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Fire Works 1

FireWorks 

 

「バカヤロウ! 誰がこんなもん持って来いっつった!? 」


 派手な音がして、五線譜が舞った。

 蘭丸が譜面を机に叩きつけ、その勢いで紙がそのまま舞ってしまったのだ。


 「ごっ、ごめんなさい。スイマセン、すぐに書き直しますから!」


 すっかり怯えて小さくなりながら謝る春歌をキッと睨みつけた蘭丸は、


 「オイてめプロか。俺はこんな曲作れっつった覚えは一度もねぇぞ! この前の俺の話、聴いてなかったのか、あ!?」


 「スイマセン!」


 必死に頭を下げる春歌は、今にも泣き出しそうなのをぐっと堪え、



 「来週の〆切りには必ず間に合わせます。だから、もう一回作らせて下さい、お願いします!」


 声を振り絞り蘭丸に頭を下げる。


 蘭丸がレギュラーでメインを務める番組が新しく決まり、来週はその打ち合わせが入っていた。

 その番組のエンディングテーマ曲を春歌が担当する事になり、蘭丸から貰った意見を取り入れたつもりが、どうやら彼の思惑とはズレた物が出来上がるらしい。

 なぜなら、これで5回目だ。

 もう5回も、春歌は蘭丸に譜面を提出し、その度に怒鳴られ、やり直しを言い渡されていた。



 蘭丸と共に仕事をするのはこれが初めてではない。既に数回仕事を共にし、遠まわしに誉めてくれた事もあった。ぶっきらぼうながらも少なからず認めてくれたのか、先輩らしい気遣いの台詞も出るようになった。多少の雑談に合わせてくれるようにもなっていた。



 しかし、今回のこの仕事では一向に蘭丸のOKが貰えず、春歌は精神的にもかなり参っていた。

 蘭丸先輩に認めてほしい。彼の、他人を寄せ付けないとげとげしい態度の裏の優しい人間性にもなんとなく気付き始めていた春歌は、仕事以上に、自分という存在を認めてほしいという気持ちを持つようになっていた。



 暫くの沈黙の後、静寂を破ったのは隣でずっと見ていた真斗だった。

 彼もこの番組に、蘭丸同様メイン出演が決まっていた為、打ち合わせにも当然参加する事になっている。

「黒崎さん、俺からもお願いします。七海は必ず良い曲を作り上げてくれる筈です。今までもそうでした。その辺りは黒崎さんも、十分判っておられると思いますが・・・・。どうか、〆切りまでまだありますし、お願いします。」


 春歌と同じように頭を下げて先輩に頼み込んでくれる真斗の優しさに、春歌は堪えていた涙を一筋、零してしまった。床に落ちたそのほんの一滴を、蘭丸は見逃さない。

 「・・・ッチ、だから女はイヤなんだよ。泣けば済むと思ってやがって。いいか、コレは仕事だ。プロに男も女も年齢も経験も関係無ぇ。プロで有る以上、ベストなモンが出せて当然だ! 甘ったれてんじゃねーぞ。」

 2人は頭を深く垂れたまま、蘭丸の怒声を聞いている。

 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・次に下らねえ曲持ってきたら、てめ外すからな。」


 それだけ言い残し、蘭丸は部屋を出て行った。


 ヘナヘナとその場に座り込んだ春歌を気遣い、真斗がそっと肩を抱くようにしながら慰める。

 
 「大丈夫か・・・・。黒崎さんはああいう方だから、本当に気に入らなければ口すら利いてくれまい。次はきっと納得して下さる。・・・・しかし、この前から、ちゃんと黒崎さんの言う通りに作ってあると思うのだがな・・・・。」


 最後、もそもそと言葉を濁すように小声で呟いた真斗は、気持ちを切り替えるように明るく言った。


 「何にせよ、俺はこの曲を気に入っている。少し直せば格段に良くなると思う。自信を持つんだ。」

 
 「真斗君・・・ありがとうございます・・・真斗君にまで頭を下げさせてしまって、申し訳ありませんでした。」


 「何を言っているのだ。俺たちは仲間だろう。俺も、お前の曲で行きたいのだから、お前が気に病む必要は無い。・・・頑張って、黒崎さんを納得させる曲を作らねばな。お前なら出来る、信じているぞ。」

 優しく笑う真斗の温かさにほっとし、春歌は楽譜を拾い上げる。真斗は時計を一瞥し春歌に言った。


 「七海、そろそろ支度をしないと約束に遅れてしまうぞ。辛いだろうが、気分を切り替えて楽しんだ方が、きっと曲も良いものになると思うぞ。」

 
 「あっ、そうですね。今お支度しますね!」


 今日は、街で大きな花火大会が催される。

 久々に学園時代の仲間が夜は皆オフで揃うので、一緒に花火見物をしようという事になっていた。


 デビュウ間もなくマスターコースに進み、なんとか先輩とも上手くやれるようになり。だがまだまだ新人の域を出ず気の休まる時の少ない彼らにとって、共に学園時代を過ごした仲間との、久々の楽しみな逢瀬。


 少し前に、実は帯があまり上手く結べないので、浴衣の着用を迷っていると真斗に言うと、着つけは得意だからと手伝いを申し出てくれたのだ。今日は打ち合わせに来る時に既に、浴衣を持参して来ていた。

 「七海、ではお前はコチラの部屋で支度をしろ。俺はリビングで支度をしている。帯を結ぶ段階になったら来てほしい。」


 「判りました。有難うございます。」

 真斗に促されてベッドルームへ移動し、手早く準備を始めた。軽く化粧をし、髪を整える。浴衣用の小さなバックに荷物も移し替えた。次第に、怒られて沈んでいた気持ちが晴れて行く。

 少し恥ずかしく思いながら、浴衣の前を合わせ帯を持ってリビングへ行くと、真斗が既に支度を終えソファでくつろいでいた。

 「ふむ、中々良い柄ではないか。似合っているぞ。さ、帯を寄越せ、結んでやる。」

 「あ、ありがとうございます。」

 誉められて嬉しくなり、少しはにかんだ春歌が真斗に帯を手渡す。少し凝った結び方にしてやろうと楽しげに言いながら、真斗は慣れた手つきで仕上げて行く。

 密着状態に顔を真っ赤にしている春歌を気にもせず、もうすぐ終わりだからじっとしてと真斗が言った時、突然部屋のドアが開いた。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何、してんだ。」

 「黒崎さん! ・・・あ、これから神宮寺や四ノ宮、学園時代の皆と花火を見に行くのですが、七海が、浴衣の帯を結べないので俺が手伝っ」

 「あ?」

 真斗が言い終わらないうちに、蘭丸の眉がピクリと動き、不機嫌そうな声が春歌を射抜いた。

 
 「・・・・・花火とか抜かしてる場合じゃねえだろ。大概にしろよてめぇ・・・・。おい真斗!」

 「はい。」

 
 「一人で行って来い。コイツは置いて行け。」

 
 「え、しかし・・・。」

 
 「下らねえ曲持ってきて花火だぁ? ふざけんじゃねーぞバカ女が! 真斗、さっさと行け。てめーも番組外されてえか? 自分じゃロクに何もできねーのに、言う通りにもできねーヤツぁ要らねえんだがな?」

 

 有無を言わさない蘭丸の迫力を受けて、春歌を見る真斗の目が、ごめんと謝っていた。 

 春歌も小さく頷いてそれに応える。自分のせいで、これ以上真斗に迷惑をかける訳にはいかない。

 真斗が出て行き、蘭丸と2人きりになった部屋でぎりっと睨みつけられて、春歌は身体が竦み、夏なのに冷や汗が出た気がした。

 「満足に曲も書けねぇクセに、男たぶらかすのは一人前ってか。イイ根性してやがんなぁ?」

 いつの間にか目の前に立っていた蘭丸の威圧感に圧倒されながらも、春歌は誤解を解こうと、結びかけの帯もそのままに必死で訴えた。


 「違います、あの、本当に帯が結べなくて、ソレを結んで貰っていただけなんです・・・!」

 「何が違う。てめ本物のバカか。浴衣なんざひんむきゃすぐだろうが・・・・アイツに何させてやがったっ・・・!?」

 「きゃっ!」


 蘭丸が帯に手を掛ける。

 力任せに引っ張った帯が崩れたと一緒に、春歌の身体もバランスを失う。テーブルに仰向けに押しつけられ、春歌は焦った。

 蘭丸が片手で春歌の両手首を抑えつけ、見降ろしていた。心臓が跳ねる。その時、肌蹴た胸元を大きく開かれた。下着をつけておらず露わになった乳房に蘭丸が齧り付く。



 「あっ、や、やだあ先輩っ・・ひゃあああ!」

 「おい淫乱。何もしてねぇのにこんなになんのかよ。ウソついてんじゃねえぞ。」

 固く尖った胸の先端を指で強く扱かれ、春歌は堪らず身を捩りながら声をあげた。反対側の突起は甘く噛まれ、状況を理解しないうちに頭の芯がぼんやりしていくのを止める術が見つからない。それでも条件反射なのか、女として潜在意識で感じる危機感で抵抗する。


 「イヤっ、イヤです先輩、やめて下さいっ・・いやあ・・・っ、キャアっ!」


 ぱんっ! と頬を張られ、手足をばたつかせていた春歌の動きが止まった。

 何が起こったのか理解できない。頬がほんの少しだけ、痛い。呆然とする春歌に、蘭丸が再び伸し掛かる。

 
 「痛い目みたくなかったら大人しくしてろ。今のは手加減したからそう痛かねぇだろうが、次は判んねぇぞ。」


 驚きと微かな痛みに感情を止められた春歌は、動く事が出来なかった。それを肯定と受け取ったのか、蘭丸が唇を重ねてくる。


 「・・・・・・・・・そうだ、イイ子にしてろ・・・。」

 掠れた声で春歌の唇を割り、舌を絡め取り吸い上げる。、さっきよりも優しく胸の天辺を摘みながら、徐々に舌を移動させる。耳朶も首筋も蘭丸に味見されていく。


 彼の掌が春歌の体中を撫で回す。首筋や耳にしつこくキスをされ、春歌はすっかり抵抗する気が融けていた。

 初めてのキスだというのに、初めての経験だというのに、好きな男であれ、相手の気持ちも判らずこんな状況で一方的に進められる事に複雑な気持ちになりながらも、次第に自分の声も甘くなっていく。

 突然、一番敏感な部分に指を入れられた。誰にも触れられた事の無い、初めての刺激に春歌の体がのけ反る。

 「あああっ!」

 「っんだよ・・・ヌルヌルじゃねーか・・・・おらっ。」

 ぐるっと体をうつ伏せにされ、腰をぐっと引き寄せられて掴まれた。机に押し付けられ潰れた乳房と逆に、下半身だけ妙に浮いたように思えた。

 

 「っえ・・・・?」


 戸惑う春歌の声など聞こえないかのように、蘭丸は自身の先端で彼女の入り口を軽く擦り、迷い無く一気に貫いた。

 「キャアアア―――――――!!」

 あまりの痛みに、春歌は気絶しそうな声をあげて体全体を突っ張らせた。しかし蘭丸はお構いなしに、後ろから激しく春歌を追いたてる。まるで、捕まえた獲物を逃がさないよう急所に喰らい付く獣のように。

 されるがままに蘭丸に穿たれ、春歌はただただ、痛みに耐えながら蘭丸の動きに合わせ、啼くしか出来ずにいた。
 テーブルに縋りつくようにして尻を突き出さされ、つま先立ちながら蘭丸を受け入れている春歌をどう見ているのか、蘭丸は物も言わず激しく腰を打ち続ける。

 
 春歌にとっては、その激しさが痛くて堪らない。自分の身に何が起こっているのか判らない。ただ、好きだと思っていた相手が、突然男という性の部分だけを自分に突き付け、襲いかかって自分を切り裂いている。想像を絶する痛みが酷い。

 暫く声にならない声を上げ続けていたが、漸く言葉を発せるようになり、春歌は必死で蘭丸に伝えようとする。


 「いた・・・・い・・・や、めて・・・せんぱ・・・おねが・・・!」


 揺さぶられながら途切れる言葉を必死で紡ぐ。



 「あんなに濡らしといて痛ぇも何もねぇだろ。どスケベが。」

 春歌の言葉などモノともせず、後ろからがっしりと彼女の腰を掴み、反対の手を好き勝手に這わせながら蘭丸が言った。しかしそのすぐ後、ふと蘭丸の動きが弱まった。


 「・・・・・お、まえ・・・・。」

 

 「・・・・・・・・・・・・?」


 あまりの衝撃で痛いだけだったものが、蘭丸が動きを止めた途端、はっきりと自分の中で彼の形や大きさを感じ取れた。春歌はその事で、体中の温度が一瞬にして上がった気がした。

 こんな悦びが存在するのか。淫靡で卑猥な、だが純粋に愛する者が欲してくれる悦び。生まれて初め知る快感に、さっきからの痛みが少し引く。


 「オイ、まさか・・・初めてか・・・?」

 何故か狼狽しているような声が不思議だと思いながら、回らない頭で春歌が頷いた。すると蘭丸が後ろから顔を寄せ、耳元で質問する。彼の熱を孕んだ吐息に春歌は震えた。

 「・・・・真斗とあんなコトしといて、つきあって無えってのか。」


 「・・・? は、はい・・・。つきあうなんて・・・誰とも・・・。」


 思ってもみなかった蘭丸の問いに驚き、答える。引いたように思えて相変わらず痛みは壮絶ではあるが、激しく突き動かされてない分、幾らか楽だった

 不意に、瞼にふんわりとキスをされた。そのまま頬に、髪に、キスの雨が降り出す。さっきまで首筋などに受けていた、噛み殺されそうなソレとは全く違う、雪が舞うような優しいキスだった。

 突然の変化に、振り返って肩越しに蘭丸の顔を見た春歌の目を捉え、

「まぁイイ。てめーはもう、俺が好きにしてイイ女だってコトだけ覚えとけ・・・逃げ出したら承知しねえぞ。」



 吐き捨てるように言って春歌の唇に噛みつき、そのまま先程と同じように激しく腰を打ちつける。

 「あっ、ああっ、ああああん。」

 「なんだてめ、さっきと声が変わったな・・・。初めてのクセにもう良くなってんのか・・・もっと啼け。こうしてやっから。」

 春歌は一瞬変わった蘭丸の何かが判らないまま、言われた言葉の真意に疑問を持つ間も持たないまま、片脚を持ち上げられ更に奥深くに蘭丸のモノを埋められ、忘我に跳んだ。



 「・・・・っ、中に出すぞ・・・ッ。どうせだ、孕んじまえよ。」


 拒む言葉も口にできないまま、自分の中に蘭丸の放った熱い欲が拡がり染みて行くのを放心状態で受け止めていた。



 

 
 緊張が解けたのだろう。そして、破瓜の痛みが壮絶だったのだろう。

 春歌は、脚の間を垂れて流れる蘭丸の白濁と自分の鮮血に気を遣う余裕も無く、ぐったりと床に座り込んだ。そのままソファ近くまで引き摺られ、蘭丸に抱きしめられて少し経つと、眠ってしまった。

 蘭丸は、暫くソファを背もたれにして眠る春歌を抱きしめ自分もぼんやりしていたが、やがて彼女を抱き上げてベッドに運んだ。

 
 ベッドに寝かせた柔らかな体にまた寄り添い、腕枕をして顔を見つめてやっても、同室のレンと真斗に、「今日はレイジに泊めてもらえ。帰って来たらぶっ殺す」 と短いメールを送ってる間も、春歌は目を覚まさない。


 眠る彼女の頬に何か付いてると思った。蘭丸が指でそれをなぞる。涙の跡だった。自分が怒鳴りつけた時のものか、それとも、汚し傷つけた時のものか、少し思案する。

 「俺はな、人なんざ信じねぇ。もう決めたんだ。お前の事だって、信じてるワケじゃねえ。」


 低い声で呟く。


 「ただ、お前は俺の好きにする。俺以外のヤツに、お前を好き勝手させねえ。」

 そして、今日春歌が持ってきた譜面を思い出して口ずさむ。途中で軽く舌打ちをし、春歌の耳を引っ張り、言った。

 「・・・・信じちゃいねえけどな、信じちゃいねえが、お前の能力はあんなモンじゃねぇ・・。もっと行けるだろが。後少しで、俺の言ってる通りの音だ。直してこいよ。」


 そっと髪を撫でる。自分の横で眠る裸の女の髪を撫でるなど、想像もした事がない。


 「・・・・・俺を放って寝てんじゃねぇよ・・・・聞けよ、バカ女・・・・。」

 眠る春歌の肩口に強く吸いつき紅い跡を残すと、蘭丸は少し満足気に微笑んだ。そしてそのまま彼女を腕に掻き抱き、いつ以来か判らない甘さが胸を占めていく感覚の中、眠りについた。



 

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FireWorks 2

 
 初めてをあんなカタチで奪われた日から、何度抱かれたのだろう。

 あの日。
 夜中にふと目が覚めると、蘭丸の首筋が目の前にあって春歌は驚いた。静かに寝息をたて自分を腕に抱き眠る蘭丸の、規則正しく動く鎖骨の辺りを何とはなしに見詰めていた。

 見詰めながら、数時間前に自分の身に起きた色々なことを思い返す。記憶を辿るうちに汚れた身体が哀しくて恥ずかしくて、無性にシャワーを浴びたくなって、そっと蘭丸の腕を抜け出したつもりが、起こしてしまった。
 
 「・・・・・・・・ん? 春歌・・・?」

 「あっ・・・・。」

 億劫そうに眼を開け、ほんの少し身じろいだ後、蘭丸は勢い良く起き上って春歌の腕を強く掴んだ。

 「おい!」

 「きゃっ。」

 自分の勢いに驚いた彼女の顔を見て、

 「あ・・・・あ、ああ、なんだ、ああトイレか? すまねぇ・・・。」

 「・・・えっと、・・・・あ、の、シャワーを、お借りしてもイイですか・・・?」

 「シャワー・・・・。」

 起きたばかりで、まだ頭がうまく働かないのか、蘭丸は腕を離そうともせず、答えようともしない。

 「・・・・あー・・・俺も風呂入りてぇな・・・。ちっと待ってろ。」

 「は?」

 ようやく聞けた返事が想定外の言葉で、思わず間抜けに聞き返す。

 「うるせ、待ってろ。動くな、動いたらぶっ殺す。」

 そう言って部屋を出て行く蘭丸を、春歌は結局ベッドの上で見ているしかなかった。
ほどなくして、ミネラルウォーター片手に戻って来た彼が、春歌の隣に腰掛ける。

 (私もお水欲しいなって、言おうかな・・) と思ううちに彼はペットボトルを呷り、2度目に呷った後、そのまま春歌に口づけた。
 
 ただのひんやりした水が妙に甘いなんて。
 口移しでそっと流し込まれる水を飲み込む。

 「・・・っ・・・ん・・・もっとか・・・?」
 「・・・はい。」
 
 もう一度、蘭丸が同じように水を飲ませてくれた。甘くて柔らかで、酔いそうに蕩けそうな行為。
 水を飲み終わった後も、蘭丸の掌は春歌の頬に置かれたままで、お互いの瞳の中にお互いを映しながら、軽く唇を触れさせ合い続けた。

 どのくらい、そうしていたのか。

 「あ、やべ、風呂・・・。」
 
 蘭丸が唐突に呟く。そのまま、春歌は突然横抱きに抱えられた。

 「え? ええっ?」
 
 「バカ暴れるな、重てぇ。」
 
 低い声で制されて、思わず落とされる可能性に怯え蘭丸の首に腕を回した春歌を気にしてないのか、蘭丸はそのままバスルームへ行き、シャワーのコックを捻る。

 「あ、あの、蘭丸先輩、あの。」

 「うるせえ、黙れ。洗ってやる。ゴチャゴチャ言うな。」

 ざあっと熱めのお湯を掛けられ、きつい調子で蘭丸に言われ、春歌はそのまま立ち尽くし黙るしか無かった。
 蘭丸は、掌で泡立てたボディソープを、春歌の身体に乗せていく。くすぐったくて恥ずかしい。春歌は身体をこわばらせながら、蘭丸の柔らかい掌を黙って受け入れていた。
 
 「おい。」

 「はい!」

 緊張で、声が裏返ってしまう。

 「脚広げろ、洗えねえだろが。」

 「えっ? ええっ! あ、そそそ、そんなトコ、自分で洗いますからっ! も、もういいですっ、蘭丸先輩、自分のコトして下さいっ。私、自分で洗えます!」

 「あぁ? うるせ。俺がやってやるっつってんのに何言ってんだてめ。」
 
 「あ、で、でも・・・。」

 いつもの調子で言い放つ蘭丸に、春歌の身が怯む。恥ずかしさから逃げ出したい気持ちが押し寄せる。

 「血が・・・出てたじゃねえかよ・・・。一応拭いたけどよ・・・ちゃんと、洗ってやっからよ・・・。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・先輩・・・。」

 そうか、と春歌は思った。
 あの時、一瞬だけ蘭丸の態度が変わったように思えたのは、初めてだとバレたからだったのかと。気遣ってくれていたのかと。


 蘭丸は、何も言わずに春歌の太股の内側を優しく洗い始める。春歌も、それを拒まずに大人しくしていた。

 「痛かったか?」

 蘭丸が、決まり悪そうにぽつりと尋ねたたった一言が、春歌にとってこの上無い安堵を齎した。一方的に乱暴を働かれたと思って悲しみさえ感じていた気持ちが、救われたような気になる。

 彼が、自分をいたわってくれている。その言葉が、春歌の、喪失した事による虚無感を取り去った。やはりこの人は、自分が感じていた通り、優しい人だったのだと。

 「はい・・・・。」

 「そう、か。」

 春歌と目を合わせないようにしていた蘭丸が、同じく自分と目を合わせないよう俯いていた春歌の顔を覗き込む。そしてそっと、彼女の頬にキスをした。

 そのまま春歌を抱き寄せ、今度は唇を合わせる。蘭丸の肉厚な舌が春歌の小さな舌を巻き込むようになぞる。石鹸の泡で滑らかな蘭丸の手が、春歌の身体を包み、その心地よさに彼女の思考が溶ける。そして溶け切らないうちに、春歌は自分の下腹部に、固いモノが押しつけられていると気付いた。

 言葉も無いまま、お互い早い鼓動を持て余しながら、シャワーを浴びる。間を置かず軽いキスを交わし続ける。どこまでもいつまでも、それだけで時間を重ねるような、2人だけの世界で紡がれる口づけ。

 すっかり身体中の泡が流れ落ち、気付けば2人共強く相手の背に手を回していた。シャワーをいつ止めたのかすら判らない。お互いが夢中になり、2人して強く欲し合っている。

 「・・・挿れさせろ。もう、痛くしねぇから・・・。」

 突然耳元で囁かれた言葉に、春歌は背筋が戦慄いた。
 その背筋を壁にぐっと押しつけられ、片脚を大きく持ち上げられ、身体の真ん中に蘭丸が侵入してきた。もうほとんど半分、春歌の体は浮いてるような、壁と蘭丸に挟まれているお陰で、立った姿勢を保っているようなものだった。

 「あ、あっ・・・。」

 「はぁっ、動くな・・・てめぇも、欲しいだろ・・?。」

 「っ! んんぁあああああああ。」

 狭い膣口を無理矢理押し広げるようにして、蘭丸の欲情が押し込められる。

 「はああああん、っんんん!!!」

 凶暴な快感が、蘭丸が進む度に下腹部から全身を駆け巡る。強烈な墜落にこの上ない興奮と甘すぎる猛毒性を感じ、春歌はコントロールの出来ない声を上げる。  

 「ああんっ、先輩っ 蘭丸先輩っ、あああん、はああん。」

 一度目の時とは明らかに違う目まぐるしい快感。首筋を強く吸われ、自分がどこに立っているのかさえ判らなくなる。

 乱暴に胸を鷲掴まれ、顔中を構わず舐め回される。首も肩も甘噛みされる。堪らなく気持ちがイイ。

 「春歌・・・春歌っ・・・。」

 もっと。もっと奥に。
 そう叫ぶかのように、春歌の体を壁に押し付け、自身をこじ入れようとする力に男を感じ取り、春歌は快感で震える。

 ずっと好きだと思っていた男。その男に無理矢理犯され、自分の気持ちがどうなのかすら曖昧になっていた春歌だったが、今、再度認識した。

 嬉しいのだ。
 自分をこんなにも求めてくれる蘭丸の激しさが。この男の頭の中が、今自分と繋がっている事実から産まれる快楽で満たされているかと思うと、堪らなく嬉しいのだ。
 毒までも甘露に変えそうな蘭丸の熱い吐息に酔い、2人して同じ快感に溺れる怠惰が嬉しくて仕方が無い。このまま蘭丸のモノとなり、蘭丸の欲望を叶える為だけに存在してもイイ。自己すら放棄しても構わない艶めいた猛毒に塗れて果てたい。


 「・・・中に、出すぞっ・・・。」
 
 「あっ、そんな・・・中はっ・・・だ、め・・はぁっ。」

 僅かに残る理性が、無意識に抵抗の言葉を吐く。

 「さっき中出ししてんのに、今更だろ。てめーのこん中、俺のザーメンだらけにしてぇんだよ・・・お前をめちゃくちゃに汚して、俺だけのモンにしてぇんだ・・・!」

 蘭丸の、欲望を剥き出しにした言葉にゾクゾクと何かが身体中を疾走する。

 「だめぇ、だめです先ぱ・・・あああっ、やぁああん。」

 「っは、あ・・・ダメじゃねぇんだよっ・・・はぁ・・・春歌、俺の、モンだっ!」

 「あああっ、あん、あああん、中はっ、ダメぇえ!」

 春歌の要求は完全に無視され、蘭丸の精液はどくどくと彼女の膣内に放出された。びくびくと震える先端から勢いよく溢れ出る精液の熱さに理性を破壊された一瞬に、春歌は至福を知った。



 「あ・・・ひどい、です・・・先輩・・・。」

 今にも崩れ落ちそうな下半身を必死で支え、息をつきながら、春歌は朦朧と呟いた。

 「中で、なんて・・・赤ちゃんが、できちゃう・・・。」

 「あ?」

 春歌の言葉に、蘭丸は、まるで不思議な話を聞いたかのようにきょとんと訝しげな反応をした。どちらも荒い息で、縋りつく様に抱き合ったままだった。

 「いいだろ別に。」

 「・・・・・・ハイ?」

 思いがけず何でもない事のように言う蘭丸の真意を知りたくて、春歌は問いかけようとする。動いた拍子に蘭丸のモノが体から抜け出た。
 
 栓を失った膣から、熱くとろりとした液体が流れた。内股を伝い落ちるそれに気付き、春歌は思わず声をあげる。
 
 「あっ・・・・。」

 春歌は、蘭丸の腕をすり抜けた。力の入らない足で、1歩進む。
 
 「・・・?」

 「あ、ごめんなさい。でも、くっついてたら先輩が汚れちゃうから・・・。」

 言いながら春歌は座り込み、湯船のお湯をくんだ。垂れ落ちて来た精液に汚れる自分の太股に湯をかける。それを見ていた蘭丸が、所在を失くして浴槽を跨ぐ。

 「・・・出来たら育てりゃイイだろうが。」

 「・・・・。」


 世間話の調子で話しながら湯船に入る蘭丸を、春歌は仰ぎ見た。呆気に取られた様子の彼女を、彼は引っ張り一緒に浴槽に引き摺り入れる。

 「っかぁー・・・夏でもやっぱ湯に浸かると気分イイな。・・・なんだお前、もうのぼせたのか、顔が赤いぞ。」

 「え、ちが、あの、だって、育てるって。あの・・・どういう、意味ですか、育てるって・・・?」

 春歌は、頭の片隅を掠める期待と、まさかそんなという否定に振り回されていた。
 何をどう聞いたら、自分が納得する答えが貰えるだろうか。まだ快感の支配から抜け切れて無い頭を必死で働かせる。

 「あぁ? そのままの意味だろ。バカか。下らねえコト聞くんじゃねぇよてめーは。ガキが出来りゃ、飯食わせたり、言葉覚えさせたりすんだよ。」

 「・・・・・それ、って・・・・。」

 これは、まさか、ひょっとするとひょっとして、もしやプロポーズなのかと、頭の中がぐるぐる廻る。ちゃぷちゃぷと音を立てるお湯の波が、そんな考えを囃し立てている。

 「あ~でも、てめーが全部やれよ? そういうのは女の仕事だろ。俺ぁ稼ぐ方で手一杯だからな。」

 「あの・・・・。」

 「んだよ?」

 「結婚、してくれる、ってコト、で、す、か・・・?」

 「―――――――――――っ。」

 蘭丸の動きが止まる。

 「ばっ、バカかてめぇ何言ってんだ? 俺はな、ガキが出来たら育てるのが当たり前だろって言ってんだよ! それだけだ、それだけだぞ!」
 
 明らかに照れて慌てている蘭丸に、春歌は思わず笑ってしまっていた。蘭丸に背を向けていて良かったと思う。笑ったりしたら、きっとまた悪態をつかれるに違いない。

 「それだけって・・・だって、赤ちゃんを育てるって、そういうことじゃないんですか?」

 「あ? うるせぇよバカ女。・・・ま、まだ起きたばっかで頭がまともに動いてねーんだよ・・・。まぁ、なんだ、とにかくな、出来ちまったら俺は、責任ぐらいは取ってやるって言ってんだよ、そんだけのコトだ。ゴチャゴチャ言ってんなよ。」

 さっきまで無我夢中で肉欲に溺れていたというのに、今のこの日和見な会話のおかしい事と言ったらなかった。
 
 何をどう歯車が狂ったのか、自分でもわからない程の急展開で日常会話を交わしている現実がおかしいと、2人して苦笑した。

 しかしだからこそ、後ろから自分を抱きかかえる腕の優しさに、春歌は、蘭丸が確かに自分を好いてくれているのだとしみじみ思った。
 
(なんだか夢みたい。幸せ・・・嬉しい・・・)

 のぼせそうなのはきっとお湯のせいじゃない。蘭丸の思いのせいだと、彼女は確信できた。
 
 それは当然、そんな気持ちを溢れさせている女を腕に囲っている蘭丸の方も同じで、春歌が自分を好いていてくれていると。自分があんな事をしたのは嫉妬だったのだと、ひしひしと感じていたのだった。


 
 あれから、2カ月ほど経った。
 
 はっきりと好きだという告白を受けた事は無いが、彼の日々の言動は、端々で彼の気持ちを代弁していたので、春歌は愛情を感じ取れており、自身も蘭丸への気持ちを深め続けていた。

 幸い(?)、初めての夜に膣内で射精された結果は何事もなく月のものを迎え、それ以来、蘭丸は暴走に任せて中に出すようなことはしなくなっていた。

 甘い言葉を囁いてはくれないが、体を繋げる前より確実に優しくなった蘭丸に、彼女も応えていった。
 
 時間も休日も不規則な仕事はお互い様だ。
 あれから、時間の許す時は、蘭丸は春歌の部屋で過ごすようになっていた。

 元々、蘭丸は口数が多い方では無い。春歌もその辺りは判っているので、並んでソファに座り、お茶を飲みながら音楽を聴いたり、同じ事務所のタレントの出演番組をチェックをしたり、曲を一緒に作ったりなど、仕事の隣のような事をして過ごして居ても、充分に満たされた。

 会える時間が少ないせいか、蘭丸は会うと必ず春歌を求めた。

 何気なくキスをしていても、すぐにそれは深いものになる。熱っぽい目で蘭丸に見つめられると、春歌もそれだけで下腹がきゅうっとしてしまうようになった。
 今日も、夕飯を済ませて少し経った頃、蘭丸が徐に春歌を膝に乗せた。

 「ヤラせろよ。」

 服を捲りあげられ、ブラジャーをずらされる。止める間もなく、顔を出した春歌の乳首を蘭丸が軽く舐める。
 
 「あ、そん、な。」

 「うるせー・・・俺の女で居る気なら、口ごたえすんじゃねぇ・・・。」

 「あ、んんっ・・・・先輩、好きです・・・。」

 「暗い方がイイなら、ベッドまで運んでやるぜ?」

 頷いた春歌を蘭丸はベッドまで運ぶ。シーツに沈んだ体に覆い被さられる。

 「明日、仕事が、んんっ!」

 「バカか。仕事は仕事で行きゃいいんだよ・・・・。」

 
 春歌はこの上なく幸せだった。何もかもがうまくいくような気持ちで、求めあって眠りについた。




 

FireWorks 3

 

 翌日。
 
 前の晩に激しく蘭丸に抱かれたせいで、春歌はぼんやりした体調で仕事へ向かった。蘭丸と真斗が出演する音楽番組は無事にスタートし、春歌の手掛けた曲も評判が良かった。
 
 そのお陰か、新しく大きな仕事が舞い込んできた。その打ち合わせで、春歌はスタジオにやってきていた。恙無く仕事が進み解散となり、春歌は懐かしい顔に話し掛ける。

 「一ノ瀬さん!」
 
 「久しぶりですね、元気でしたか。私から声をかけようと思っていました。」

 新しい仕事となるドラマの出演者の中には、学園時代の友人であり、現時点で一番の出世頭とも言えるトキヤが名前を連ねていた。
 笑顔を返してくれる彼に、心が弾む。

 「お久しぶりです。一ノ瀬さん、すごいです、準主役じゃないですか、おめでとうございます。」

 「ああ、君にそう言って貰えると本当に嬉しいですね。でも、まだまだ喜ぶのは早いですから。放送終了までは、喜ぶのは置いといて、努力するのみです。」

 「ふふっ、一ノ瀬さんは相変わらずですね。一ノ瀬さんらしいです。」

 春歌がそう言った時、

 「七海!!」

 後ろからいきなり抱きつかれ、つんのめった。

 「あ、ごめんごめん、大丈夫? ちょっと勢いつきすぎちゃったみたい、ごめんね。でもさ、久しぶりだね~、俺、君と一緒の仕事って聞いて、すっごい楽しみにしてたんだよ、今日!」

 「音也、なんです。彼女がびっくりしているでしょう。今すぐ離れなさい。仕事場なのですよココは。学園では無いのです。全く、いつまでたってもバカですね。」

 「もー! うるさいなトキヤは。久しぶりに会えたんだよ~? いいじゃない、ねぇ?」

 「音也くん・・・。ふふっ、うん。私も久しぶりに音也くんに会えて嬉しいです。音也君も、とても重要な役に選ばれて、すごいです!」

 「ありがと~。そうなんだよね~! でも、おめでとうって言ってくれるの、君だけなんだよぅ。あ~も~ほんっと可愛いなぁ七海は!」

 「君がそうやって音也を甘やかすから・・・まったく・・・とにかく!! 離れなさいと言っているでしょう、いつまでそうやっているんですか。本当にバカですね。ふざけていて、折角頂いた役を外されても知りませんよ。」

 (心がくすぐったい感じ・・・)

 1年間、辛い事も楽しい事も一緒に乗り越えて来た間柄との、久しぶりの他愛ない会話は、春歌の心を温かくさせた。夏に約束していた花火大会を、あの出来事で欠席した春歌にとって、本当に久しぶりの再会だった。

 「結構、君を見かけたりはするんだけどね。でも、移動中で忙しかったりして、声も掛けられないことばっかでさ。マスターコース行ったら寮も変わっちゃったから、ほんと、七海に会えないのが寂しいんだよ。」

 「あ、私も音也くんを見かけたりしてましたよ。私も、お仕事の方と一緒に居ると、離れた所を歩く音也くんに声を掛けられなくて・・・。一ノ瀬さんなんて、大物俳優さんとお話してるトコとかお見かけして、すごいなあって思ってました。」

 「そうでしたか。君なら、話しかけてきて下さって構いませんよ。」

 「何言ってんだよトキヤ! ねぇトキヤはどうでもイイからさ、今度からは遠慮せずに声掛けてよ。俺、君と話したくて仕方なかったんだ。花火だって来なかったし、メールじゃ、やっぱ全然足りないよ。」

 ―――――花火だって来なかったし。
 音也の言葉が、チクリと春歌の胸を刺す。

 あの日、蘭丸と浴槽でお湯に揺られながら、幸せで満ち足りていたあの時。朝になり、寮まで送ってくれた蘭丸と別れ、自分の部屋のベッドにどっと倒れ込んだ春歌は携帯を開いて息を詰めた。

 音也から、メールと、着信が幾つか届いていた。
 最後のメールは、深夜。丁度、蘭丸の腕に抱かれて、ぐっすり眠っていた頃だ。
 
 なんとなく以前から音也の気持ちに気付いていた春歌は、心配し、会いたかったと書き連ねてあるその文面に一瞬返事を迷ったのだが、突然約束をキャンセルし、真斗1人を向かわせた事については申し訳なく思っていた。
 
 なので、自分が現れる事を期待していたであろう音也にも、謝りたい気持ちはあった。
 蘭丸と心が通じ合った直後で、他の異性とメールのやり取りをするのが聊か気分的に憚られたが、いや、異性とは言え友達なのだから。そう思い、謝罪の返事を送った。

 もう2カ月も前の事を持ち出され、春歌は少し戸惑ったが、音也は何事もなく、屈託のない笑顔で話し続ける。

 「ねぇねぇ、俺、収録は前半だけで終わりっぽいんだ。重要な役って言っても回想シーンが多いみたいだから、俺の収録はパ~っと終わっちゃうらしいんだよね。だからさ、君の時間が合ったら一緒に遊びに・・・。」

 突然音也の声が耳元から遠ざかり、春歌は振り返る。
 
 「黒崎先輩。こんにちは、お疲れ様です。」

 間髪入れず、礼儀正しいトキヤの声がする。首根っこを掴まれ顔を顰める音也を睨みつけながら、蘭丸が、春歌の後ろに立っていた。

 「蘭丸先輩・・・え、どうしてココに・・・。」

 驚いて浮かべた疑問を忽ち掻き消す蘭丸の鋭い目に、春歌はたじろぐ。

 「痛ててっ・・・黒崎先輩、痛いん、ですけど・・・。」

 「・・・殺すぞクソガキ。何してやがんだてめぇ。・・・おい一ノ瀬、レイジはてめーらにこんな教育してやがんのか? 仕事場で女にベタベタ触ってろって? あん?」

 「申し訳ありません黒崎先輩。この男は普通より少し理解力が劣っていまして。音也、黒崎先輩にご挨拶もせずに何をしてるんです。」

 「何っ・・・て、黒崎先輩が離してくれな・・・うわっ。」
 
 思い切り投げ飛ばされ、音也が床に尻もちをつく。

 「・・・春歌、この仕事が終わったらコッチ来い。2スタだ。変更が出た。」

 「あ、はい今一緒に。」

 「ああ、あそこの、音楽の担当責任者が、お前に説明資料を渡すんだとよ。ソレ終わったら来い。」

 淡々と仕事の予定を伝えているように見えて、実は相当蘭丸が頭に来ているのが、今の春歌には明確に判る。
 何故彼がこんなに声に怒りを潜ませているのか判る。そして、それに少し怯えながら喜んでいる自分を、幸せだと思いながら責める。
 
 「わかったな。」

 「はい、2スタですね。資料を貰ったらすぐに行きます。」

 ぺこりと頭を下げ、返事をする。
 蘭丸はそんな春歌を一瞥し、去り際、打った尻をさすりながら立ちあがった音也をもう一度睨みつけ、そこから出て行った。

 「痛って~・・・マジ痛いんだけど~・・・。」
 
 「自業自得ですよ、バカですね。」

 「音也くん、ごめんね、大丈夫?」

 「なんで七海が謝るのさ。大丈夫だよ。ああ痛かった。あの黒崎先輩って、ほ~んと怖いよね。七海、大丈夫? 苛められたりしてない? 」

 「え、あ、うん、そんな怖い人じゃないよ。大丈夫。優しいんですよ。」

 「うっそだぁ。いっつも怒ってるみたいだし、レイちゃんと違って挨拶もしてくれないしさ~。大体、投げ飛ばされる様なコトした覚え、ないんだけどな。」

 春歌は思わず黙った。
 
 蘭丸との交際は、周囲には内緒にしてあった。
 示し合わせたわけではないが、当然、彼の職業柄もある。それに蘭丸自身、人前でベタベタするタイプでは無く、寧ろそういうことは嫌っているようだった。

 なので春歌も、親友の友千香にさえ知らせていない。

 「私、行かなくちゃ、またね、音也くん、一ノ瀬さん。」

 「ああ、またな。」

 「お疲れ様。君も頑張って下さい。」

 手を振り、友達と別れる。春歌は急いで資料を受け取り、2スタへ走った。

 2スタでの打ち合わせは簡単な変更についてのみだったので、すぐに終わった。春歌は、帰ろうとする蘭丸に急いで駆け寄り、服の裾を引っ張った。

 「あの、先輩。」

 蘭丸は、春歌をじろりと睨みつけ、踵を返し歩き出した。春歌は不安になりながら後ろに続く。廊下の奥にある倉庫の、更に奥まで辿り着いて、蘭丸は漸く足を止め春歌を振り返った。

 「んんっ!」
 
 いきなり抱きしめられ口づけられた。唇が触れないうちに舌が先に入りこみ、春歌の舌を激しく貪る。ジュウっと音がするほど強く吸い上げられ、痛みで頭が痺れる。立っているのがやっとだった。崩れ落ちないように足を踏ん張り、蘭丸のキスを受け止める。

 「んぁ・・・はぁ・・・。」

 長い事呼吸を邪魔され、やっと解放されて、酸素の足りないぼんやりした頭を回復させる。

 「先輩・・・。」

 「春歌。」

 蘭丸の声は、意外に冷静だった。

 「触らせるな、俺以外に。絶対に。」
 
 蘭丸がどんな表情をしているのか、抱き締められている春歌には判らない。ただ、嵐のように甘いざわめきが胸を占めてゆく。嬉しい。ただ嬉しい。普段言葉にして愛を訴えない蘭丸の、紛う事無い恋心を見られた嬉しさで、涙が出そうになる。

 (どうしよう。先輩が辛い気持ちになってるのに、私、泣きそうに嬉しい・・・。)

 春歌も、ありったけの気持ちを込め、蘭丸の背を抱き返す。離れたくなかった。許される限り、ずっと抱きしめ合っていたいと心から願う。

 「先輩、ごめんなさい。」

 春歌が呟くと、蘭丸は少し落ち着いたのか、春歌の体を少し離した。

 「隙が多いんだよ、てめぇは・・・。つかあのガキ、次やったらマジ殺すぞ。」

 「音也くんは、昔からああいう風なので・・・でも、ごめんなさい。」

 「ッチ。まぁイイ。・・・・オイ、このまま泊まりで撮影に出るからよ。もしかしたら明日も帰れねぇ。お前は?」

 「あ、私は曲を作らないといけませんので、1週間位はこもりっきりです。」

 「そか。・・・帰ってきたら、お前んトコ寄るわ。んじゃ時間ねえから俺は行くけど、時間置いて出て来いよ。寄り道すんじゃねーぞ。」

 「はい、いってらっしゃい先輩。気をつけて。」

 「それと!」

 改めて春歌を見ながら、蘭丸が言った。

 「さっき言ったコト、忘れんじゃねぇぞ。俺以外に触らせるな、判ったな。」

 「ハイ!・・・大好きです、先輩。」

 にっこりと笑いかけた春歌に、バカか。と捨て台詞を残して蘭丸が出て行った。春歌は嬉しさで頬を緩ませながら少し佇んでいたが、人の気配と物音がした為、蘭丸が戻って来たのかと音がした方を見やった。

 「先輩?・・・・え。」

 

 つい、目の前に現れた人物に驚いてしまった。

 「黒崎先輩とつきあってたんだ~・・・。知らなかったな。」

 「お、と、やく、ん・・・・?」

 思いも寄らない人物の登場に春歌は固まった。先程手を振って別れた音也が、笑顔で眼の前に立っていた。
 
 まさか蘭丸とキスをしている所を見られたのでは。
 
 春歌は焦った。いやしかし、彼は同じ事務所の、しかも気心の知れた友達だ。同じ仕事をしていて事情を判っている相手で助かったのではないか。咄嗟にそこまで考える。
 
 音也が、ゆっくり春歌に近付いた。
 その距離だけ、春歌が後ずさる。先程蘭丸に言われた言葉が頭の中でこだまする。
 
 (音也くんに、触れられてはいけない。)

 無音が怖くて、口を開く。

 「どうして、こんなトコロに・・・倉庫に何か、用事?」

 話し掛ける声を無視して、音也は春歌を棚に押し付けた。

 「きゃっ、音也くん・・・!」

 「七海さ、ココ、跡がついてるよ・・・さっき抱きついた時、気付いたんだよね、首の、コ・コ。」
 
 音也の指が春歌の首筋をツツっとなぞり、鎖骨の近くで止まった。その仕草が何故か恐怖で、春歌は息を飲んだ。

 「これ、黒崎先輩がつけた跡だったんだ・・・そっか・・・全部、判ったよ・・・。」

 「何、が・・・?」

 「花火の日、あの人、レンとマサに、レイちゃんに泊めて貰えってメールしてんだよね。マサからさ、七海が黒崎さんに怒られて来れなくなったって聞いてたからさ、あのメールをレンが見せてくれた時、変だとは思ったんだよね。」

 言いながら、春歌の髪に顔を埋めるように近付く。

 「ねえ。俺、ずっと、七海のこと好きだったんだよ? 学園時代から、ずっとね。」

 「・・・・音也くん・・・。」

 「気付いてたと思うけど? 俺の気持ち。」

 音也がふざけてないことは声音で理解していた。
 だからこそ怖い。こちらも本気で回答しなければ解放されないと、春歌は怯えていた。

 「俺の気持ち、知ってたよね、七海。」

 知っていたと答えたら、それは自ら罪を認めていると思った。隠し通せるならそうしたいと思った春歌は、首を横に振る。

 「あの、ごめんなさい、私、知らなくて・・・・。」
 
 その瞬間、音也の瞳が鈍く光った。

 「知らなかった? 知らなかったの? 俺が、あんなに七海のこと好きだったのに? へぇ、じゃあ、七海は今俺の気持ち知って、どう思った? ね、聞かせてよ。」

 「どうって・・・。」

 「なんで黒崎先輩なんだよ!!」

 「!」

 突然大声を出され、春歌はびくっと体を震わせた。

 「俺は、俺はっ・・・ずっと七海が好きだったのに! 初めて会った時から、ずっと! なのに、なんであんなヤツに取られなきゃなんないんだよ、なんでだよ!」

 「音也くん、やめてそんな大きな声で・・・!」

 「ああ、大丈夫だよ。」

 「?」

 「さっき、あの人出てった時、ちゃんと鍵かけたから、俺。」

 「鍵?」

 「そ。内側からかかってるからね。開かないよ、俺たちが開けなきゃね。」
 
 春歌の脳裏を一瞬不安が掠めたが、冷静に思い直す。
 相手は、音也だ。学園時代からずっと変わらない明るい優しさと、純粋な笑顔で接し続けてくれた音也なのだ。何を心配する事があるのか。こんな不安は音也に失礼だ。そう思い、早口で窘めるように話し出す。

 「あの、音也くん、帰ろう? ・・・・ごめんなさい、私、鈍感だから、音也くんの気持ちに気付いてあげられなくって・・・ごめんね? それと、蘭丸先輩とのコトは、皆には内緒にして貰えると・・・きゃ!!」

 いきなり突き飛ばされて春歌はよろめき、そばにあった書類棚にもたれ込んだ。それを音也が上から押さえ込み、床に押し付ける。春歌は下半身を完全に抑えつけられた。

 「音也くん!」
 
 「内緒にしてほしいの? 黒崎先輩との事。」

 至近距離で見つめられ、問われ、春歌の心臓は早鐘のようになっていた。
 怖い。この感覚を、自分は知っている。これは、そう、あの2カ月前の花火の夜。あの時突然自分を犯した蘭丸とそっくりだ。

 「お、お願い音也くん、離して。」

 「俺の質問に答えてないよ。内緒にしてほしい? 君が、黒崎先輩にこんなトコロにキスマークつけられるような仲だって。バレたら、クビかもね。恋愛禁止は学園も事務所も同じだよ。ハハ、忘れちゃったの?」

 笑っているような音也が恐ろしくて、春歌は身じろぎも出来ず返事だけをする。

 「・・・・お願い、黙ってて。お願いだから、蘭丸先輩に迷惑がかかるような事はしないで!」

 「いいよ、別に。七海も、俺のお願を聞いてくれるならね。ギブアンドテイクで行こうよ、公平にさ。」

 音也が春歌の耳元に唇を近付ける。

 「今ここで裸になって、俺に、抱いてって言ってみてよ。それが出来たら、黙っててあ・げ・る。」

 「な・・!」

 思わず大声をあげそうになった春歌の目の前に、音也が切り札を翳す。

 「・・・カメラ・・・。」

 頭に上った血が急激に冷える。見られていただけでは無かったのだ。証拠が、ある。
 春歌の心臓がどくどくと大きく振動する。

 「イヤなら別にイイんだよ? 俺は困らないからさ。週刊誌に売り込みに行くより、日向先生にでも言った方が社長の耳に入ってイイかなぁ。黒崎先輩、どうなるなんだろうね、もう新しい番組も始まってるのにさ。あはは。」

 愕然とする春歌の耳に、音也の笑い声が虚しく響く。
 いつもと変わらない屈託のない声。なのにどうして、どうしていつもの音也と同じ人間だと思えないのか。

 これは夢なのだろか。あまりにも突飛過ぎてリアリティがない。だけど、さっきキスを交わした愛する男は、確かに自分を抱きしめ、次に又会えると言ってくれた。だとしたら、この目の前に居る音也の容貌をした見知らぬ男は、やはり自分の友達なのか。

 どうしてこんなコトになったのか判らない。自分がどこで選び取る道を間違えたのか思いつかない。春歌は焦り、とにかく逃げ出そうと立とうとするが、音也の下半身が春歌の上にどっかりと乗っかり、身動きが取れない。

 「ほーら。黙ってちゃ、わかんないよ。七海の好きな方を選べばイイんだって。脱ぐ? それとも、黒崎先輩の芸能人生命、潰したい?」

 悪戯を企む子供のような目で春歌の返事を待つ音也の声は、既に小動物を甚振る獣のそれだった。

 
 それを認識し、痛みと恐怖、そして、蘭丸に被害が及ばない事だけを考えすっかり混乱した春歌は、ガクガクと震える膝を必死になだめながら、為す術もなく服を脱ぎ始めた。
 蘭丸を守る為にはこれしかない。自分さえ我慢すれば、蘭丸は今まで通り、そして、自分と蘭丸の仲も今まで通りなのだ。

 それだけを信じ、震える手でブラウスのボタンを外していく。

 「ねえ、なんで後ろ向いちゃうのさ~。ま、いっか。俺は脱き方までは言ってないんだしね。ソコはしょうがないか。」

 きゃらきゃらと無邪気に笑う声に絶望を感じながら、春歌は下着だけになった。
 そこから先に、どうしても手が進まない。

 まだブラを外してないのに、両手で胸を隠しながら音也の方を見る。

 「音也くん、お願い。もう、これで許して。お願いだから。」

 長い事使われていないような机の端に腰掛け、足をぶらつかせながら自分を見る音也に向かって、春歌は訴求した。

 「お願いだから。他の事なら、私に出来るコトなら何でもするから、だから・・・!」

 「イヤだよ。」
 
 冷たい返答が春歌の言葉を止める。

 「七海。俺、七海のコト大好きだよ。だから、あんまり怒らせないでよ。時間稼ぎしてるなら、俺も考え直すよ?」

 春歌は息を飲んだ。

 「あ、それフロントホックなんだね! カワイイ模様だね~!早く外してよ。ああもう、早く見たいなぁ。・・・ねえねえ、これ以上待たせるなら、今すぐこのカメラ、誰かのパソコンに繋いじゃうよ。」

 さっきと打って変って、いつもの調子でニコニコしながら春歌を見る。春歌は、音也が本気だと思った。この駆け引きを緩めるつもりなど全くないのだと。
 
 泣きそうになりながら、覚悟を決めて春歌はブラのホックを外した。

 その瞬間何かが光り、それがカメラのフラッシュだと気付いた春歌は、外れかけの下着も構わず発作的に音也に詰め寄った。

 「な、やめて! 返して、今撮った写真消して! 音也く」

 だがカメラを奪い取ろうとした腕を簡単に取られ、後ろ手にぐいっと捻られた。そのまま机に押し付けられ、背中に伸し掛かられる。

 「きゃあっ! 痛い! 痛いやめて!」

 「乱暴にされたいの? あんまり怒らせないでよ。」

 「痛い、痛い、やめて!」

 春歌の悲鳴のような声にも態度を変えず、音也は益々腕にぎりっと力を込める。

 「きゃあああああああああ!」

 絶叫。有り得ない程の痛みに、春歌は思わず叫び声を上げた。音也が春歌の背中に乗ったまま、腕だけを解放する。だが激痛はすぐに消える訳もなく、あっという間に恐怖心が心を塗り潰す。

 「まったく。服脱ぐのに何時間かかってんだよ。まぁいいや、俺が脱がすから。」

 「やめ、やめ、て・・・・!」

 音也は無言で春歌の下着を引き剥がし、春歌はまだ腕の痛みと恐怖で満足に逃げる事も出来ない。

 「ほらぁ、言わなくてイイの? 俺に抱いてほしいって。」

 裸にされ怯える春歌の体を自分に向き合わせ、信じられないような冷えた声で、音也が言い放つ。
 
 「・・・ふぅん。カウントダウンだなぁ・・・あと10秒しか、待たないよ。じゅーう、きゅーう・・・。」

 残酷な数字の羅列が春歌にぐさぐさと突き刺さって行く。溢れ出る涙と、脳裏に浮かぶ蘭丸の優しい顔が、春歌をズタズタに切り裂いていく。

 「さーん、にー・・・」

 「やめてっ、言うから、今言うからっ・・・・!」

 涙に咽ぶ春歌の悲痛な声を聞いた音也がカウントを止め、薄っすらと笑った。



 

    


                                          
                  To be continued・・・・・・・







 
 

 

Fire Works  4

 
 
 
 自室のベッドに潜り込み、溢れ出る涙をシーツで拭いながら、春歌は声を殺して泣いた。

 やっと音也から解放され、ぼろぼろの心と体を引き摺って帰って来た部屋でシャワーを浴びた。何も考えられない状態で髪を乾かし、部屋着でベッドに潜り込んだ途端に、堰を切って流れ出した涙で、何もかもが流れてしまえばいいと、このまま自分すら消えてしまいと泣いた。頭ががんがんする。

 「なんだよ、グショグショじゃん七海。すんげーやらしい音してる。俺の、どう? 黒崎先輩のより、気持ちイイ?」
 
 涙を流しながら小さな声で抱いてと口にした春歌に、壁に手をついて尻を突き出すように命じた音也は、愛撫もせずにいきなり挿入してきた。
 それでもすぐに音也の動きに合わせて、ぐちゅっぐちゅっと派手な音をたて始めた春歌を嘲笑しながら責め立てた。春歌は必死で唇を噛み耐えていたが、音也はそれが気に入らなかったようだ。

 「なんで声ガマンするのさ。七海のカワイイ声、俺にも聞かせてよ。あいつには、こうやって突っ込まれて、散々喘いでよがるトコ見せてんだろ! ほら、声上げろよ!」

 ぱしん! と尻をぶたれ、春歌は思わずひっ! っと息を飲む。
 ばちん、ばちんと連続して尻を打つ音也の止まない手に、春歌は叫んだ。

 「やめてっ・・・ああああああん!」

 春歌が耐えきれず口を開いた瞬間、音也が腰を抱え直し一層深く春歌の中を突き上げた。そのまま勢い良く追い詰めるようにピストンする。

 「あああっ、あん、あん、ああん!」

 「ああっ・・・七海っ・・・俺の方が、絶対七海のことっ・・・!」

 自分の腰を掴む音也が泣いているのかと思ったが、それすら掻き消す程に激しい挿送に、春歌は甘く大きな声をあげ、最後には崩れ堕ちたのだった。

 

 (蘭丸先輩・・・。)

 春歌はベッドで泣きながら、蘭丸の優しい手を思い出す。髪を撫で、肩を抱いてくれる優しい手。自分を膝に乗せ、抱き締める逞しくて優しい腕を思い出し、胸が張り裂けそうになる。

 その時、ケータイの着信音が聞こえた。
 ベッドの傍の小さなテーブルの上に置いてあったバッグの中のケータイが春歌を呼んでいる。

 我に返り急いで電話を手にした。

 (蘭丸先輩・・・!!)

 なぜ、どうして今なのか。だが、待たせる訳にはいかない。一瞬で覚悟を決めて通話ボタンを押した。

 「おせーよ。なんかやってたのか。」

 「あ、いえごめんなさ・・・。」

 いつもと変わらない蘭丸の声を聞いた瞬間、涙がどっと溢れ、声が詰まってしまい、春歌は咄嗟に口を手で塞いだ。

 
 知られたくない。知られる訳にはいかないのだ、絶対に。あんな事を、絶対に。

 「何だ? 泣いてんのか? 何かあったのか? どした。」

 (先輩・・・ダメ、優しい言葉を、言わないで!)

 心配している様子で尋ねる蘭丸に、胸を大きな鋏でざっくり切り刻まれたかのような痛みを覚え、震える手と声を必死で抑え、春歌は嘘をついた。

 「今、すごく悲しい映画を見てて、私、わんわん泣いちゃってたんです・・・。」

 必死の嘘。自分でも何て気の利かない嘘かと思う。しかしそれしか思い浮かばず、とにかく誤魔化すしかないと祈るような気持ちで蘭丸と会話する。

 「はぁ? ・・・心配して損したぜ。」

 「あ・・・ごめっ・・ぐすっ、ごめんなさいっ・・・。」

 「別にいいがな、そんなこと。ちゃんと曲作ってんのか?」

 「はい。」

 「そか。なんか撮影に来たトコロがよ、すげー景色が綺麗でお前に見せたかったなー・・・って・・・何言ってんだ俺? ま、まぁちっと声が聞きたかったんだよ、そんだけだ、じゃぁな。」

 「蘭丸先輩・・・!」

 「あ?」

 「あっ・・・あ、あの、ごめんなさい・・・。」

 「は? 何謝ってんだ?」

 「ごめんなさ・・・切ろうとしたのに・・・。」

 「ああ、別に。そんな泣きじゃくってちゃ話になんねーだろ。俺はお前の声が一瞬でも聞けたなら、それで・・・。」

 照れているのが気配で判る。彼は今までも、単に忙しくて会えない日はそうでもないが、遠出の撮影やライブ遠征で数日に亘り不在にする時は、こうして電話をくれる事があった。

 「ああそうだ、ちと長引きそうで、3日位かかりそうだ。用はそんだけだ。じゃな。」

 優しい蘭丸に、千切れそうな胸の痛みを全部ぶつけて飛び込めたらどんなに楽だろう。だけど出来ない。どんな理由であれ音也に抱かれた自分に、そんな資格など無いのだ。

 「ごめんなさい・・蘭丸先輩・・おやすみなさい・・・。」

 「ああ、早めに寝ろよ。」

 確実に通話が切れた事を確認し、ギリギリ誤魔化せたのかとほっとしながら携帯電話をバッグに仕舞い直すと、春歌は今度は大声をあげて泣きじゃくった。後から後から涙は頬を濡らし、絶望と喪失に打ちのめされながら、春歌は夜明け近くまでそうしていた。


 
 2日後。
 
 それでも仕事の締め切りはやってくる。自分はプロだ。何があっても受けた仕事はこなさなければならない。春歌は必死にピアノを奏で、打ちこみに没頭していた。
 
 作っている間だけは悲惨な記憶を消していられたせいか、寝食を忘れ仕事に専念した。締め切り迄まだ数日あるが、そんな事は関係無かった。ただ、忘れていられる何かに縋りたかった。

 普段の自分なら、半分寝てても1時間で手直しが終わり完成。夕方遅く、そこまで作曲が進んだ時、玄関のチャイムが鳴った。

 (誰だろ・・・友ちゃんかなぁ・・・?)

 いきなり連絡もなく部屋に来るのは、学園時代に同室が縁で親友としてつきあい続けている友千香と、蘭丸くらいのものだ。
 とにもかくにもここが早乙女事務所の寮である以上、基本的に不審者は勿論、関係者以外が敷地内に入れない。宅配便業者すら管理人室で足止めだ。春歌は返事をしながらドアを開けた。

 「――――――――!」

 「やっぱり居た~。撮影早く終わったからさ。こないだ、撮影が早く終わったら遊ぼうって言ったろ。メールする時間も勿体無くて来ちゃった。早く七海に会いたくって!」

 明るい声。明るい笑顔。学園時代と変わらない太陽のような音也が、そこに居た。
 いつもみたいに自分の言いたい事をぱーっと並べて話す彼を前に、春歌は時間が止まった。

 「どうして・・・。」

 「入るよ~。お邪魔しま~す!」

 ドアを閉めた音也が、そのまま春歌に口づける

 「!!」

 一瞬何が起こったのか判らなかったが、それでももがいた春歌をきつく抱きしめ、音也はそのまま舌を差し入れ春歌の口内を舐め尽していく。
 暫くしてやっとキスをやめた音也は、そのまま春歌を引っ張る様にリビングへ行き、ソファにどかっと座った。

 「離して!」

 「おっと。」

 逃げようとした体を強く抱え込む音也の腕は、しっかりと春歌の逃げ道を塞ぐように巻きついていた。

 「聞いたよ。あいつ、撮影延期で明日まで帰ってこれないんだってね。七海が寂しいだろうな~って思って、俺、慰めに来てあげたよ。」

 音也の笑顔が怖くて仕方が無い。
 何をされるのか予想がついて、生々しい記憶が背筋を這い上ってくる。

 「男はさ、すぐ溜まっちゃうんだよね。」

 言いながらカットソーを捲り上げようとする音也の手から逃れようと体を動かす。
 
 「やめてっ!」

 嫌悪感を露わにした春歌の声に、音也の動きが止まった。
 直後、人が変わったような鈍い光を瞳に宿らせて、音也はゆっくりと言った。

 「俺にそんなコト言っていいのかなぁ。」

 「・・・・・。」
 
 怖い。怖い。逃げ出したい。もうあんな思いをするなんて嫌だ。私を逃がして。
 心底訴えたいのに、どれ一つとして実際言葉にすることが出来ない。どす黒い酩酊感が春歌を襲う。

 「忘れちゃった? あの写真、どう見ても、七海が自分でブラ外してるようにしか見えないよね~って実際そうなんだけど。あんな写真、当然<そういう仲>じゃなきゃ、撮れないと思わない?」

 音也は携帯電話を操作しながら、喉をくつくつと鳴らす。

 「七海がぁ、自分でぇ、俺の前で裸になろうとしてるって写真。」

 音也が携帯の画面を春歌に突き付けた。
 初めて見せられた決定的な音也のこの放漫さの種。物証。映像に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
 
 「こ~んな写真、黒崎先輩が見たらどう思うんだろうね~? あはは、アハハハハハハハハ! 最っ高でしょ。先輩ヅラしてるあいつから君を奪い取るのに使ったら、面白いと思わない? あははははははは!」

 「や、やめて・・・やめて、おねがっ・・・やめてぇっ!!」

 顔を覆い泣き出した春歌の耳をつんざく音也の笑い声は終わらない。

 「あいつにこの写真、見られたくないの? へ~え。なのに、俺が溜まってるって言ってんのに、拒むんだ? ほんとに判ってないんだから七海は。」

 ぐいっと春歌を引き寄せ

 「あのね、七海はもう俺の命令に逆らえないんだよ。今更、絶対に逃がさないからね。ほぉら、わかったら俺の、しゃぶって。」
 
 「えっ・・・。」

 「これだよ。判ってるでしょ。」

 言いながら、春歌の手を自分の局部に宛がう。すでにそこは固さを帯びていた。春歌はゆっくり音也を見る。何を言ってるか判らないという春歌の表情に、音也はおどけたように呆れた声を出す。

 「まさかアイツ、させてないの? うっそ意外。ふーん、人は見かけに寄らないねえ。」

 「え・・・?」

 目を丸くして大袈裟に驚いて見せる音也を、春歌は訝る。音也はすぐにいつもの子供のような笑顔を浮かべた。
 
 「でも、それって何かイイかも。俺が初めて君に教えてあげる男ってコトだもんね。あのね、今から七海は、俺のこれを口でしゃぶって、俺を気持ち良くさせてくれるの。じゃあまずは、ベルト外してもらおっかな。」

 声が出ない。
 何を言われているのか判らない。蘭丸相手にさえした事の無い行為を、音也にするという局面が信じられない。ゆっくり首を横に振る春歌を、音也はソファから滑り落とし、嫌がるその顔を自分の股間に押し付けた。

 「も~わかんない子だなあ。あいつがどんな目に遭ってもイイわけ? バラされたくなかったら、俺の言うこと聞くしかな・い・の。何回言わせる気。またお尻叩かれたい?」

 「いや・・・いやっ・・・。」
 
 「あははっ、あの時もそうやってイヤがってたけど、アソコどろどろだったよ。おまけに、お尻叩いたら、きゅっと締めるんだもん、イヤラシイったらなかったよ。ほら、淫乱な七海にお似合いだよ、男に口でご奉仕するのはさ。早くしなよ。」

 音也が、自分を甚振って面白がってると春歌は思い知った。
 そんな相手に決定的な弱みを握られているという事が一体どういうの事なのか、春歌は身をもって知り、どん底へ落とされた気持ちで、力なく音也のベルトに手をかけた。

 取り出した音也の性器は既に反り返り固く勃ち上がっており、春歌は息を飲む。
 これを口に含むなど、想像しただけで吐き気がする。愛してもない男のモノに、そんな行為が出来ようか。震える唇で、春歌は音也に言った。

 「ごめ、なさ、できな・・・っっ!?」

 目を背けながら拒否の言葉を吐く春歌の頭を音也は片手で抑えつけ、もう片方の手で突然鼻を抓んだ。

 「出来ないじゃなくて、やるんだよ。こんなになってるのに放っておく気? ま、初めてだから大目に見て俺も手伝ってあげるよ。ふふ、このまま息出来なきゃ、口開けるしかないもんねぇ。」

 「っ!」

 突然だったので、当然すぐに呼吸が辛くなる。春歌は我慢できずに口を開けた。

 「んんん!!」

 途端、性器を口の中に押し込まれる。嫌悪感で涙が滲む。

 「歯を立てたら、後で酷い目に合わせるからね・・・まずは、ゆっくり舐めるんだよ。」

 「うう。」

 酷い目。音也はその言葉で、春歌の抵抗心を一気に潰しにかかる術に長けていた。
 音也に頭を動かされるままに、春歌は眉を顰めながら唇で音也のものを扱いた。

 口一杯に頬張らせられた音也の先端から、水っぽい粘液が染み出て来たのを感じ取り、春歌は思わず咽そうになった。

 (いや・・・いや・・・!)

 心の中が叫ぶ。だが、雁字搦めに囚われた体も精神も、もうこのまま音也の言う通りにするしか道がないと諦め始めていた。

 音也は、自分と蘭丸を不幸にする決定的な証拠を持っている。自分1人が汚れるだけで済むなら、せめて蘭丸を護る為、どんな辱めにも堪えようと、その決意だけが彼女の正気を保持させていた。
 
 明日になれば蘭丸が帰ってくる。蘭丸が帰ってきたら、おいそれと音也も手は出すまい。それだけを救いと見て、春歌は必死に、音也の指示通りに舌を動かす。
 
 「美味しい? 七海。どう、上の口で初めて咥えるちんぽの味はさ。」
 
 からかうように問う音也に答えることが出来ない。口一杯に彼の性器が入っているのだから当然だが、今は例えそのせいであっても、彼の質問に答えないで済む事に、ほんの少し助かったような気さえする。

 散々頭を動かされ、時に髪を掴まれて、乱暴に自分の腰を動かす音也に耐えながら、どのくらい口淫させられていたのか。音也の息が荒くなり、腰が大きく揺れ出した。

 「ああ、たまんないよ七海・・・。」

 うっとりと音也が呟く。

 「俺の咥えてる七海の顔、ゾクゾクするよ。もっと苛めてあげる。もっともっと、めちゃくちゃにしてあげるからね・・・あ、あっ、出そう・・・全部飲んでっ。1滴でもこぼしたらお仕置きだよ・・・あ、出るっ・・・!」

 音也がぐっと腰ごと口に突き入れ、春歌の喉の奥に射精した。
 出された精液を泣きながら飲み干した春歌は、すべてが抜け落ちたような顔で、物も言わずに座り込んだまま涙を流していた。

 息をついた音也が、そっとその涙を拭う。
 春歌は彼の手を、振り払う気力すら残っていなかった。

 「可愛い・・・スゴク可愛いよ、七海・・・大好きだ・・・。」

 春歌の額に、涙の流れ続ける頬に、触れるだけのキスをしながら音也が夢見心地で囁くのを、春歌は不思議な気持ちで聞いていた。

 音也が自分を好きだと言うのは、本心だと思う。それだけはどうしてか信じられた。
 なのに、なぜこんな酷い事をするのだろう。そこが全く不思議でならない。好きな相手が嫌がる事を、どうしてああも笑顔でこなせるのか、春歌には微塵も見当がつかない。

 もしかしたら、音也はフラれたショックで一時的に錯乱めいているのだろうか。
 だから時間がたてば、ちゃんと元の音也に戻ってくれるのではないだろうか。蘭丸が居ないからこんな事になっているだけで、音也だって、蘭丸を目の前にしたら何もして来なくなるのではないだろうか。

 もしかしたら、心の中では、自分の非道を詫びているのかもしれない。
 
 芯のぼやけた脳でそこまで考えた時、音也が春歌の手を取り立ちあがらせた。

 
 「さ、出掛けよう。」

 「えっ。」

 「○○遊園地、今、ウォータムイルミネーションとかで、夜すっごい綺麗らしいんだ。俺さ、七海と2人きりで行きたかったんだよね~! さぁ、行くよ。今日は本当は、それに誘うのをメインで来たんだよ!」

 この、突然人が変わったようにコロコロと空気の変わる音也に、春歌は心底面食らっていた。
 蘭丸が出掛けたあの日から、これの繰り返しだ。一体どれが本当の音也なのかわからない。だからこそ、春歌は、音也がショックで錯乱しているのではないかと推測したのだ。

 だとしたら、そんな風にさせたのはやはり自分なのか。
 知らないふりをして、音也を不用意に傷つけた自分が悪いのか。

 「七海?」

 身を屈め、春歌の顔を覗き込む無邪気な目に、春歌は驚いて1歩後ろに下がった。
 だが音也は、ニッコリと笑って春歌の手を握り、さあ行こうと、はしゃいだ様子で春歌を部屋から連れ出したのだった。

 

 
                   
                 5へ続きます ♪





 

 

Fire Works 5

 
 

 夜の遊園地は、なるほど音也の言った通りきらびやかな電飾に彩られ、クリスマスさながら不夜城の輝きに満ちていた。

 この遊園地は人気の観光スポットだった。
 大きな遊園地を中心に、広大な面積を誇るアウトレットパークがあり、ファミリー向け、カップル向けにそれぞれ幾つかのホテルも並んでいる一大レジャー施設だ。週末は当然だが、平日でもそれなりの集客を誇る定番のデートコースだ。

 タクシーで遊園地に着くと、音也は春歌をまずレストランに連れて行った。
 園内でも人気の高い、予約優先制の小洒落たレストランで、平日だと言うのに入口には既に待ち時間が表示されていた。音也が、春歌を入口に待たせて受付で何か2,3話すと、そのまま個室風に区切られたテーブルへ案内された。
 
 春歌はどうしてすんなり入れるのかと多少怪訝に思ったが、完全な密室でない席に安堵し、運ばれてきた水を一口飲んだ。

 落ち着いた雰囲気ではあるが、会話や食器の音で溢れる店内が、急にはっきり輪郭を描き出す。

 正面の席からじっと春歌の顔をみた音也が、少し笑って自分の頬をつつき春歌に小声で告げた。

 「涙の跡、ついちゃってる。顔洗っておいで。料理はもうコースで頼んであるから。」

 久々の人混みの中、どうしても鏡で顔を確認したくなった春歌は、そそくさとパウダールームに移動した。
 
 戻って来るとワインが用意されていた。
 躊躇ったが、既にグラスに注がれていた為、申し訳程度に口をつけた。

 (甘い・・・。)

 思いの外口にあい、春歌はもう一口飲む。

 「このワイン、甘いねえ。美味しい。もっと飲みなよ~。」

 音也に促されたからという訳ではないが、美味しいと思うと、自然にグラスの中味が減って行った。

 「ワインってさ、赤と、白とえっと・・・。」

 グラスを揺らし、中の透明に近い琥珀色を揺らしながら音也が歌うように話す。

 家を出る直前から、学園時代と寸分違わぬ音也だった。
 持ち前の明るさで楽しい話題を次々と取りだし、陽気に話す。それを目の当たりにしていると、あんな酷い事をされたにも関わらず、昔と同じだと錯覚してしまう自分が居た。
 
 それが自分の気持ちの影すら少し取り払ったのか、丸2日食事を取っていなかったのを思い出し、運ばれてきたコンソメスープの透き通った色に喉が鳴る。

 「料理どんどん来るから、どんどん食べなね。」

 そう言いながら音也もあっという間にスープを平らげ、籠に盛られたパンに手を伸ばす。
 春歌も、食べ出したが最後、口当たりのいいワインをおかわりしながら、出てくる皿を次々きれいにしていく。

 「パーティ、って感じするね。こんなトコで、豪華で美味しいモノ食べてさ。」

 大きな海老のソテーを、ガーリックとローストオニオンの効いたソースで頬張りながら、音也が言う。

 パーティというよりは、記念日という方がしっくりくるレストランだと思いながら、春歌はすっかり食事に夢中になっていたので適当に頷いた。
 
 素直に美味しいと思う。食事ができるうちは大丈夫。どこかで誰かが言っていた台詞を思い出す。

 自分は大丈夫らしい。なんだか滑稽だと苦笑しそうになった春歌も、ペロリと海老を食べ終えた。

 
 
 「さっきはゴメンね。俺、今日はホントに、ココへ来るつもりで君の部屋に行ったんだよ。」

 春歌が肉料理を食べ終わると、同じ料理をとっくに食べ終え、おかわりしたパンに手をつけている音也がぽつりと言った。

 「・・・・音也くん。」

 「だけど、君の顔見たら、ガマン出来ずにキスしちゃったんだ・・・。それで、キスしたら、どうしてもそれじゃ収まらなくなっちゃって・・・。」

 許して貰えるのを前提に謝る子供のように、少しはにかんだ笑顔を向けながら音也が言い訳する。

 音也は、これでもう自分を解放してくれるのかもしれない。春歌はそう思った。
 
 明日には蘭丸が帰ってくる。
 タクシーの中で音也が、明日の蘭丸の帰りはどんなに早くても夜になると事務所の人間に聞いたと教えてくれた時、それでも蘭丸が帰って来ることで、少なくとも音也からは解放されると思ったのだが、それを待たずして自分は自由になれるかもしれないと思った。

 共に食事をし、自分の想像は正しいかもしれないと、春歌は淡い期待を持つ。
 
 長い事好きだった相手に抱いていた幻想が、ある日突然音を立てて崩れたのだ。ショックで一時的に自分を失っていただけなのだ。だから、後悔してくれて、申し訳ないと思ってくれて、お詫びのつもりでここへ連れて来てくれたのだ。
  
 それなら、レストランを予約してあったのも納得できる。謝罪のつもりで予約はしてあったのだから、彼の言うように、ドアを開けた途端自分の顔を見てまた一瞬悪い心に負けただけだったのだ。

 デザートが運ばれてきた。
 可愛らしく凝った飴細工が施されたアイスクリームに、思わず春歌の顔が綻ぶ。その時点で、ワインの酔いが回っているかもしれないと自覚する頭も、あった。

 音也の謝罪には安心できる何かがあった。話の筋が通っていたし、少なくとも今、ここでこうして他人の中で食事をしている。それは紛れもない常識。日常だ。

 何より、明日は蘭丸が帰ってくる。春歌にとって、これほど心強いことはなかった。

 様々ないくつかの理由が、春歌の期待に現実味を帯びさせる。
 食事をしたせいか体も温まっており、ぼんやりとした心地良さと、女心をくすぐるデザインのアイスクリームに、春歌は何日ぶりかの穏やかな精神状態を取り戻していた。

 「七海、やっと笑ってくれた。」

 音也が、ほっとしたようにデザートスプーンを手に取った。
 
 「ねえねえ、これ、飴なんだね。ん、美味しい! 七海も早く食べなよぅ。」
 
 「うん。」

 ようやく心にそれなりの落ち着きを取り戻した春歌は、音也と少し言葉を交わしながらアイスクリームを食べた。
 お腹一杯だね! とニコニコする音也から、大会場でのライブ出演が新しく決まりそうだという話を少し聞いて、春歌はもう一度パウダールームへと席を立った。

 (結構、酔ったのかな・・・。体があっつい・・・ああ、やっぱり顔が赤い・・・)

 パウダールームの鏡に映る自分を眺め、春歌は、明日帰ってくる蘭丸を想い浮かべた。

 何故か不意に、蘭丸の舌や、自分を甘く責める彼の固い情欲の感触を思い出し、春歌は無意識に内股を擦り合わせた。
 意図せずかっとなった体に戸惑うと同時、音也との陰惨な記憶も蘇る。

 (大丈夫・・・悪い夢だったと思って、全部忘れよう。蘭丸先輩が帰ってくればもう大丈夫。音也くんだって、ああやって謝ってくれたんだもの。もう酷い事なんてしないはず。ううん、蘭丸先輩がいるんだし。)

 そう。学園時代の音也は、優しくて明るい、純真さで出来ているような人物だった。
 
 (私が悪かったんだ。音也くんの気持ちに気付かないフリをしていたから。今度からは距離を置いてつきあおう。嫌な記憶は一生懸命忘れよう)

 忘れられるわけがない、とチラリと心に過る暗い思いを封じ込め、春歌は席へ戻った。

 席へ戻ると、すっかり皿が片付けられており
 
 「ああ、来たね。さ、行こう。」

 さっと席を立つ音也について出口に向かう。席を離れながら音也が何かをポケットに入れたのに気付いたが、そんな些細な事はどうでも良い事だと春歌は思った。

 店を出ると、音也は春歌の手を繋ぎ、所々に配されたオブジェを見ながら歩いた。
 周りに人は大勢いたが、雰囲気を出す為に電飾の数を極端に減らしてある道を選んで音也が進む為か、2人の世界に没頭中のカップルばかりで、誰も音也と春歌を気にしていなかった。学園時代の話になると、春歌は更に穏やかな気持ちになれた。

 「あの時のマサ、すっごい面白かったよね。」

 「うん、面白かったね。」

 なんとかそれなりの会話を音也と交わせる事が嬉しくて、春歌は音也に繋がれた手を離さずにいた。酔いのせいで少し足元が覚束ないのもあった。
 学園時代の話をしている音也は、まさにその時の彼そのもので、それが余計に春歌を安心させた。

 だから春歌は気付いた時には、大きな回転ドアの前に居て、疑問に思う間にそのドアをくぐり、豪華なシャンデリアの下がるエントランスを歩いていた。やっと、つい一瞬前まで身を置いていた日常がずれたと気付く。

 (ここ、ホテルだ・・・!)

 春歌が足を止める。
 
 何度かテレビで見た覚えがあった。ここは、園内隅にある人気のホテルのはずだ。印象的なロビーに記憶がある。それなりの宿泊費にも関わらず、園内にある便利さと豪華な設備がカップルに人気で、なかなか予約が取れないと聞いている。

 「どうしたの?」

 音也が、足を止めた春歌を振り返る。
 
 「音也くん、ココ・・・。」

 「いいから、早くおいでよ。」

 丁度やってきたエレベーターに背中を押されて乗り込まされた春歌は、機械的に閉まる扉を黙って見るしかなかった。小さな肩を、音也が抱き寄せる。
 
 「不安そうな顔しちゃって、可愛い・・・。」

 背中に腕を回し、自分の胸に閉じ込めるようにした春歌に、音也は愛おしそうに頬ずりをする。その間にも、エレベーターはどんどん上へ上がって行く。到着を知らせる電子音が鳴り響き、再びエレベーターのドアが開いた。音也の手が、さっきよりもきつく春歌の手を握り、廊下へ導く。

 混乱した春歌は、音也がポケットから取りだしたカードをひらひらさせながら

 「最上階はスイートが2室しかないんだって。部屋から見る夜景は、とっても綺麗らしいよ、楽しみだね。」

 と、楽しそうに言うのを、遠くの景色を見るような気持ちで眺めていた。

 音也の手がカードキーを差し込み、重そうな扉を開ける。部屋の灯りが廊下に洩れる。
 広々とした間口を音也に引っ張られながら進み、どこの豪邸のリビングかと思う部屋を横目に見る春歌を振り返りもせず、音也が進んだ先の扉を開けた。

 
 広い。
 広い部屋に、クイーンサイズだと思われる大きなベッドが置かれていた。

 
 「?」

 ベッドの端に、真斗が腰掛けていた。
 春歌は自分の目を疑った。
 なぜ、どうして、真斗がここにいるのか。皆目見当もつかない難題に、春歌は思考がこんがらがった。真斗の方も、何やら信じられないというような顔をしている。

 「一十木・・・。」

 「お待たせ~。」

 おどけた調子で音也が真斗に手を上げて見せる。

 「ほら、七海を連れて来たよ。信じてくれた? レストランありがとね~、すんごい美味しかったよ! 流石大財閥の御曹司、VIP待遇がスゴイんだもん! ねえ、七海も美味しかったよね、ね? マサにちゃんとお礼言ってよ。 」

 「ハル、お前・・・いや一十木、その・・・。」

 「わかってるって。もうっ、待ちなよ。さ、七海おいで。」

 「ちょっ、ちょっと待って!」

 手を伸ばした音也から退き、春歌はあまりに状況の掴めない不安で、怒鳴る様に捲し立てた。

 「何なの? 一体これはどういう・・・真斗くん、どうしてこんなトコロに? それに私、ホテルになんか泊まらない、帰るの、ねえ音也くん、帰して! どういうことなの!?」

 一気にまくしたてる春歌を軽く見降ろし、音也はぼふっと勢い良くリネンを弾ませベッドに座った。そして反対側に座っている真斗をちらと見る。

 「マサも、ずっと七海の事が好きだったんだよね。ね、マサ?」

 「一十木・・・! ハ、ハル、その、これは・・・!」

 おどおどと。後ろめたい事でもあるような態度で、真斗は歯切れの悪い対応をするばかりだ。

 「もー。ここまで来て何グズついてんのさマサ! 」

 少し荒げた声を真斗に投げ付けた後、音也は春歌に向き直って笑った。

 「あのね七海。う~んと簡単に言うと、俺ね、マサが七海のコト好きなの知ってたんだよ。だからね、マサが君を抱きたいだろうと思って、お膳立てしてあげるって言ったんだ。そしたらマサが乗って来たワケ。ま、当然だよね。マサずっと君の事好きだったんだもん。俺の気持ちにも気づいてなかった君だから、マサの気持ちも知らなかったろうけどね。」

 「一十木、俺はっ。」

 焦った様子で真斗が音也の言葉を遮る。傍らの春歌が気になって仕方が無いが、一歩踏み出しかねている。そんな様子だ。戸惑っている、そんな状況が見て取れる。
 
 真斗と春歌を交互に見比べ、音也はだるそうに背伸びをしながら話続ける。

 「マサ、いいの? 欲しいものが手に入るチャンスだよ。これを逃したら、2度と七海はマサの手に入らない。」

 そこまで言って、言葉も出ないほど驚き切っている春歌に手を伸ばし抱き抱え、ベッドに乗せる。

 「あっ、ヤメっ・・・!」
 
 咄嗟に振り払おうとした春歌の体を押さえ込み、音也が制する。

 「七海。マサに、俺に言った時とおんなじように、裸になっておねだりしてあげて。」

 真斗が驚く。春歌は、呼吸が止まった。

 「言わなきゃどうなるか・・・あれ、ばらされたくなきゃ、さっさとしなよ。もういい加減に待ったは無しだ。」

 低い声に春歌の背筋が凍る。その凍ったすぐから、意味ありげな熱がぞわぞわと全身に張られていくような奇妙な感覚も同時に彼女を包んだ。

 まただ。

 これは、さっきパウダールームで感じた妙な感覚だ。掴み所のない熱が、さっきよりも確実に自分の中を這い廻り始める。
 
 強要と異変に泣きそうな顔をする春歌を見て、真斗は思わず立ちあがり、音也を睨みつけた。
 
 「一十木、まさか、ハルを脅迫しているのか・・・? そうか、それでこんなホテルでも、ハルを連れて来るのは簡単だと・・・!」

 真斗がぎゅっと拳を握る。

 「ハル・・・済まない。俺は、お前をずっと好きだったんだ。」

 ひゅう、と音也が口笛を吹く。

 「俺は、お前に気持ちを伝えるにも勇気が出せず、つい、一十木が、お前に告白する場を用意してくれるという誘いに・・・。ただ、お前に気持ちを知ってほしかっただけなんだ。こんな事とは知らず・・・。ここを選んだのは、人目につかないようにする為だ、それだけだ。それは、一十木がそう言った時、俺も納得したのだ。」

 「もー。どうでもイイじゃんそんな言い訳。」

 声に少し棘が出たが、相変わらずのんびりとした調子で、音也が茶々を入れる。

 「うるさい。俺は、自分の気持ちを告げたかっただけだ。ハルにそんな、そんな、事を言えなど・・・そんなバカげた真似をさせる気は全く無い! ハル、何を脅されてるか知らんが、こんな茶番に付き合う必要はない。帰ろう。」

 春歌を音也から引き剥がそうと、反対側の端へ歩いてきた真斗は、ベッドに座って春歌を抱えている音也を睨みつけた。

 「一体どういうことかと思ったが、お前だからと言うとおりに動いてみれば・・・! 何をネタに脅しているのか知らんが、何にせよ許される事ではないぞ! なんという卑劣なっ・・・ハル!!」

 真斗の目が見開かれる。
 音也の腕に抱きとめられたまま、春歌が自分から薄手のセーターを脱ぎ捨て、涙の浮いたような潤んだ目で自分を見上げたからだった。

 「ハル、よせっ! 俺はそんなつもりはないのだ! 一十木に何を脅されてるか知らんが、大丈夫だ、そんな奴の言う事を聞く必要はない!」

 目を背けながら真斗が叫ぶ。虚ろな仕草でブラを外し、スカートのホックを外した春歌を、音也が面白そうに眺めている。

 「やっとお利口になったじゃん七海。そうそう、それでイイんだよ。俺の機嫌を損ねない方が賢いよ。さ、マサ、強情張らずに、ほら見てあげなよ~。見たいんでしょ。七海、意外と胸おっきいんだよ!」

 真斗は固まったまま動かなかった。
 
 音也の言葉通り、確かに学園時代から春歌に恋焦がれていた。
 
 昨日仕事場で偶然会った音也に、自分の思いを叶えたくないかと突然持ちかけられた時は、心底驚いた。
 秘めたつもりの自分の思いがバレていたという気恥ずかしさ。それが正常な判断力を鈍らせたとはいえ、ほんの少し、期待をした。

 願いが叶うなら、賭けてみたかった。
 ずっと募る思いを温めていた相手。気持ちを伝えたくとも、恋愛禁止の校則・社則。そして、振られた時の傷を想像し踏み出せない自分。あの時、それら全てを無視したくなる衝動にかられたのは何故だったのだろう。
 
 不透明な部分が多すぎると思いながらも音也の指示をそのまま受けたのは、それだけ春歌を好きだったからだが、それだけだったのか。今は解らない。

 勿論、大前提として至極真っ当なやり方だと思っていた。
 訳がわからないと思いつつも、まさか音也が春歌を脅迫しているなど、夢にも思わなかったのだ。

 「一十木、俺はっ・・・俺は、こんな卑怯なやり方で、しかも彼女の体を手に入れたい訳じゃない! 俺が欲しいのは彼女の心だ! こんな、こんな外道な真似・・・!」

 「七海、今日教えたでしょ。あれ、マサにしてあげて。早く、今すぐするんだよ。」

 「!?」

 ゆらりと動いた春歌が、豊かな胸を晒して目の前に立ったその光景に、真斗は例えようのない衝撃を受けていた。
 初めて見る愛する女の乳房に目が釘付けになる。先程ホックが外されたスカートも既に春歌の体にはなく、白いショーツだけが彼女の体を覆うたった1枚になっていた。

 恋焦がれた女の裸体で頭に血が上る。ぐらぐらに揺れていても、理性と正義感が、彼の底を支えていた。
 だがそれは、真斗の前に膝をつき、そっと彼の股間に白い指を這わせた春歌によって、脆く崩れる音がした。

 「なっ・・・・!」

 気付いた時には、真斗は後ろから音也に腕を縫いとめられていた。

 「離せ!」

 「だーめ。今から七海がイイコトしてくれるから。ってなんだよ、もうびんびんじゃん。あはは、七海のおっぱい、そんなに刺激強かった? 」

 「うぁっ・・・!」

 真斗が音也に気を取られている間に、春歌は真斗の猛り切ったモノを取り出していた。狼狽する彼のその先端に、春歌がそっと舌を這わし、細い指で根元をきゅっと握り、上下に擦った。

 「あ、あ・・・よせっ、ハル・・う、あっ!」

 竿の途中までをすっぽりと口に含まれ、真斗は呻いた。あまりの気持ちよさに、体の力が抜ける。音也がそれに気付き、にやにやしながら真斗に囁きかける。

 「マサ、ガマンしない方がいいよ? ずっと七海が欲しかったんだろ? 夢が叶うよ。」

 「うるさいっ・・・俺は、こんなこと・・・!」

 「望んでないって? どの口がそういうコト言うわけ? いっくら俺に言われたからって、告白するだけでしたーってホテルの部屋取っといて? ・・・・ありえないでしょ。」

 音也の、詰問するような最後の一言に、真斗の心が揺れた。

 「ホテルリザーブしておいて何もする気は無かったーなんて、通ると思ってるの。マサ、素直になりなよ。イイ子でいるのも時と場合に寄るんじゃない? 七海の体すっげー気持ちいいから。俺が、保証しちゃうよ。」

 「一十木、まさか・・・。」

 「ふふん、俺もね、七海のこと大好きだったからさ、どうしても欲しかったんだ。だから、ヤっちゃった。あ、でもねでもね、七海ってばビショビショに濡らしてすっごい気持ちよさそうにアンアン言ってくれてさぁ。ね~七海?」

 「んんっ、うん、気持ち、良かった・・・。」

 「ハル・・・!」

 真斗がたじろぐ。
 春歌が真斗の性器を舐めながら、上目遣いで甘い吐息を洩らしたからだ。
 とろんと潤んだ目に見つめられ、自分の性器に絡む赤い唇と、ざらつく舌の淫靡な様に喰われ、真斗の正常な思考能力が急速に劣化する。

 
 春歌は、自分の体が少しおかしいと思ったのも束の間、今や真斗に口淫することに夢中になっていった。どこにも触れられていないのに、とろとろと蜜が溢れてくる。それが余計に体の中心を煽る。
 何故だか判らない。体がかっかと勝手に神経温度を上げ、目の前の真斗の逞しい隆起が欲しくて、愛しくて堪らない。

 無我夢中で真斗にむしゃぶりつく春歌を見て、音也が笑う。

 「あ、やっとクスリ効いてきたのかな。もう効かないかと思ったよ~。部屋に入った時点ですっかりクスリの廻った七海が、マサの上で腰を振る姿を堪能する予定だったのになあ。」

 「・・クスリ・・・? 一十木、ハルになんてことを・・あっ。よせ、ハル・・・ダメ、だ・・・う。」

 「まぁいっか。美味しそうにマサのしゃぶってる七海も、すっごいエロくてイイね。」

 不透明だった事由が少しずつ透明になり、音也を許せないと怒りすら覚えながら、真斗は春歌を振り切ることが出来なかった。
 
 そんな余裕はとうになかった。
 
 どうして自分はあの時音也に頷いてしまったのか。
 どうしてこんな事になっているのか。
 春歌は一体何を根拠に音也に脅され、こんな目に遭わされているのか。

 音也に両肩を抑えつけられたまま、腰が砕けるような強烈な快感に、全ての疑問が思考から抜け落ちて行く。あっという間に真斗は堕ち、春歌の口内に勢い良く射精してしまった。

 「ぅあ・・・はあっ・・・っ・・。はあ・・。」

 「え、もう出ちゃったの? 早すぎるよ~。七海、マサのザーメン美味しい? 口開けてみな・・・うわ~マサ、溜まってたんだねえ。」

 ぐいっと親指で春歌の口をこじ開けた音也は、それにすら快感の吐息を洩らした春歌に、薬の効果が出ていると確信した。
 
 「口に出してもらったら、ちゃんと全部飲むんだよ。・・・ふふっ、そうそう、可愛いねえ。イイ子だ。よしよし。」

 焦点の合わない目で口の中の粘液を嚥下する春歌の頭を撫でる音也は、本当に嬉しそうだった。

 呆然として、よろよろとベッドに座り込んだ真斗は、そんな光景を奇怪な絵巻物のように感じていた。

 後悔。懺悔。自己嫌悪。汚らしいものが次々と心を塗り潰していく。
 
 同時に、もっともっと気持ち良くなりたい。今なら惚れた女が手に入る。このまま春歌を犯し、春歌をもっと自分の好き勝手にしたい。断ち切りたいどす黒い欲望が、叫び出したい程に沸き起こる。

 「さ、朝までじっくり楽しもうよ、3人でさ。どんなことしよっか。ねえ、マサ?」

 楽しんでいるのか蔑んでいるのか判断のつかない音也の声が響く。

 「こら七海、ぼんやりしてちゃダメだろ。マサの、舐めてキレイにしてあげなきゃ。」

 音也に指示され、荒く甘さを孕んだ息遣いで自分に近づいてきた春歌を、真斗は拒めなかった。

 音也が嗤う。

 「パーティは、これからだよ。」






                   To Be Continued・・・・・・・










 

 

 
プロフィール

みるくあずき2

Author:みるくあずき2
成人。
主婦。母。妻。嫁。娘。事務員。など。

本家ブログはアメブロ
http://ameblo.jp/milk15azuki
にて、乙女ゲームレビュー(感想・攻略? 雄叫び、乙女向けCDも愛聴)を書き綴っております。

乙女ゲ歴というかゲーム歴4年。
妻となり母となって大分経ってから見つけた趣味なので、遅咲きです。
遅咲きの狂い咲きってヤツですね。

本家ブログは只今リアル絶賛多忙中の為に気紛れゆるゆる更新です。コチラは元々気の向くままに進めています。

下のカテゴリからお好みのモノを選んで頂くと、連載は1話から読めます。

感想・お世辞は大歓迎ですが、苦情は受け付けられません。
鍵付きのコメントは、拍手コメントも含め一切の誤表示を防ぐ為、お返事は致しませんが、必ず読んでおります。励みになっております。有難うゴザイマス。
拍手とかコメントとか貰えると泣いちゃうくらい嬉しいですよ・・・。

鍵付きでは無いコメントは、拍手コメントも含め必ずお返事させて頂いております。
宜しくお願い致します。

只今うたプリだと トキ春 嶺春 蘭春 音春を筆頭にカミュ春や翔春、真春、レン春もございます。R18、オールNLとなりますので宜しくお願い致します。

だけど最近プリンスよりも先輩とかヘヴンズが好きだったり・・・。

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