が押し倒すには、ケンカのつもりで飛び掛らねばならない。

 「うわっ、バカ!・・・っ!!」

 倒れ込んだ琥一にすかさずキスをする。今のミナコにとって、張り倒されるかもしれない恐れなどどうでも良かった。
 
 
 どうして琥一はこっちを見てくれない? 本気で自分に興味がないのか。違う、そうじゃない。さっき解った。解ってしまった。

 じゃあ何か。琉夏に遠慮しているだけなのか。

 そうだ。
 
 そうに違いないと、さっきぼんやりと爪を眺めながら確信した。
 繰り返し繰り返し浮かぶ色々な可能性と絶望を拾い集めて構築してまた粉砕して。それを繰り返して、ミナコは小さくて確実な事象を繋げて答えを出したのだ。

 琥一は、琉夏に遠慮しているのだ。きっと、彼は自分を女として見ていない訳ではない。
 チョコレートの一件、琉夏に突然乱暴を働かれた一件、ひとつずつ思い返し、記憶を攫い、まさかそんなと卑下する感情的な部分を殺して一番信憑性の高い可能性。

 そしてきっと、それを琉夏も知っている。だから琉夏はあんなに琥一と鉢合わせすると挑戦的だったのだ。琉夏は知っていたのだ。自分が琥一に惚れている事では無くて、きっと、琥一が・・・。

 まとまれば何と言う事の無い簡単な、呆気ないパズルのこたえ。
 惚れた腫れたで、単に目が眩んで複雑に考え過ぎていただけの自分がばからしくなる。
 
 しかし遠慮にも限度があるだろうと思う。
 あんなコトがあっても自分に触れないなんてこの男はどうかしている。どうかしているのは自分ではなく、この男だ。しかしそれすら間違いであればいい。この男はどうかしているのではなく、本当は自分に触れたいのだ。そうだ、きっと。そうなのだ。

 このぎらついた自分のみっともない願いを真実にしたい。浅はかだろうが何だろうが、自分が本当に好きなのは琉夏じゃない。最後の望みに賭けたい。その為に捨て身であれというなら、これが私の覚悟。

 それが、ミナコの決意だった。

 自分の出した回答が真実であるかどうかを、立証する事。回答が微妙にずれていたとしても真実に修正するべく、自分の女として持てる力をすべて使う事。後悔しようが諦めたくない。縋りつく様を他人に笑われてもいい。その為に、琥一を呼び出した。今日が琉夏のバイトの日で本当に良かった。寧ろ運命だ。決行する為に用意されていた日だ。

 そんな気持ちで鎧固めをしてウエストビーチまで来た。
 そして、彼の部屋まで上がってきた。
 行動力に自身のすべてを駆り立てていたミナコは、無我夢中で琥一を押し倒してキスをしたのだった。

 そして、琉夏と何度も体を重ねただけあって、途中で気付いた。
 琥一の腕が、自分を抱きしめていると。彼の舌が、ミナコのキスを受け入れ、応えていると。彼は、求めていると。

 ミナコの手が琥一の股間に延びる。
 初めて触る好きな男の、固く隆起したそれ。ベルトが外されていた為、ミナコは簡単に直に触れられた。

 琥一の身体が、大きなモノを触れられただけでなく、そのまま軽く握られ上下に擦られたせいで少しだけビクついた。有無を言わさないと無言の訴えで、ミナコはキスを続けた。

 お願いだから拒絶しないで。もう私を避けないで。
 どうなってもいいから、何をされてもいいから、私が好きなのは貴方だとわかって。私の本気を知って。

 祈りにも似た気持ちで、ミナコは何度か手を動かして、そして、身体をずらして自分の入口へそれを宛がった。

 「待て・・・っ。」

 吐息で周りが霞む。
 相変わらず唇の距離は離れていなくて、熱まで伝わるような焦った琥一の声を、ミナコはぴしゃりと跳ねのけた。

 「いやっ、待たないの。大好き、コウ!」

 「オイっ・・・ぁあ!」

 「んあぁああああーっ。」

 あっという間の出来事だった。
 あれだけ泣いたり辛かったりした時間が嘘のような、あっという間の、一瞬の攻防の末の、繋がり。


 「あ、あっ、コウ、すごいぃ・・・。」

 嬉しい。
 嬉しい。
 嬉しい。

 ミナコの頭は、今それで一杯だ。キスをしていた時は無我夢中で気付かなかったが、自分の中は濡れていた。大きなものを押し込んだ、という、引き攣れるような感覚はあったが、少しの苦痛は悦びで消された。

 「あ、ん。コウ、抱き締めて・・・。」

 琥一の耳朶を軽く噛んで強請った。
 体が熱い。自分の体温で神経が火傷しそうだ。琥一の胸も熱くて、肌を重ねているだけでどんどん体内の温度が上昇していくようだ。

 強請りながらも、腰を緩く動かす。琥一の頬に、首筋に、吸い付くようなキスを何度か落とした。途端

 「!」

 ぎゅうっと、背筋が物凄い圧迫を受けた。
 瞬間、息が、出来なかった。
 
 琥一の逞しい腕がミナコの背中をぐいっと抱え、もう一方の腕は、ミナコの頭をがっしりと押さえ込んでいた。キスというより、もっと獰猛で野蛮な舌と唇を使った欲望をあからさまにした動きで、ミナコは息も遮られたのだった。

 気付いたら自分が天井を見ていた。琥一に覆い被さられていた。
 ミナコは何がどうなったか判らないまま、ただ、自分の希望が形を成した嬉しさに心を震わせていた。

 興奮だけが伝わるような荒い息をミナコに浴びせながら、琥一が、ミナコを掻き抱き快楽を貪っている。
 嬉しくてたまらない。自分は、ずっと好きだった男に、やっと、やっと求めて貰えたのだ。甲高い声で琥一の杭の穿ちに応えるミナコに、嬉しさと悦びですぐに一度目の閃光が訪れた。 

 「あ、イっちゃう、ダメ、わたしっ・・・!」

 「・・・っ!」
 
 快楽が爆ぜたというより、感情の暴発、というべき登頂だった。本当に好きな男のものになれるという絶対の恍惚を知ったミナコの壷の内は、勢いで琥一を締め上げる。
 琥一が、繰り返していた挿送を止め自らの絶頂を先送りする。何度も琥一の埋まったモノを締め上げるミナコの内部は、彼の理性を見事に粉砕した。

 「ミナコ・・・。」

 急激に弛緩する体を必死で保ちながら、ミナコは至近距離の男の瞳を見る。
 涙で揺れているような、蜃気楼に覆われたような瞳。熱が発生させる潤みで濡れた、その瞳がミナコの背筋を強力に痺れさせる。

 「ミナコ、好きだ。」

 瞬間、ミナコの血の沸騰が止る。
 だがすぐに、今度は沸点を越える。

 「コウ・・・! っ、ほんと、ほんとにっ・・? ほんとに、わたしのこと・・・!」

 イったばかりで体に力が入らないコトなどどこかへ飛んだ。
 止っているのにぐらぐらと揺れているような頭で、必死になって琥一に尋ねる。

 「ああ、お前が好きだ。お前だけだ。好きだ・・・!」

 「んん。」

 甘いくちづけ。
 
 彼のような男が、感情を言葉で紡ぐ意味が、ミナコには解るからうち震える。
 嘘など言わない彼の、そして、本心すら滅多に口にしてくれない彼の、好きだという愛の告白。これ以上の幸せは無いとさえ思う。
 
 心も体もひとつになった事で、一際大きく逞しく感じる愛する男が、愛を囁き熱に浮かされて改めて自分に伸し掛かってきた。
 それはミナコにとって、琉夏に、優しく優しく、好きだという気持ちを前面に押し出されて受ける愛とは全く別の初めてのもので、ひどく魅惑的だった。

 勿論、琉夏も熱に浮かされたようにミナコを抱いていた。
 寧ろ琉夏の方が、常にミナコの吐息に酔い、甘い言葉を囁いて夢の狭間に連れて行ってくれた。

 二人の何が違うのかは解らない。琥一だって決して乱暴にしていないのに、琉夏は優しかった。そこが琥一と違う、としか解らない。
 ただハッキリしているのは、ミナコにとって、琉夏のようなあの優しさより、琥一の力任せの激しい腕の方が、この交わりが現実だと実感できて涙が出そうだという事だ。悦びで全身が震えて潤む。ただ体を重ねているだけだというのに、嬉しさと感激で世界には二人だけだと錯覚する。

 琥一の雰囲気で射精が近いのを感じ取ったミナコは、脚で彼を抱え込もうとする。

 離れないでほしい。
 これが終わったら、まさか、また元のように冷たい彼になるかもしれなくて、それが怖い。それだけはイヤだ。

 「ああん、あんっ・・・!」

 止める間もなく、琥一がミナコの中から引き抜いて、ミナコの腹に大量の体液がかかる。

 
 「あっ・・・。」

 じんわりと熱い。好きな男の吐き出した欲に塗れる自分に感じて小さく声が出る。そっと腹に触れると、丁度出されたものが指に絡んだ。直後で余韻が残ってるのか、ぼんやりと見ている琥一に向けて、それを掬った指をわざと大層に舐めて見せた。

 「これが、コウの、なんだ・・・。」

 「、っ、おまえっ。」

 「ふふっ、変な味・・・でも美味しい、コウのだから。もっと沢山頂戴。もっと私にかけて。」

 「ばかやろ・・・。」

 苦虫を潰したような顔で、ぐいっと腰を引かれた。

 「今くっついたら、コウにも着いちゃうよ・・・。待って、ティッシュ・・・。」

 笑ったようにも見えるミナコの表情は淫靡で、更に琥一が煽られる。
 上半身を少しだけ起こし、手を伸ばして近くにあったティッシュを数枚手にして、すごーい・・・とからかうように一人ごちながら、自分の腹の白濁を拭き取るミナコの脚を掲げ、獣のように脹脛や爪先に口付ける。

 「んなのそのままにしとけ。着こうが構わねえよ。今、離れたくねぇ。・・・脚、綺麗だなお前・・・。お前は、綺麗だ。全部、綺麗だ。ミナコ、ずっとこうしたかった・・・!」

 感嘆の吐息を共に、ミナコの脚に舌を這わす。
 密着させた腰を動かして、ミナコの入口にまた固さを増した自身を押し付ける。

 「あん、入っちゃう、そこで動かしたりしたら・・・あはぁん!」

 にゅるにゅると擦り合わせられていただけの物は、ミナコの溢れ出した水だらけのそこに簡単に入り込む。
 吐精したばかりのさっきより硬質が変化しているが、それだけミナコが誘っているのだ。そして咲いた花がもう一度生まれる為に種をせがんで中で強力に包み込めば、精を絞られる側もまたも膨張する。

 「痛くねぇのか、こんなデカいモン、ぅ、あ・・・入れられて。」
 
 強い快楽を堪えて、しかし一度果てた所為で余裕があるのか、それをも愉しみながら頬を優しく撫でる無骨な指に、ミナコは自分の手を添える。
 
 「ん、痛くない・・・気持ち、いいっ・・・ああ、コウ、もっといっぱいして・・・。」

 「壊れちまうぞ、お前。」

 「いい、それでも、メチャクチャにして、もっとぉ。」

 きゅっと、ただ添えてた指に力を入れ、ミナコが琥一の指を唇に寄せて噛む。
 琥一がミナコの胸の天辺に軽く歯を立てる。一際高い声で喘ぐミナコは、組み敷かれた下で大仰に体をくねらせた。

 
 繰り返す。ひたすらずっと。
 今まで求めに求めながら抑えていた。
 だが今は曝け出し、暴き出し、弾け飛んだ激情でお互い没頭し続けている。絡ませた指も、汗ばんで吸い付き合う肌も、何もかもが至福で代えられない。

 とろとろに熔けて一つになっていた。
 快楽と愛と恍惚の固まりとなって、夢すら見ていない。

 見ているのは、ただただゆらめく高揚の連続だけだ。

 「愛してる。」

 それはもう、どちらの唇から紡がれている言葉なのか判らない。実際紡がれているのかも解らない。
 一つになった2人には、お互いの愛情を感じ取る波長も隙間なく重なって、思いまでが融合してしまったかのように繋がりあっていたから。粘膜も脳も身体も一つの世界にいたから。
 
 同じ旋律を詠みながら、2人は罪も罰もそっちのけで耽っていた。






                        

                         To Be Continued・・・

 

 
 

 


 

 

 

 

 
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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